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星の勇者  作者: アシラント
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公式戦 姉御vsタイダイ③

姉御とタイダイはお互いに本気を出しながら見合っていた。そして両者は相手の動向に集中していた。そしてタイダイは姉御に言った。


「では、行きますよ?」


そう言ってタイダイは何の前触れもなく一瞬にしてその姿を消した。姉御はタイダイから一時も目を離していなかったにもかかわらず目の前から消えたことに驚き、しかしすぐ冷静に周囲の気配を探り始めた。するとなにやらうるさい音が鳴り響いていることに気づいた。


『...なんだい?このうるさい音は?まるで砲弾の音が鳴りやまない戦場にいるような...。それに一瞬で姿が消えるなんて、どんなマジックだい?サライヤンのような光学迷彩ステルス...?いや、あれはヨロイヤンの能力だったから人間が消えていたわけじゃない。それに、タイダイはそういう神のへそくりを持っていなかったように見える。...ということは、幻獣の能力かい?タイダイが幻獣使いである方が可能性が高いか...?』


姉御はそう分析していたところに、タイダイの声が聞こえた。


「わたしが神のへそくりを持っているか幻獣使いかとお思いでしょうか。...答えはどちらも違いますよ。」


そう言ってタイダイは姿を消した場所から一歩も動いていない、全く同じ場所に姿を現した。そしてさっきまで鳴り響いていた音は消えて、タイダイは話し始めた。


「これは、波動拳の応用ですよ。」


「波動拳の...応用?あたしはそんな技はマスターブラックから聞いていないけどねぇ?」


「フフフ。それはそうでしょう。この技はわたくしが編み出した技ですからね。人は目で見るとき、光の反射をとらえて見ていることは知っていますね?わたくしのこの技は全身から微弱な波動拳を生み出し続けることによって空気を揺るがし、光がわたくしに当たる前に反射させることで姿を消す技ですよ。」


タイダイはそう言いながら左手をおもむろに姉御に見せてからその微弱な波動拳を放った。するとタイダイの左手だけがまるで蜃気楼(しんきろう)に包まれるかのようにグニャグニャに変化してから完璧にその姿を消した。それを見た姉御は驚きながらもタイダイに聞いた。


「なるほどね。...でも、なんでそれをいちいちあたしに説明するんだい?その技を使ってあたしに襲い掛かってくればいいじゃないかい。」


姉御のもっともな正論にタイダイは少し微笑みながら答えた。


「フフフッ。ごもっともな意見ですね。しかし、この技には実は致命的な欠点がございまして。」


「致命的な欠点?」


「ええ。実はこの技を使用しているとき、すごくうるさいんです。しかも私に光が当たらないのでわたくしもあなたのことが見えないんですよね。いえ、それどころか目の前が真っ暗になるのであなたよりも状況が悪いんですよね。まあ、もともと女湯に透明になって入れたら裸見放題じゃん!!って思って頑張って習得した技でして、いざ使ってみたらこっちも全く見えないという残念な結果に終わってしまったわけですが...。」


タイダイは悲しそうにため息をつきながらそう言った。それに対して姉御はなんとも微妙そうな表情になってジトーッとタイダイを見ながら言った。


「...あ、そう。...それで?なんでそんな欠陥ばかりの技を使ったんだい?」


「フフフッ。それはですね。格を見せつけるためですね。」


「格...?」


「ええ。アネッサさんの波動拳、あれは確かに素晴らしい出来でした。しかし、あなたが学んだ波動拳は攻撃用の波動拳だけですね。しかし、波動拳の強さの本質は攻撃ではありません。その応用力です。」


「応用力...。」


「ええ。そもそも波動拳は攻撃するための術じゃなかったんです。もともとは『愛』を伝えるための手段だったんですよ。」


「愛...?」


「ええ。爺ちゃんはそう言ってましたよ。愛する者に愛を伝える手段として編み出したのが波動拳だったって。ですが、愛とは抱きしめる母であり、他人を殺す残酷な刃です。その変幻自在さが波動拳の応用力に現れているのですよ。」


