公式戦 昆布vsブートン
ドナルドとキーヤンの試合が終わった後、マイクマンは次の試合の宣言をした。
「では、次の試合を開始いたします!ブートン選手と昆布選手はステージにお上がりくださーい!」
マイクマンに言われて昆布は少し緊張した面持ちでレイジに言った。
「で、出番が来ちゃったでござるよ!!うううううー!緊張するでござるー!」
昆布はレイジの後ろから肩につかまりながらチラチラとステージの方を見ながら言った。レイジは振り向いて自身の肩越しに昆布に言った。
「まあ、大丈夫なんじゃないか?昆布は...まあ、お前の強さはよくわからないが、今までの試合を見た限り化け物みたいに強い奴はサライヤンとかドナルドとか、俺たちの知っている奴らばっかりだったからな。ブートンは聞いたことのない選手だ。まあ、落ち着いていけば大丈夫だろう。」
レイジは昆布に向かってうなずきながら言った。昆布は不安そうな表情を浮かべながらもレイジに励まされて笑った。
「あ、兄貴がそういうなら、大丈夫に思えてきたでござるよ!よし!行ってくるでござる!」
昆布はそう言って胸を張ってステージに上がった。すると昆布の目の前には自身の伸長を超す、縦も横も大きな太った男が昆布をあざ笑いながら見ていた。
「ふっふっふ。相手が弱そうで助かったぜ。」
男は昆布の虚勢を打ち破るかのごとく、大きくジャンプしてズドンッと大きく着地してステージを揺らした。昆布は体を揺らされ、体勢を崩してしりもちをついた。
「あわあわあわあわ!な、なんて巨体でござるか!?ううう、勝てる気がしないでござる...」
昆布はさっきまでの勢いをなくして、恐れた表情を浮かべながらブートンを見上げていた。その表情を見たブートンは鼻で笑ってから高笑いをした。
「はーっはっはっはっは!!おいチビ!ケガしねーうちにとっとと家に帰るんだな!」
「ひえぇぇ!!」
昆布はまるでいじめられている子供のように両手を顔の前に出して防御態勢に入った。そんなことをしている最中にもマスターブラックはマイクマンに試合の開始を合図した。マイクマンは昆布のことを気の毒に思いながらも試合の開始を宣言した。
「昆布選手は、少々かわいそうではありますが...試合開始です!!!」
宣言をした瞬間、ステージはシールドに包まれて観客の声は全く聞こえなくなった。昆布はその変化に驚いた。
「うわ!ほ、本当に何にも聞こえないでござる...!これが、シールドの効果...!?音も空気も衝撃も通さない、無敵の盾...!うわー!すごいでござる!」
昆布はシールドの性能の一部を体感して、感動していた。そんな様子の昆布に向かってブートンはまたジャンプしてステージを揺らして昆布をビビらせようとした。昆布は案の定驚いてしりもちをついた。
「うわあ!そ、そうでござった!試合始まってるんでござった!!」
昆布の滑稽な様子を見てブートンはバカにするように笑った。
「はーっはっはっは!!お前、脳みその無いガキだな!!シールドに気を取られて自ら隙をさらすとは!お前みたいな雑魚はたーっぷりと痛めつけてから二度とこの闘技場に足を踏み入れられないようにしてやる!」
ブートンはそう言いながら腰に帯刀していたサーベルを取り出した。昆布はあわあわしながらそれを見ていた。そしてブートンは獲物をいたぶるようなゲスの表情を浮かべながらサーベルを昆布の左手側から薙ぎ払った。昆布は「うわあああああ!」と叫んで立ち上がり、右側へと走ってその攻撃を避けた。
「ふん!逃げ足だけはあるようだな!こりゃ楽しみ買いがあるってもんだぜ!」
ブートンはズシンズシンと歩くだけで地響きを鳴らしながら昆布を追いかけた。そして昆布は角へと追いやられて逃げ場を失った。ブートンはにやりと笑い、舌なめずりをした。
