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星の勇者  作者: アシラント
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公式戦 レイジvs昆布②

昆布はまるで悪魔に体を乗っ取られたかのように自分の体を傷つけ、高らかに笑い続けていた。そしてレイジは怒りと悲しみによって目に涙が浮かび始めた。


「昆布...頼む...。やめてくれ...。本当に、お前を失いたくないんだ。だから、頼むよ...。頼む...。」


レイジは涙を流して懇願した。しかし昆布は高らかに笑い続けるだけであった。そして昆布はレイジに言った。


「ああ、このまま、死ぬかもな。へへへへへ!!!それもいいかもな!!!!!死ぬぞ!!!!俺は今日死ぬぞ!!!!!レイジが俺の望みをかなえてくれないせいで、今日死ぬぞ!!!!!」


昆布は狂ったように笑い続けながら自身の血を周囲にぶちまけ続けていた。レイジは昆布の奇行に感情が極限まで高まり、そして、ドクン!と心臓が大きく跳ねた。その瞬間、レイジは自身の魂の中に意識を引っ張られた。


『...全く、心外だな。』


レイジの魂の中で声が聞こえた。真っ暗な空間の中、緑色に光る瞳を見つけた。その姿は黒い鎖に体を縛られた真っ赤に燃える大きな鳥の姿をしていた。それを見てレイジは気付いた。


「お前は...スザク!?」


『ああ。我の名を覚えていたか。レイジ。』


スザクは口を動かさず、直接魂に語り掛けてきた。レイジは一歩後ろへと下がり、警戒した。


「...スザク、お前が俺に話しかけてくるなんて、何を考えている?...やっぱり、お前は俺の敵なのか?」


レイジの質問にスザクはニヤリと笑った。


『その通りだ。我はお前の敵である。何しろ、我は幻獣であり、四神獣がひとりであるからな。お前とは必ず敵対する運命にあるだろう。』


スザクの回答にレイジは一層警戒心を抱いた。


「...やっぱり、お前は俺の敵なんだな。じゃあ、やっぱりバーニングレイジを発動するのは危険ってことじゃねーか。」


レイジの発言にスザクはため息をついた。


『...やはりそう勘違いしていたか。だから我は初めに言ったのだ。心外だとな。』


「心外...?どういう意味だ?」


レイジは眉をひそめた。スザクは少し不機嫌な様子で言い始めた。


『我が、貴様の体を乗っ取るだと?そんなことができれば、この体に封じ込められたときにすでにそうしている。そうだろう?』


「...確かに、そうだけど...。でも、バーニングレイジがそのカギになっているんじゃないのか?」


『...フッ。バーニングレイジをどんな技だと思っているのだ?そんな器用な技じゃない。まあいい。教えてやろう。お前がなぜバーニングレイジを発動して意識を失って暴走したのか。』


「知っているのか!?」


『ああ。この黒い鎖が見えるか?』


スザクは体を少し動かした。すると黒い鎖はチャリッという金属が軽くぶつかる音を鳴らした。レイジはその鎖を見た。


「...ああ、見えるが、これは...なんだ?スザクの能力...ではないな。何か、尋常じゃない魂を感じる...?」


レイジは鎖から放たれる、なぜか鳥肌が立つおぞましい魂の力を感じた。


『ああ。そうだ。これが悪さをしている。』


「これって、なんだ?なぜこんなにもおぞましさを感じるんだ?」


レイジの質問にスザクは苦い表情を浮かべた。


『これは...勇者の力だ。』


「勇者の...力だって...!?」


レイジは心底驚き、戸惑いを隠せなかった。スザクはうなずいた。


『ああ。我は勇者の力に支配され、意識を幽閉させられているのだ。ゆえに、我は普段、貴様と会話することすらできないのだ。』


「...それが、俺が話しかけても答えなかった理由か...?」


『ああ。その通りだ。』


スザクの言葉にレイジは考えた。


『スザクの言うこと、一体どこまで真実なんだ?確かに、この鎖からは何かしら良からぬ力を感じるのは事実だ。だが、これが勇者の力だという根拠が何もない。それに、この鎖があるからこそスザクは俺の体を乗っ取れずにいて、この鎖を解かせるのが狙いなのかもしれない。...クソッ、考えれば考えるほど訳が分からなくなる。』


