公式戦1回戦 ゴゴvsサライヤンその後
サライヤンはゴゴとの勝負に決着をつけ、満足そうな表情を浮かべてゴゴに歩み寄った。
「ゴゴ。...そうだな...最高の試合だった!と、言わせてもらおう。...大丈夫か?」
「へ、へへへ。ああ、死にそうだ。」
ゴゴはぐてーっと横たわったまま笑顔で言った。それを聞いたサライヤンは噴き出して大笑いした。
「ハーッハッハッハッハ!!!そうか!死にそうか!!...奇遇だな。俺もだ!」
サライヤンはヨロイヤンをパージした。ヨロイヤンはガランガランと音を立てて地面へと落ちた。そしてサライヤンの右脚はゴゴの右腕と同じくらいグシャグシャになっており、目も当てられないほどに悲惨な状況だった。それを見たゴゴは驚いた。
「うお!ひどいな。大丈夫か?」
ゴゴの気遣いにサライヤンは大笑いした。
「ハーッハッハッハッハ!!!やっぱりお前はバカだな!!お前の方が俺以上に重症だろう!それなのに心配するとは...全く...フッ...ハーッハッハッハッハ!!!!」
サライヤンは心の底から笑った。そして展開されていたシールドが消え、マスターブラックがステージに降り立ってゴゴとサライヤンに言った。
「素晴らしい、試合じゃった。ここ数年、これほどまでに心躍る試合は久しぶりじゃ。本当に、あるがとうのう。」
マスターブラックは深々と頭を下げながらお礼を言った。ゴゴとサライヤンは少し困った表情をしており、サライヤンが口を開いた。
「いや、お礼を言われてもな...ただひたすら戦ってただけだからな...」
サライヤンは頬をかきながら言った。ゴゴもうなずいた。
「そうだな!正直言ってこんなに盛り上がっているなんて思っていなかったな!やっぱ戦うのって見てる方も面白いんだな!戦い最高!!」
ゴゴはよろめきながら起き上がった。そしてマスターブラックが聞いた。
「二人にはなにかお礼をしたいと思うんじゃが、何がいいかのう?」
そう聞かれてサライヤンは悩んだ。そして先にゴゴが言った。
「なら、マスターブラックの孫ってやつと戦わせてくれよ!サライヤンよりも強いんだろう?そいつ。」
そう言われてサライヤンはムッとした。
「心外だな。言っておくが、相性がすこぶる悪いだけだ。『波動拳』は俺の『雌水雄鉄拳』で受け流せないから負けただけだ。正直、対策をちゃんと考えてきた今の俺様なら余裕で勝てるさ。」
「そうか!そりゃすごいな!」
ゴゴはそう言った。それがサライヤンには適当にあしらっているように聞こえた。
「お前、本当にそう思っているか?」
「ああ!俺は、魂の力を一応出せるようになった。それに、納豆丸とかのめっちゃ早く動く技とかも学んできた。俺は相当強くなったと自覚してたんだ。そんな俺を倒すほどの男がそういってるんだ。信じるさ。」
ゴゴの回答にサライヤンはフッと笑った。
「そうか。そうだったな。お前はそういうやつだったな。だからこそ、俺もお前との勝負を楽しめるんだろうな。お前は本当に異常なほど戦いしかない生き物だからな。その純粋さが俺をウキウキさせるんだろうな。」
サライヤンはゴゴの裏表のない性格に笑みをこぼした。そしてゴゴはボロボロの体を起き上がらせ、ステージからゆっくりと降りた。そして降りた先で待っていたレイジたちと少し話した。
「ゴゴ。お前、すごいな。正直、痺れたぜ。」
レイジはゴゴの戦いを称賛した。ゴゴはフラフラしながらも満足げに笑った。
「ああ!ありがとな!俺は今から飯を食ってくる!それじゃ、健闘を祈るぜ!レイジ!」
「フフッ。飯の前に医務室に行けよ。そっちが先だろ?」
レイジはツッコんだ。ゴゴはガッハッハと笑った。
「まあ気にするな!戦いの後は腹が減るんだ!それに、これだけ最高の勝負をした後だ!ベッドでスヤスヤなんてできねーぜ!!」
ゴゴはそう言ってヨロヨロとおぼつかない足取りで会場を後にした。そしてレイジは姉御に言った。
