表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の勇者  作者: アシラント
142/157

公式戦 姉御vsタイダイ②

姉御は薙刀(なぎなた)を構え、そしてお互いに相手の出方をうかがった。さっきまでのゆるい空気は一瞬にして張りつめられた緊張感に変わった。そしてタイダイは言った。


「では、行きますよ?」


タイダイはそう言って一歩ずつゆっくりと近づいていった。一歩一歩近づくたびに、お互いの間合いが近づき、互いの集中力と警戒心が高まっていく。そしてタイダイは間合いを詰めていく最中で気付いた。


『ん?彼女、闘い()れている...?わたしの歩き方や手足の動き、そして目線にまでくまなく注意を払っている。これができるのは少なくともこの闘技場では上澄みの選手だけ...つまり彼女はそれに匹敵する実力があるということ...?どちらにせよ、なめてかからない方が良さそうですね。』


タイダイは姉御に対する認識を改め、油断しないことにした。そして姉御はそのタイダイの変化に気づいた。


『さすがに気付かれるかね。まあ、あたしも警戒心高めて真剣に対峙(たいじ)しているからね。気づかれもするか。まあ、気付かれたとしても、やることは変わらない。全力で行って倒す!!それだけだね。』


姉御はそう思った。そしてタイダイがさらに一歩踏み込んだところで姉御は攻撃を仕掛けた。姉御は一瞬にして持っている薙刀を振り、タイダイの首を狙った。タイダイはその攻撃を姿勢を低くして避けて姉御へと距離を詰めて反撃しようとした。しかし姉御は右手首をくるっと返しながら左手で押して薙刀を振るい、刃の部分とは反対の(つか)の部分を下から上に回してタイダイにぶつけた。


「クッ!」


タイダイはその攻撃を両手でガードした。そして姉御はタイダイの動きが少し止まった隙に少し距離を開けてまた待ちの態勢に入った。その一瞬の攻防を経てタイダイは実感した。


『やっぱりそうだ。彼女は強いな。戦いに慣れているだけじゃない。薙刀の扱いもまるで手足のように扱ってくる。まるで達人だな。ああ、なんということだ。これじゃ手加減なんかできないなぁ。だけど、美しい彼女を傷つけたくはないし...うーん。そうだ!』


タイダイは姉御の予想以上の実力に驚き、闘い方を考えていた。そして一つの方法を思いついた。タイダイは再びマスターブラックと同じ構えを取った。そしてタイダイは一気に距離を詰めた。その速さに姉御は少しだけ驚きながらも再び薙刀を右から左へと振ってタイダイの首を狙った。


「ふっ!」


姉御は息を吐きながら力を込めて薙刀を放った。その薙刀をタイダイは息を吸いながら右手に力を溜め、勢いよく放った。


「波動拳!!!」


タイダイの手のひらから放たれた波動拳は姉御の薙刀をはじき返した。姉御はその衝撃で態勢が崩され、後ろへとのけぞる形になった。その隙をタイダイは逃さず、一気に姉御の懐へともぐりこみ、姉御の頭に右手を置いた。


「すいませんね。少しだけ、揺れますよ?」


タイダイはそう言って波動拳を姉御の頭に放とうとした。しかし姉御はフッと笑って左手をタイダイの腹に置いた。そしてタイダイが放つよりも先に波動拳を放ってタイダイを吹き飛ばした。


「うぐっ!?」


タイダイは地面を足でブレーキをかけながら減速して止まった。そして姉御から受けた波動拳に思った。


『波動拳...!?なんでアネッサさんが波動拳を...?ああ、そういえば爺ちゃんが言ってたなー!俺をやる気にさせるために波動拳を教えた強い奴を公式戦に出てもらうって。でも、たった3か月で何ができるのかって正直思ってましたが...うぅ...痛い!たった一発でわかる。すごい仕上がってるよ。これ。』


タイダイは腹に重たい痛みを感じながらそう思った。そして姉御もタイダイの動きに疑問を持った。


『タイダイはあたしの薙刀をはじいた後、あたしの頭に波動拳を放とうとした...。いったい何を狙ったんだ?あの状況なら普通は頭を狙うべきじゃない。今みたいに反撃されるから。あたしなら距離を取って遠くから波動拳を打つね。それを見越してあたしは左手に波動拳を溜めていたんだからね。...まあ、用心するに越したことはないかねぇ。』