「おやおや?もう逃げ場がないねぇ!まあ安心しな。俺は優しいからなぁ!死なないギリギリで止めてやるよ!!」
ブートンはそう言って昆布の左腕を切り落とそうと振り上げたサーベルを勢いよく振り下ろした。そして昆布はその攻撃を叫びながら昆布の武器『ホワイト』を展開してその攻撃を受けた。ガキィィィィィンっという音とともに昆布はその攻撃を受けきることに成功した。
「...あれ?」
昆布は意外と受け止められることに気づいて驚いていた。ブートンは昆布が受けたことに少し驚きつつも余裕の表情で言った。
「ほう?俺のサーベルを受けきるとは、なかなかやるな!だが、連続での攻撃はどうかな!!!」
ブートンはさっきのような攻撃をとてつもない速さで連続で振り下ろし始めた。昆布はそのすべての攻撃を一歩も動かずに右手だけブンブンと振って受け流した。そして昆布は言った。
「...なんだ。予想より相当弱いんでござるね。ビビッて損したでござるよ。」
昆布はため息をついてそう言った。ブートンは頭に血管が浮き出るほどイライラして言った。
「なんだと?ふざけんなよガキが!舐めた口ききやがって!もういい、お前の命だけは奪わずにいようと思ったが、やっぱり死ね!!」
ブートンは怒りに任せてさらに加速して連続でサーベルを振り下ろし始めた。しかし昆布は先ほどと変わらず、迫りくるサーベルの全てを難なく受けきった。
「うーん。まあ、あんま変わんないでござるね。じゃあ、そろそろ終わらせるでござるよ。」
そう言って昆布はその場から消えるかのようなスピードでジャンプしてブートンの顎を蹴り上げた。ブートンは何も認識することなく、後ろへと倒れた。そして目を回してダウンしていた。
「ふぅー。弱くて助かったでござるよ!」
昆布はパッパッと服を掃った。その瞬間、マイクマンが宣言した。
「しょ、勝負ありいいいいいいいい!!勝ったのは、昆布選手ーーーーーーー!!!」
マイクマンの宣言と同時にシールドが解除され、昆布はルンルン気分でレイジたちの前まで来た。
「どうでござるか!?拙者が勝ったでござるよ!?ほめてほめて!!」
昆布はにっこにこでそう言った。レイジは笑って返した。
「ああ。よく勝ったな。最初、相当ビビッてた時は大丈夫か心配だったが、全然大丈夫だったんだな。」
「へへへ。だって、あれだけの巨体だったんでござるよ?ゴゴ以上にデカかったんでござるよ?そりゃゴゴ以上に強いんじゃないかって思うじゃないでござるかー?まあ、実際はゴゴ以上どころかゴゴの半分の力もなかったんでござるけどね!」
昆布は笑顔でそう言った。姉御はフッと笑って言った。
「そうだねぇ。まあ、人間ってほとんどそんなに強くないからねぇ。この闘技場にいる選手も、結局はあたしらほどの実力者はあまりいないみたいだねぇ。」
「へぇー!拙者たちってそんなに強かったんでござるか?なんか、魔王軍四天王だとか、魔王軍十二支獣だとか、幻獣のやつらだとか、そんな奴らとばっかり闘って結構負けてたからてっきり弱いんだと思っていたでござるよ。」
昆布の発言に姉御はなんだか複雑な表情になった。
「...まあ、確かにあたしらは結構負けてるけど、でも相手が悪いだけだからね。あまりにも、この世界でもトップクラスに強い奴らばっかりが相手だからね。まあ、あたしらが弱いって感じるのも無理ないかもね。」
姉御はそう言った。昆布はうなずいて納得した。
「へぇー!やっぱりあいつらすっごく強かったんでござるね!どうりで勝てないわけでござるよ!...ん?ってことは、そんな弱小種族の人間が魔族に勝てたのって、相当運がよかったんでござるか?噂じゃ勇者っていう存在がヤバかったって聞いたでござるけど...?」