「なあ、姉御。俺は今までずっとゴゴは弱いって思ってた。だって、毎回毎回死にかけるんだからな。だが、今の試合を見て考えが変わったよ。確かにゴゴの戦闘技術はまだ未熟だけど、あいつの勝ちにこだわる根性っていうか、執念っていうか、そういうのってすごいんだな。」
レイジの言葉に姉御は深くうなずいた。
「ああ。そうだね。あたしらは自分たちがどれだけ傷つかずに勝つかを考えて、そのために努力をしてきた。だから、ゴゴみたいなテクニックの無い、パワーとタフさだけの人間を弱いって勘違いしてしまったんだろうね。強さのベクトルは違えど、ゴゴは強いね。それに、多分まだまだ強くなる。...いずれ、あたしらの中で一番強くなるかもね。」
「え?俺たちの中で一番強く...?」
レイジは聞き返した。姉御はうなずいた。
「ああ。あたしは気付いたんだ。ゴゴは強敵と戦うたびに、どんどんと強くなっている。きっと、あたしらには無い戦闘を楽しむ心があるからだろうね。そして、きっとこの後の時代も戦いは続いていく。だから、おそらく10年後にはゴゴがあたしらの中で最強になるだろうね。」
姉御の言葉にレイジは驚きつつも納得した。
「...まあ、確かにな。戦いが好きだなんて、俺にとっちゃ理解不能だもんな。まあ、好きなことはとことん極められるからなー。」
レイジはそう言ってうなずいた。そしてマイクマンは話し始めた。
「えぇー、ご来場の皆様、ここで残念なお知らせです。先ほどの戦いによりステージがボロボロに破壊されてしまったため、一度修繕を行うため次の試合開催まで少し時間がかかります。しばしお待ちください!」
マイクマンがそう言うと会場はざわめきはじめたが、さっきの戦いを思い出してみなが納得した。
そして数時間待ったのち、会場は元通り修繕され、試合が開始された。しかし、ゴゴとサライヤンの時とは打って変わって、そこまで大きく盛り上がることもなくどんどんと試合が進み、ドナルドの出番まで来た。
「えぇー、次は、28番と29番の選手の試合です!ドナルド選手とキーヤン選手はステージにお上がりくださーい!」
マイクマンがそういうとドナルドと、対戦相手の『キーヤン』がステージに上がってきた。キーヤンは手にバンテージを巻いてシャドーボクシングをしながら上がってきた。見た目はまさにヤンキーといった風貌をしていた。金髪に染めた髪の毛のサイドを刈り上げており、伸ばした髪の毛を右側に全て流している髪型だった。そして顔には複数の傷があり、相当な数の勝負をしてきたことを表していた。
そしてマイクマンはドナルドの紹介を始めた。
「さあ、皆さん!こちらにいるドナルド選手!彼も勇者候補のひとりでございます!!その経歴は異例ともいえるでしょう!なんと!あの恐ろしきマフィアタウンの破壊と暴力の象徴!!ルドラータファミリーの戦闘隊長にまで上り詰めた男です!!!」
マイクマンの紹介に会場はワーッと盛り上がった。そしてマイクマンは次にキーヤンの紹介を始めた。
「そしてそれに相対するは!その残虐性により数多くのファイターを葬ってきた男!得意のボクシングスタイルですべての攻撃をかわし、すべての攻撃をクリーンヒットさせる戦闘狂!!キーヤン選手!!!」
キーヤン選手の紹介に会場はさらに盛り上がった。そしてマスターブラックが試合の開始を合図した。それを見てマイクマンは宣言した。
「それでは!!やってまいりましょう!!!試合開始です!!!」
その声と同時に会場はシールドで覆われ、二人の選手だけの空間になった。そしてその瞬間、キーヤンはドナルドに鼻で笑いながら言った。
「へッ!あんたがあの有名なルドラータファミリーの戦闘隊長かい!」
「ああ。そうだよ。」
ドナルドは落ち着いた様子で答えた。するとキーヤンはさらに鼻で笑いながら言った。
「ハッ!ルドラータファミリーは壊滅したって話じゃねーか。それなのに戦闘隊長のお前がこんなところにいるってことは、お前、逃げだしたのか!?」
