公式戦 あんこvsコッケ
姉御とタイダイの試合が終わり、その後は特に見どころもなく淡々と進んでいき、ついにブレイブの試合が始まった。レイジはステージに上がって行くブレイブに声をかけた。
「おいブレイブ。...まあ、お前ほどの強さを持つ奴には必要のない言葉かもしれないが、頑張れよ。応援してるからな。」
レイジの言葉にブレイブはにっこりと嬉しそうに笑った。
「ああ!ありがとう!!レイジ君!!やっぱり友達に応援されると力が湧いてくるよ!!!」
ブレイブはそう言って上機嫌でステージに上がった。対戦相手は頭を剃ってツルツル頭になった武闘家の『モン・クー』が相手だった。モン・クーはブレイブに一礼をするとこぶしを握りすぐさま構えた。ブレイブも一礼を返して左手に剣を、右手に盾を装備して構えた。
「それでは、試合開始いいいいいいいい!!!」
マイクマンの宣言でステージはシールドに包まれた。そしてクーは「行きますよ!」と、野太い声を出しながらそう言ってブレイブに向かって行った。ブレイブはギリギリまで動かず、クーが間合いに入り拳を振りかぶった瞬間に、目にもとまらぬ速さで一歩踏み込み、右手の盾をクーの顔に当てて体勢を崩し、思いっきり腹を膝で蹴った。
「がっ...!??」
クーは顔に盾をあてられたことを認識した瞬間に腹にとてつもなく重たい一撃を喰らい、意識を失った。それを見てマスターブラックは勝負ありと決定してシールドを解いた。そしてマイクマンは宣言した。
「しょ、勝負ありいいいいいいいいいいいい!!!!勝者、ブレイブ選手!!!!!!」
そのあまりの決着の速さに会場は驚き、一瞬静寂が訪れたがぽつぽつと拍手が送られ、そして最終的には多くの拍手が両者に贈られた。ブレイブはクーの体を担ぎ上げて共にステージを降り、担架にクーを置いた。そしてレイジは勝ったブレイブに言った。
「さすがだな。ブレイブ。まさか一撃で沈めちまうなんて...。」
レイジに話しかけられてブレイブは少しだけ微笑んで答えた。
「ありがとう。まあ、僕は前々からこのマスタータウンには修行をしに来てたからね。モン・クーの強さとか戦い方は知ってたから勝てたんだよね。」
「なるほどな。まあ、それ以上にお前が普通に強いのもあると思うけどな。」
「へへへ。ありがと!」
ブレイブはそうお礼を言って会場から出て行った。そしてマイクマンが言った。
「さあ!続いての対戦はー?あんこ選手vsコッケ選手!!両選手ステージにお上がりくださーい!!」
マイクマンに呼ばれてあんこはウキウキしながらレイジに言った。
「次はついにあたしの番だよ!!うわー!ドキドキするなー!」
あんこは空中をルンルンとはしゃいで飛びながらそう言った。レイジはあんこの元気っぷりに少し気圧されながらも落ち着かせるように言った。
「おお。げ、元気だな。まあ、元気なのはいいことだが、あんまり張り切りすぎないようにな。多分あんこの方が強いだろうから、勢い余って大怪我とかさせないようにな。」
「うん!わかった!!ありがと!レイジ!」
あんこはレイジの忠告を聞いているのかいないのか分からない、ルンルンとした態度でそう言い、ステージを上がった。そして対面にはコッケ選手がいた。
「クックック!女の子が相手だとは、かわいそうにね。僕と戦うなんてね。」
コッケ選手はその特徴的な赤いモヒカンと、赤いひげを生やしており、まさにニワトリのような見た目だった。あんこはそれを見て言った。
「うわー!すっごくニワトリ!ニワトリ好きなの?」
「...お前も、ニワトリをバカにするのか?チキンだって言って、臆病者だとバカにするのか?許せない!」
コッケはあんこの無邪気な一言を侮辱されたと捉えて怒った。あんこは眉をひそめた。
「ええー?別にバカにしてないけどなー。でも、いいや!あたしもゴゴたちの戦いを見てなんかやる気出ちゃったし!本気で戦ってくれるならその方がいいや!」
あんこはそう言って神のへそくりである武器『ミュージアム』を取り出してヒシちゃん達を自身の体から取り出した。そしてコッケも自身の体から武器を取り出した。それは神のへそくり製の、中世ヨーロッパに出てくるような大きな盾を取り出した。
「クックック!これはシールドではありませんよ?盾の形をした武器ですよ。それをマスターブラックさんに説明してようやく持ち込みが可能になったからね。反則だとか馬鹿なことは言わないでよね?」
コッケは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。あんこはその話をすぐに信じた。
「そっかー!大変だったんだね!」
あんこのあまりの疑わなさにコッケは少し戸惑った。
「え?...本当に信じてるの?嘘かもとか思わないの?」
「え?嘘なの?」
「いや、本当だけど...でも嘘っぽいって思わなかった?」
「全然!」
「あ。そう。...それはー、あのー、なんか、ごめん。」
「いいよー!」
コッケはあんこの純粋さに驚いてなぜか謝ってしまった。それに対してあんこは笑顔で許した。そんな変な空気になったところをマイクマンが宣言した。
「それでは!!試合開始です!!!」
その宣言と同時にシールドは展開され、観客の声援は全く聞こえなくなった。そしてあんこはふわふわと浮き出してその周囲にヒシちゃん達を浮遊させて戦闘態勢に入った。
「それじゃ!行くよー!」
「クックック!この神のへそくり製の盾の威力を思い知らせてあげるよ!」