タイダイの説明に姉御はうなずいた。


「なるほどね。まあ、愛っていうのはあんまりしっくり来てないけれど、つまりあたしはまだ波動拳について何も知っていないってことを言いたいんだね。」


「ええ。そういうことです。」


「...確かにあんたの言いたいことは分かった。だけどね、それがあたしに勝てることにつながるのかい?」


姉御に言われてタイダイは少し笑った。


「フフッ。確かにそうですね。では、見せてあげましょうか。あなたと私の波動拳の技術力の違いというものを!」


タイダイはそう言って構え、姉御も構えた。そしてタイダイは姿勢を低くし、両手を後ろへと持っていき、そして手のひらから波動拳を放ち、まるでジェット噴射されたかのように急加速をして姉御に近づいた。そのあまりの速さに姉御は一瞬判断が遅れ、すぐさま振った薙刀はタイダイがジャンプをして軽くかわされた。


『は、速い...!?このあたしが動き出す瞬間を捉えられなかった...!!けど!!!』


姉御は背中の黄金の猫を動かして右腕を振るわせて攻撃した。タイダイは目の前に両手を持ってきて波動拳を放ってその攻撃を相殺した。タイダイはその反動で後ろへと弾かれ、優雅に着地した。そして得意げに笑みを浮かべた。


「どうですか?今の急接近。アネッサさんほどの実力者でも反応が一瞬遅れるほどの速さでしたでしょう?これが、波動拳のすごさですよ。」


タイダイがそう言うと姉御はフッと笑って答えた。


「確かに、すごいね。だけど、それでもあたしは負ける気がしないね。」


姉御はそう言って今度は自分から攻めに行った。まっすぐにタイダイへと向かっていき、薙刀を左から右へと振り、さらに背後の猫が右から左へと攻撃をして両側から攻めた。それに対してタイダイは一歩も動くことなく手のひらを姉御に向けて波動拳を放ち、自身の体を後方へと飛ばしてその攻撃をよけながら姉御に攻撃した。姉御はサッと頭を動かしてその攻撃を避けた。そして姉御は思った。


『避けると同時に攻撃を放つ...こんな波動拳の使い方は学んでなかったねぇ。タイダイは本当に波動拳の使い方の天才なのかもしれない...。なるほどね。こういう使い方を知っているから、あたしたちの波動拳のレベルが低いと感じるのかもねぇ。』


姉御はそう思いながら追撃するために、またまっすぐにタイダイへと向かって行った。その行動にタイダイは少し不満そうな表情を浮かべた。


「またまっすぐですか。もしかして、わたくしのことをバカにしていますか?同じ動きを対策できないわけないでしょう?この私が。」


タイダイはそう言って両手に波動拳を溜めて迎撃の準備をした。しかし姉御はタイダイの目の前に来た瞬間に高くジャンプをした。タイダイはその行動を鼻で笑った。


「はっ!空中へ逃げるのは悪手ですよ!!波動拳は空中にいる獲物を確実に仕留めますから!!」


そう言ってタイダイは両手を姉御の方へと突き出して波動拳を放った。その波動拳はまるでバズーカのような轟音を鳴り響かせながら姉御へと向かって行った。そして姉御はフッと笑い、玄武戦で見せた空中に足場を生み出してそれを蹴ることで波動拳を避けた。それを見たタイダイは予想外の動きに驚きを隠せなかった。


「な、なに!?なんだ!?今の動きは...!?まさか...空蹴(くうしゅう)...!?」


タイダイがあっけにとられている隙を見逃さず、姉御は再び足場を空中に生み出してタイダイの後方上部から一気に近づいて薙刀を振り下ろした。タイダイはハッと我に返って死ぬ気で前方に向かってダイブしながら避けた。それに対して姉御は振り下ろした薙刀を足場にして近づいてタイダイが起き上がり、振り返った瞬間にその顔を蹴り飛ばした。