キーヤンの煽りにドナルドはイラっとしてにらみつけた。しかしキーヤンはそれを全く恐れもせずに話をつづけた。
「ハハッ!組織が壊滅するってのに、しっぽ巻いて逃げ出すような臆病者に!この俺が負けるわけねーだろ!俺は、たとえどれほど強大な相手だろうとなぁ!!逃げ出すなんて恥知らずな行動は絶対にとらねーんだよ!!!」
キーヤンはそう言ってドナルドに向かって突っ込んできた。ドナルドはキーヤンが近づいてきても全く動こうともせずにただ突っ立っているだけだった。そしてキーヤンのラッシュ攻撃がドナルドの全身に襲い掛かった。
「オラオラオラオラァ!!!ハッ!!どうしたどうしたぁ!!!臆病者は腰も引けて動くこともできねーのかよ!!!」
キーヤンのラッシュ攻撃は止まることを知らず、さらに速度を上げていった。そしてドナルドはキッと目を開いてキーヤンをにらみつけ、そして右脚を大きく振りかぶってズドンッ!!と腹に一撃食らわせた。その瞬間、キーヤンは目玉が飛び出るほどの衝撃を受け、そのまま後方へと信じられないスピードで吹っ飛ばされた。勝負は一瞬でついてしまった。マイクマンは驚きのあまり声を出せないでいた。
「...え?...あ、ああ!しょ、勝負ありいいいいいいいいい!!!」
マイクマンが驚きながらそう宣言するとシールドが解かれて試合が終わってしまった。なんともあっけない試合内容に観客たちは唖然としていたが、ドナルドの強すぎる強さに大いに湧き上がった。
そして吹っ飛ばされて立ち上がれなくなったキーヤンは悔しそうにドナルドに向かって言った。
「クソッ!...やっぱり、強いんじゃないか。ドナルドさん。」
キーヤンに言われてドナルドは表情を変えることなく「ああ。」と返事をしてその場を去ろうとした。そしてキーヤンは口から血を吐きながら目に涙を浮かべてドナルドに聞いた。
「あんたほどの男が、なぜ...なぜ逃げ出したりしたんだ!!」
キーヤンにそう聞かれてドナルドはチラッとキーヤンの方を向いた。
「それは...どういう意味だ?」
「俺...俺は...ルドラータファミリーに、憧れてたんだ...。」
「何?」
ドナルドはキーヤンの意外な返答に驚いて振り向いた。キーヤンはじっとドナルドを見ながら話し始めた。
「俺は、ガキの頃から頼れる存在がいねぇ。親は俺を虐待してkるから逃げ出した。そしてスリや強盗を繰り返して何とか生きてきた。そんなクソみてぇな人生歩んでる俺でも噂に聞くんだ。俺みたいな境遇のやつがルドラータファミリーに入ったってな。それがあんただよ。ドナルドさん。」
キーヤンは嘘偽りのない純粋な目をしながらそう言った。ドナルドはその目を見てキーヤンの話が本当なのだろうと思った。そしてキーヤンは話をつづけた。
「俺は、あんたみたいになりたかった!!あんたみたいに強くなりさえすれば、どんな境遇だろうと上に登れるんだって!そう思ったんだ。だから、だからこそ!俺はルドラータファミリーが無くなったって聞いたときは、本当に、本当に苦しかった。俺の夢が、なくなったんだ。あの日...」
キーヤンはうつむいてそう言った。ドナルドはキーヤンに言った。
「そうか...そうだったのか。」
キーヤンは顔を上げて再び質問をした。
「もう一度、聞かせてください。どうして、逃げたんですか?」
キーヤンに聞かれてドナルドは少し考えた後、答えた。
「俺は、確かに逃げ出した。だが、それは臆病だったからじゃない。ルドラータの遺志を託されたからだ。それに、お前の夢はまだ終わっていない。」
ドナルドはそう言いながらキーヤンに近づき、手を差し伸べた。
「俺は、必ずマフィアタウンを奪い返す。だから、お前も手を貸せ。キーヤン。お前の力が必要だ。」
ドナルドはニッと笑って言った。キーヤンは驚き、そして涙を流しながら喜んだ。
「は、はい!命を賭けて...!!」
キーヤンはドナルドの手を取って立ち上がった。