レイジはスザクの話がどれだけ真実なのかわからず、頭を悩ませていた。その様子を察したスザクは話し始めた。


『...どうやら、我の話を信じられずにいるようだな。レイジ。フッ。まあ、わからんでもない。だがな、すべて真実だ。我は貴様を(だま)したりなどせぬ。何故なら、我は貴様のことを気に入っている。』


「...なんだと?」


レイジはスザクの意外な発言に眉をひそめた。スザクはフッと笑った。


『貴様が物心つく以前から、我は貴様の中にいる。囚われの身とはいえ、貴様の見たこと、聞いたこと、感じたこと、考えたこと、そのすべてが我の魂にも届いてくる。まあ、愛着というものだろうか?それらしき感情を抱いているのだ。』


「...え?なんか、複雑な気持ちなんだが...。というか、敵に考えていることが筒抜けって、俺もしかしてかなりまずい立場にいるのか?」


『フッ。案ずるな。すべてを理解しているわけではない。考えていることがぼんやりとわかる程度だな。例えば今なら貴様が我に対して疑心を抱いていることを理解できる程度だ。顔には表れない感情を読み取れる程度だな。』


「...それも、本当なのか信じがたいんだよなー。まあ、この際そこはどうでもいい。いろいろと聞きたいことが沢山あるが、とりあえず今一番聞きたいのはバーニングレイジを発動すると勇者の力に俺が飲み込まれるってのがスザクの言ってることなんだよな?それを解決する方法とかは分かっているのか?」


レイジの質問にスザクはフッと笑った。


『ああ。ある。それは、貴様が勇者の力を支配することだ。』


「勇者の力を...支配...?」


『ああ。ちなみに、貴様は無意識のうちにそれを使いこなしていた。』


「なんだと...?」


レイジは眉をひそめた。スザクは淡々と話し始めた。


『覚えていないか?貴様はチュー五郎とかいうやつにビビり散らかして泣きわめいて命乞いをしていた時、あの時に発動したバーニングレイジはコントロールできていた。そうだろう?』


スザクに聞かれてレイジは頭の片隅で思っていたことを言われて思った。


『...確かに、そこが気になっていた。何故あの時は俺はコントロールできたのか?その答えが見つからなかった。スザクはその答えを知っているのか?』


レイジはそう思った。スザクはレイジが答えを知りたがっていることをなんとなく感じ、ニヤニヤと笑った。


『答えを知りたそうだな。フッ。まあいい。教えてやろう。何故あの時コントロールできたのか。それは、貴様の魂の力が勇者の力を上回ったからだ。』


「俺の魂の力が...上回った?」


『ああ。...そもそも、貴様らは魂の力についてあまりにも知らなさすぎるのだ。仕方がないから教えてやろう。魂の力とは、人間が心と体が成長をすると共に成長する、次元を超えた力だ。』


「...次元を超えた...力?どういう意味だ?全く分からないぞ?」


『まあ、最初はそれでいい。頭の片隅にでも置いておけ。そして、魂の力を成長させるために、人間は進化を続けてきたのだ。』


「......?」


レイジはスザクの言っていることが全く理解できず、何も言えなかった。それでもスザクはお構いなしに話し始めた。


『人間が感じるすべての出来事は、魂が成長するための(かて)なのだ。痛みや苦しみや悲しみ、怒りなどの負の感情も、喜びや楽しさや嬉しさなどの正の感情も、魂が成長する糧なのだ。人間という生物は魂をより効率的に成長させるために、頭脳を高め、感情を得たのだ。』