「ぐへぇっ!!?」


タイダイは顔面を蹴られて口から血を流しながらシールドの壁まで吹っ飛ばされた。そして姉御は背後の猫に薙刀を拾ってもらって再び装備した。


「残念ながら、あたしの武器は波動拳だけじゃないんだよ。」


姉御はフッと笑いながらそう言った。タイダイは口からこぼれた血を手で(ぬぐ)いながら答えた。


「なるほど。そうだったんですね。まさか、空蹴を扱える人物に実際に会えるとは思ってもいませんでしたよ。それも、こんな美しい女性が扱うとはね。正直、なめてましたよ。申し訳ありませんね。」


そう言いながらタイダイはゆっくりと立ち上がりつつ、全身から真っ白なオーラを発しながらニヤリと笑った。


「では、こちらも本気であなたを倒そうとしなければいけなくなりましたねぇ!アネッサさん。死ぬ覚悟は、よろしいですかな?」


タイダイは左半身を姉御の方へ向けて大きく手を広げ、足を大きく開き、腰を落として戦闘態勢に入った。姉御は今までのタイダイの構えとは大きく違うその構えに、タイダイが本気を出すことを直感した。


「では、行きますよ!!!」


タイダイはそう言った瞬間、まるでねずみ花火かのように自身の体を乱雑に訳の分からない軌道ではじけ始めた。その気味の悪すぎる行動に姉御は恐れを感じた。


『な、なんだい!?この動きは!?まるっきりでたらめじゃないかい!?何の目的でそんな動きをしているのかがまるで分からない...。まるで宇宙人にでもあったみたいな衝撃だよ!』


姉御はタイダイの動きの意図を理解できず、その場から動くことができなかった。逆にタイダイの方はいたって真面目な表情をしながら踊り狂っていた。


「はははっ!アネッサさん。私の動きがわからなさ過ぎて困惑していますね!もちろん、この動きにはちゃんとした意図があるんですよ。例えば、こんな攻撃とかね!!」


そう言ってタイダイは急に足先から三日月状の波動斬を姉御に向かって飛ばしてきた。姉御は薙刀を振ってその波動斬を切り伏せた。そしてタイダイは笑いながら言った。


「ははははっ!!やっぱりすごいですね!初見で私の波動斬を見切るとは...。いままで刃物なんか見せていなかったですから、皆さん結構この技を喰らってくれるんですけどねぇ。」


タイダイの言葉に姉御は内心焦っていた。


『確かに、タイダイの言う通り、あたしは波動斬が飛んでくるなんて全く考えていなかった...!たまたま反応できて避けられただけだった。なんてことだい。あたしは試合が始まる前から今までタイダイのことを注意深く観察していたけれど、刃物なんて見ていない...いったいどこに...?』


姉御は動き回り波動斬を姉御に向けて撃ってくるタイダイの攻撃を避けたり切り伏せながら、タイダイの足を魂の力を目に集中させて観察した。


『わからない...いったいどこに刃物を隠しているのか...足の付け根も、太ももも、ふくらはぎも、かかともつま先も確認した。それでも、わからない...。...いや?一つだけ違和感を感じる...。(つめ)だ!ほんの少ししか見えないけれど、魂の力を集めた形跡がうっすらと見える!!』


姉御はたった一つだけ違和感を感じる場所の、爪の部分を見つけた。そしてそれを確かめるために、はじけ回るタイダイの動きと手足の爪に意識を集中させて観察した。するとタイダイの両手両足の爪には全身にまとった魂の力以上の力を注いでいることを見抜いた。


「なるほどね!!そうかい!!爪かい!!あんたの波動斬の出どころは!!!」


「な、なんと...!?たった一発撃っただけで見抜いてきますか...!?ははは!!恐ろしい相手ですねぇ!!!アネッサさん!!!」


タイダイは姉御の見抜く能力に心の底から驚きつつ、強敵の出現にうれしい気持ちも湧き上がってきた。そしてタイダイはおかしな動きをやめて姉御に言った。


「この変なはじけ回る動きで翻弄しつつ出どころ不詳の波動斬で追い詰める予定でしたが、見抜かれてしまっては仕方ありませんね。そうです。私の爪は特殊なネイルをしておりましてね。今までこぶしを握らなかったのは私の爪で自身の手を傷つけてしまわないようにしていたんですよね。」