昆布の質問に姉御は神妙な面持ちでうなずいた。
「...ああ。あたしも、すべてを見ていたわけじゃないけどね。勇者は、本当に、強すぎたね。だから、人間っていう種族は平均値は弱小だけど、上限値は魔族のそれを上回るんだよ。つまり、最強にさえなればどんな相手も敵じゃなくなるってことさ。」
「へぇー!そうなんでござるねー!だから姉御殿はあれだけ口を酸っぱくして兄貴に強くなれー!って言ってたんでござるね!」
昆布の発言に姉御はフッと笑った。
「ああ。そうさ。しかも人類の相手は魔族だけじゃない。幻獣といういまだ謎の生物も人間を捕食してくるからねぇ。強くなければ生き残れないんだよねぇ。全く、嫌な時代だねぇ。」
姉御はため息をついた。そしてあんこが姉御の肩に手を置いて言った。
「姉御ちゃん!大丈夫だよ!強くなるためにこの町に来たんでしょ!だから大丈夫だよ!あたしたち強くなるからね!」
あんこはニコッと太陽のように笑った。姉御はその笑顔を見て可愛らしく思い、あんこのことをギュッと抱きしめた。
「あんこー!あんたは本当にかわいいねぇ!!」
姉御はそう言った。あんこは嬉しそうに笑いながら照れていた。そして昆布はレイジに言った。
「だ、そうでござるよ。兄貴。兄貴は、まあ、強さに興味はないんだと思うでござるけど、時代が悪かったでござるねー。次の試合は兄貴の番でござる。真面目に闘った方がいいでござるよ?姉御に怒られるでござるからね。」
昆布はレイジの心配をしてそう言った。レイジはものすごく嫌そうな表情になって言った。
「うげぇ。マジで面倒だなぁ。戦争なんかするなよ。本当に。俺はただ自由に冒険がしたいだけなのになー。大体努力なんて面倒じゃん。それが自分の興味のない分野の努力ってなったらもう最悪じゃん?そうは思わないか?昆布?」
「へへへ、気持ちはわかるでござるよ。拙者も実は戦うのはあんまり好きじゃないでござるからね。」
「お?そうだったのか?まあ、ゴゴみたいな戦闘狂ではないことはわかっていたが、昆布も俺と同じだったのか?」
「まあ、同じって程じゃないでござるよ。拙者は強くなること自体は大事だと思っているでござるけど、誰かと戦うことは嫌いなんでござるよね。なんというか、相手を傷つけるのは、やっぱり気分が悪いでござるよね。」
昆布は何か嫌な記憶を思い出してしまったようで、苦しい表情を浮かべて言った。レイジはそんな昆布の顔を見て気になって聞いた。
「昆布、お前は何かそういう経験があるのか?なんだか、そんな表情をしているぞ?」
レイジに聞かれて昆布は驚いた。
「ええ!?拙者、そんな顔していたでござるか!?い、いやー!恥ずかしいでござるなー!まあ、拙者の生まれた国では幼い頃から刀の訓練をしていたでござるからねー!その時に、まあ、ちょっと、いろいろあったんでござるよ...。」
「ふーん。まあ、そうか。なんか、悪いな。あんまり触れてほしくなかった話題だったか?気が利かなくて悪いな。」
レイジは昆布に謝った。それに対して昆布は手をあわあわとさせてそれを否定した。
「と、とんでもないでござるよ!むしろ拙者の方こそ兄貴の気を悪くさせて申し訳ないでござるよ!...でも、気を遣ってくれて嬉しかったでござるよ!ありがとう!兄貴!」
昆布は親指を立てて笑顔でそう言った。そしてそんな会話をしているとマイクマンが次の試合の宣言をした。
「さあ!ブートン選手は医務室へと運ばれたとのことで、続いての試合に参りましょう!!次の試合は、勇者候補のひとり!レイジ選手!!対する相手はー!真面目な剣闘士!ルーカス選手!!!」
マイクマンの言葉に会場はワーッと沸いた。そしてレイジはあまり気乗りしない様子だったが、しぶしぶステージへと上がった。