「...はぁ。」


レイジは頭がエラーを吐きながらも何となくの相槌(あいづち)だけ打った。


『...つまりだ、貴様があの時勇者の力をコントロールできたのは、感情が(たかぶ)り、魂の力が成長を遂げ、一時的に勇者の力を上回ったからだ。...しかし、ブレイブとの戦闘ではその感情の昂りがなかった。ゆえに勇者の力に飲み込まれ、意識を失い暴走したのだ。』


スザクはレイジの聞きたいことをわかりやすく伝えた。それを聞いてレイジはハッとした。


「...なるほど。感情の高ぶりが大事ってことか。...それじゃあ、今は...!?」


レイジは昆布がやろうとしていることに気づいた。それを見てスザクはフッと笑った。


『そうだ。貴様の考えている通り、何故かは分からぬが昆布という男はそのことを知っているようだな。自身が傷つき、死にかけることで貴様の感情を昂らせ、バーニングレイジをコントロールさせようとしていたようだ。』


「...でも、どうしてだ?どうして昆布はそれを知っていた?それに、どうしてそんな命の危険を(おか)してまで俺にバーニングレイジをコントロールさせようとしたんだ?」


『...は?』


スザクは心底信じられないという気持ちがこもった一言が出た。レイジはそのスザクの一言に首を(かし)げた。


「な、なんだよ?なんでそんな反応をするんだ?」


『...いや、いい。まあ、すまない。...少し、驚いた。それよりも、もしバーニングレイジを発動させるのなら、一つだけ忠告がある。』


「忠告?」


『ああ。この黒い鎖に長い時間触れないことだ。我ですら意識を幽閉させられるほどの力だ。貴様では、持って1分といったところだ。それ以上のバーニングレイジ発動は控えろ。いいな?』


「...ああ。まあ、わかったけど、でも、俺はまだお前のことを信用したわけじゃない。まだ罠の可能性も捨ててないからな。今回は昆布を救うため...というか、昆布のわがままのような行動に付き合うために発動するだけだからな。」


『フッ。相変わらず警戒心の強い男だな。だが、それでいい。我を完全に信じ切る馬鹿ではないのが貴様の良いところだ。』


スザクはそう言って満足そうに笑った。そしてレイジは体が後ろへと引っ張られる感覚になり、スザクの姿が見えないほど遠くへ引っ張られた後、現実世界へと意識が戻った。そこは、レイジがスザクと話し始めてから1秒も()っていないようだった。


『あのスザクとの話し合いの時間は、現実だと1秒にも満たないのか。』


レイジはそのことを認識した。そして昆布に向かって言った。


「おい昆布!!!!!」


レイジの呼びかけに昆布は首を傾げ、瞬きもせずにジッと見つめてきた。


「どうしたんだ?レイジ?」


「...わかったよ。やるよ!!発動してやるよ!!!...バーニングレイジをよ!!!!!!」


そう言ってレイジは魂の奥から湧き上がる感情の炎を体中に流し込み、そして全身が炎に包まれながらバーニングレイジを発動させた。肌は焼き焦げたかのように黒く染まり、ひび割れた部分からマグマのように流れる真っ赤な光をにじませた。

 その姿を見た昆布は心底楽しそうに、そして嬉しそうに笑った。


「へへ、へへへへへ!!でへへへへへへへへへへ!!!!!!ひはは!!!ようやく発動してくれたかい!!?レイジ!!!?待ちわびたよぉ?じゃあ!!さっそく殺し合おっか!!!!!!」


昆布はそう言って右手を振り上げた。レイジはゆっくりと目を開けた。


『...意識は...ちゃんとある!!!暴走していない!!!...やっぱり、スザクの言ったことは間違っていなかったのか?...いや、今はいい。とりあえず今は、昆布をぶん殴ってこの勝負を終わらせる!!!』


レイジはそう心の中で思って名刀『憤怒の魂』を握りしめた。

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