「...なるほどね。てっきり波動拳を放つためにこぶしを握っていないのかと思っていたよ。」


「フフフ。まあ、手の爪はすべて武装済みですが、足の指は親指だけなんですよ。理由はほかの指だとどうしてもうまくコントロールして波動斬を撃てないからですね。やはり手と足はなかなか感覚が違っていて難しいんですよね。」


「なるほどね。だからあたしはあんたの足に注目したとき、魂の力の出どころを少し感じることができたってことね。手の方は全く気付いていなかったよ。」


「そうですか?フフフ。それはうれしいですね。しかし残念ながら、もう楽しい時間は終わりです。」


タイダイは少し寂しそうに言った。姉御は眉をひそめた。


「ん?どういうことだい?」


「私は降参します。」


「...は?」


タイダイの言葉に姉御は理解不能な表情になってそう言った。タイダイはフッと笑って答えた。


「やはり、女性との戦いは、私は本気になれないのですよ。たとえあなたがどれほど強くても。いや、むしろ強すぎると理解したからこそ、私の実力ではあなたを無傷で倒すことなどできないと思い知ったのです。」


「あんた...あたしを傷つける覚悟はできてたんじゃないのかい?」


「フフフ。確かにそのつもりでしたよ。しかしあなたに波動斬を撃ちこんだ時、心の中では当たらないでほしいという気持ちが強く出ていたんですよ。それに気づいてしまったから、もう戦えない。いや、あなたの相手として戦ってもあなたを満足させられないと思ったのですよ。だから降参します。」


そう言ってタイダイはマスターブラックの方を向いて両手を上げて降参のポーズをとった。するとマスターブラックは少し不満そうな表情を浮かべつつもシールドを解除してそれを認めた。そしてマイクマンが宣言した。


「な、なんと!!!勝者!!!アネッサ選手!!!!」


意外な展開に会場もどよめきながらも姉御の勝利をたたえる拍手を送った。姉御は不完全燃焼のままため息をついてステージを降りた。そこには嬉しそうに笑いながら迎えるあんことレイジがいた。


「すっごいね!!!姉御ちゃん!!!1位の人に勝っちゃったよ!?」


「ああ!本当にすごいな!俺はてっきり負けるもんだとばかり思っていたから、正直すっげー驚いてる!!」


二人の賞賛に姉御はフッと笑いながら答えた。


「ああ。ありがとね。二人とも。...でも、なんだか納得いかないんだよね。正直言ってタイダイは相当な実力の持ち主だった。本気でやり合っていたら多分あたしが負けていた可能性の方が高いと思う。だから、本気でやり合えなかったことが悔しいね。...まあ、仕方ないかね。」


姉御は少し残念そうにそう言った。そしてレイジは言った。


「...まあ、それならタイダイに勝ったんだし、なんでも言うことを聞くって命令で、なんかそれを叶える感じのお願いでもしたらいいんじゃないか?」


レイジの言葉に姉御はフッと笑って答えた。


「...そうだね。もしあたしが本気でやって勝ってたら、それも頼んだかもしれないけれど、正直、今の試合で勝っても何かを頼む気にはなれないんだよね。だから、まあ、何も頼まなくていいかなって、思うね。」


「...そっか。まあ、姉御がそういうならそれでもいいんじゃないか?とりあえず、マスターブラックの頼みだった『タイダイと戦う』ってのは達成できたしな。姉御のおかげだな。ほんと。俺がタイダイと戦わなくて本当によかったよ。あいつ男相手なら多分遠慮なしに本気出してきただろうしな。」


「...そうだね。まあ、いいかもね。」


姉御はそう言いながらも表情は少し曇ったままだった。

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