あんことコッケは互いに言葉を交わして、そしてあんこは勢いよく宙を舞いながらコッケへと突進していきくるっと空中で回転して上からかかと落としを繰り出した。
「おやおや!そんなに正面から攻めるなんて、縦が見えていないのかい?」
コッケはあんこの攻撃をその盾で容易くガードした。あんこはその盾を足場にして上へと上昇した。
「へー!やっぱりあたしの蹴りぐらいじゃ全然ダメそうだねー。コッケくんは筋肉もあるんだね!」
「クックック!なるほど。今の攻撃は盾を狙ったんじゃなくて僕の筋肉不足で盾ごとぺしゃんこにしようってことか。クックック!狙いはいいね。実際、僕は筋肉があんまり無いからただの盾だったら僕はぺしゃんこだっただろうしね。」
「なるほどねー。やっぱり、その神のへそくり製の盾は普通の盾とは違うんだね。でも、どんな違いなんだろう?色々やって確かめてみよっと!」
そう言ってあんこは上空から落下するように勢いよくコッケ目指して突っ込んで、両手を前に突き出して突撃した。その攻撃もコッケはその盾で防いだ。
「クックック!ダメダメ!威力を上げた程度じゃこの盾を突破することなんてできないよ?」
コッケは盾をブンッと振り回してあんこを吹き飛ばした。あんこは少し飛ばされながらも優雅に空中でその勢いを殺してシールドにぶつからずに済んだ。
「へー!今のは結構本気で突っ込んだんだけどなー。じゃあ今度はヒシちゃん達でいっちゃおっかなー!」
そう言ってあんこは周りに浮遊させていたヒシちゃん達を前方に集結させた。
そしてそれを観客席から見ていたヤミナがボソッと言った。
「あんこちゃんの武器...」
その一言をネネは聞き逃さずに聞き返した。
「ん?あんこの武器がどうかしたの?」
ネネに話しかけられてヤミナはドキッと心臓がはねて、そしてあたふたとしながら答えた。
「あ、ああ!いや、そのー、深い意味はないんだけどね!えっとー...。」
ヤミナは何か言い訳を考えていたが思い浮かばず、正直に思ったことを話すことにした。
「え、えっとね。う、ウチ、実はあんこちゃんに頼んでヒシちゃん達を詳しく調べさせてもらったの。そ、それでね。そのー、ヒシちゃん達って、実はあそこまでの威力は理論的に出せないの。」
「え?理論的に出せない?それって、どういうこと?」
「あ、あの、つまり!どう頑張ってもあそこまでの威力は出せないはずなの。たとえ『解放』を使ったとしてもね。そもそも、あのヒシちゃんって神のへそくりは、ウチが調べた感じただの便利ツールみたいなものらしいの。多分、探索用に携帯する感じのやつ。全然武器とかじゃない感じなの。」
「...そう。私にはよくわからないのだけれど、つまり、あの武器は本来武器としての運用はしていなかったってこと?」
「そう!だから、ここからは憶測なんだけど...あんこちゃんという存在自体が神のへそくりの限界値を突破する何かを持っていると思うの。」
その話を聞いてネネはうなずいた。
「なるほどね。確かに、ダーリンや姉御さんや昆布から聞いた話だと、あんこちゃんは魂の力を最大限に引き出す力があるみたいね。多分、その能力が神のへそくりにも作用しているってことかしら?」
「う、うん!ウチもおんなじ答えにたどり着いた!...でも、そうなるとすっごく不思議なことがあるの。」
「不思議なこと?」
「う、うん。レイジ君が持ってる『勇者の刀』とネネちゃんが持ってる『勇者のマント』のこと。この二つは神のへそくり製なのに、あんこちゃんが持っても力が解放されなかったって。それに、その二つは一番不思議なことがあるの。それは幻獣使いであるレイジ君が持っても痛みを感じないのに、同じ幻獣使いのゴゴが持つと痛みを感じることなの。」
「...確かに。言われてみると不思議ね。私も、なぜだか知らないけれど、神のへそくり製の武器は痛みを感じるの。それなのに勇者のマントと勇者の刀は痛みを感じなかったわ。...一体どういうことかしら?やっぱり、勇者の力を受け継いだからってことなのかしら?そうすると、それはいつ?どこで?そういう疑問が湧き出てくるわね。」
「う、うん!ほんとにそう!だからウチが調べてみたけど全然わからなかったの。だから、もしかしたらあんこちゃんの能力がそれを解き明かすカギになるかもって思ったけど、やっぱり駄目だったの。それで、そのことを思い出して、さっきはついつぶやいちゃったの。」
「...なるほどね。ヤミナに解けないんじゃ私たちの誰でも解けない問題ね。」
ネネとヤミナはそう言ってまた戦っているあんこの方へと視線を向けた。あんこはレーザーのヒシちゃんを使ってコッケの盾を攻撃していた。
「うおー!がんばれ!レーザーのヒシちゃん!コッケの盾を壊すんだー!」
「クックック!...大丈夫かな?レーザーなんて受けたことないけど...。」
コッケは不安になりながらもあんこのレーザー攻撃を盾で防いでいた。そしてあんこはうーんと首をかしげた。
「やっぱりすごい盾だね!あたしの攻撃を全然通さないや!」
そう言ってあんこはレーザーを撃つのをやめた。コッケはほっとしながらも格好つけて不敵に笑った。
「クックック!まだ驚くのは早いよ?何せ、まだこの盾の真の能力を出してないからね!」
「え!?真の能力!?何それ何それ!?見せて見せてー!」
あんこは興味津々に目を輝かせながら言った。コッケは不敵に笑いながら言った。
「クックック!では見せてあげよう。僕の『チキンシールド』の真の能力を!!!」
そう言ってコッケは盾を地面に突き刺した。