姉御はタイダイの不審な動きに警戒を強めた。そしてタイダイは腹に手を当てながら姉御に聞いた。


「なるほど。相当上出来な波動拳ですね。ためる時間も放つ威力も素晴らしい。うぅ、油断していましたよ。」


タイダイは痛みに顔をゆがめながら言った。姉御はフッと笑った。


「それはありがと。でも、あんたがあたしの頭を狙っていなかったら波動拳を受けていたのはあたしだったはずだよね。いったい何で頭を狙ったんだい?」


姉御は聞いてみた。タイダイはフフッと上品な笑い方をしながら答えた。


「なるほど。先ほどの考えていた顔はそれでしたか。まあ、美しいアネッサさんの頼みなら教えておきましょうか。わたしは波動拳の達人ですからね。絶大な破壊力の波動拳を放つことはもちろんのこと、弱い波動拳を放つこともできます。その弱い波動拳を脳に打ち込むことで脳震盪(のうしんとう)を起こすことも可能なんですよ。アネッサさんを傷つけずに無力化する方法はそれしかないと考えての行動ですよ。」


「なるほどね。納得したよ。本当にあたしを無傷で無力化させられると思っているんだね。悪いけど、あんたが本気を出さないなら一気に決めさせてもらうよ?せっかくあたしの闘争心に火が付いたってのに、そんな態度じゃ腹が立つじゃないの。」


姉御の言葉にタイダイは笑った。


「ハハハッ!なるほど。それは期待に応えられそうにありませんねぇ。何故ならわたくしはあなたのような美しい女性を傷つけることができないからですね。申し訳ありませんね。」


タイダイは深々と頭を下げながら言った。姉御はムッとした表情を浮かべた。


「なんだい?あたしの実力じゃ、本気を出さなくても勝てるっていうのかい?」


姉御の質問にタイダイはフッと笑った。


「...確かに、あなたの波動拳はすさまじい完成度ではありました。が、正直言ってそのレベルではわたしには勝てませんね。もしわたしに本気を出させたいのであれば、まずはあなたが魂の力を開放するのが先なのでは?」


タイダイの挑発に姉御はフッと笑った。


「確かにね。まあ、しょうがないね。もう少し準備運動をしてから本気を出そうと思っていたんだけどねぇ。そこまで言うなら見せてあげようじゃない。あたしの本気を!!」


そう言って姉御は魂の力を開放した。その姿は牛鬼(ぎゅうき)と戦った時と同じ、背後に黄金に輝く大きな猫が現れた姿に変わった。それを見たタイダイは驚きと美しさのあまり少しの間動けずにいた。


『...う、美しい...!これが、アネッサさんの本気の姿...!?背後の黄金の猫はいったい何でしょうか!?初めて見るタイプの魂の力が解放された姿ですね!まあ、そもそも魂の力を使いこなせている戦士が非常に少ないというのもありますが、これはやはり珍しいと思いますね!』


タイダイは姉御の変化に驚き、そしてそれを分析していた。そして姉御はタイダイに向かって言った。


「さあ、あたしは本気を出したよ。あんたも出しな!!!」


姉御にそう言われてタイダイは困った表情でほほを指でかきながら答えた。


「...そこまでされたらしょうがないですね。まあ、本気を出さなければわたしが死にそうですからね。いいでしょう。本気を出しますよ。...怪我はしないでくださいね。美しいあなたを傷つけたらわたしは自責の念で自殺しますからね!」


タイダイはそう言って目を閉じて深く息を吐き、集中しだした。タイダイは周りの状況が全く聞こえなくなるほど集中して自身の魂の力を最大限に引き出した。その瞬間、タイダイの眠たげな(まなこ)は銀色に輝く瞳に変わり、雰囲気がガラッと変わった。

 タイダイの変化に姉御は自然と笑みがこぼれた。


「ほぉ、なるほどね。それがあんたの本気ってわけかい。...どうやら、楽しむだけの試合にはならなさそうだねぇ。あたしも、死ぬ覚悟をしないとだねぇ!」


姉御はそう言って右手に持った薙刀を自身の後ろへと持っていき、タイダイの動向を集中して警戒した。タイダイはニコッと笑って言った。


「アネッサさん。美しいあなたを傷つけてしまったら本当に申し訳ないですが、本気を出すとさすがに手加減できませんからね。...行きますよ?」


タイダイはそう言ってマスターブラックと同じ構えを取った。両者はまるで龍と虎がにらみ合っているかのような恐ろしい緊張感が張り巡らされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