赤紫色の霧の中 その後②
サライヤンたちが去っていくと、入れ替わるようにドナルド、アルバート、フォルキットが来た。レイジはドナルドたちの姿を見て手を振った。
「おお!ドナルド!ほんとに来てたんだな!」
レイジはゴゴの言ったことが本当であることを確認した。そしてドナルドはレイジたちの前に来た。
「ああ。話はゴゴから聞いたのか?」
「そうだね。正直半信半疑だったけどな。あまりにタイミングが良すぎるからな。しかもドナルドだけじゃなくて後ろの...えーっと、名前なんだっけ?ごめん、忘れた。」
レイジは久しぶりに出会ったドナルドの仲間のアルバートとフォルキットの名前を忘れており、失礼だと思いながらも素直に聞いた。それを聞いたアルバートとフォルキットは気にもせずに言った。
「俺はアルバートだ。そしてこっちの糸目でパーマがかかってるやつがフォルキットだ。まあ、俺もレイジとゴゴ以外の奴の名前はあんまり覚えてないからな。...なんか、見た事ねーやつも混じってんな...」
アルバートはヤミナのことを見ながら言った。ヤミナはガタイのいいアルバートに睨まれていると思い、「ヒッ!」とおびえた声をあげてササッと姉御の背中に隠れた。
そしてレイジ達とドナルド達は互いに軽く自己紹介をしていると、バトルマスタータウンの方からブレイブが現れた。
「あれー!?ドナルド君!?君たちもこの街に来ていたのかい!?」
ブレイブはドナルドがいることに驚いた。そしてドナルドも驚いた。
「あぁ!?ブレイブ!?おめーもいんのかよ...いや、丁度いいな。レイジ、ネネ、ブレイブ、勇者候補のおめーらに話したいことがあるんだよ。」
レイジは眉をひそめて聞いた。
「話したい事?」
ドナルドは「ああ。」と答えてから深刻な面持ちで話し始めた。
「お前らは知っておいた方がいい。俺らはユダに襲われたんだ。」
ドナルドの告白にレイジは驚いて思わず声が出た。
「えぇ!?ユダに襲われた!?ユダって、俺たちと同じ勇者候補の!?」
レイジの言葉にドナルドは重くうなずいた。
「ああ。あいつは、俺たちがバトルマスタータウンに向かう道中の夜中の休息中に襲ってきたんだ。最初は俺が何か嫌な気配がするなって思って辺りを見回していたんだ。すると急に透明な何かに襲われたんだ。そしてアルバートとフォルキットに透明な敵がいることを伝えたんだ。」
ドナルドの話にレイジたちはくぎ付けになっていた。そしてドナルドは話を続けた。
「そして俺は真夜中に透明な敵と闘い続けた。そしてお互いに重傷を受けたところで相手の透明化が無くなって、そこにいたのはユダだったんだ。」
レイジは驚きながらも質問した。
「ほ、本当にユダが襲ってきたのか?真夜中だったなら顔もそんなに見えなかったんじゃないのか?」
レイジの質問にドナルドはうなずいた。
「まあ、確かにはっきりと見たわけじゃねーが背格好や髪型はユダだったし、それに戦闘後に『...ケッケッケ!さすがに...あなたは...強さが段違いですねぇ...!』って言ってたからな。あの声はユダだったし透明になれる能力はユダしか持ってねーだろ?」
「...まあ、確かに。でも、目的は?やっぱりマフィアタウンで雇われたから追い打ちに?」
「たぶん、そうだろうな。あいつは金の為ならなんだってする。俺の首を討ちとれば多額の報酬金が出るとかだろうな。それに見ろ。」
ドナルドはそう言うと自身のシャツのボタンを開けていってレイジたちに上半身を見せた。そこには胸から腹にかけて斜めに切り裂かれた跡があり、それを針で縫っていた。レイジはそれを見て思わず「うわ!」と言って驚いてしまった。
「こ、この傷は...ユダと相打ちになった時の傷か?ひぇぇ!な、なんて痛々しい...!」
レイジは同情するかのような、憐れむかのような目でドナルドの生々しい傷を見た。そしてドナルドは落ち着いた、冷静な表情のまま喋り始めた。
「ああ、そうだ。この傷が今の話が嘘じゃねーって証拠だ。とりあえず、俺はユダと出会ったら殺し合うことになる。同じ勇者候補同士でな。それだけは頭に入れておいてくれ。」
ドナルドはそう言うとシャツのボタンをかけ始めた。そしてブレイブが言った。
「そんな!勇者同士で殺し合うなんて!それは間違ってるよ!」
ブレイブの言葉にドナルドはため息をついた。
「別にお前に闘えなんて言ってねーだろ?ただ、あいつが俺を狙ってくる以上闘わなければいけないってだけだ。...まあ、あいつが手を引いても舐められたまんまじゃ示しがつかねぇ。半殺しで許してやる。」
ドナルドはタバコに火をつけて吸いながら言った。レイジはドナルドとブレイブの話を聞いて少し思う所があった。
「...確かに、ブレイブの言う通りかもしれない。もしかしたら魔王軍の罠かもしれない。」
レイジの言葉にドナルドは眉をひそめた。
「なに?罠だと?」
「ああ。そうやって同士討ちをさせることによって人間側の戦力を削ごうっていう作戦かも...それに魔王軍はテレポートの能力者がいることが確定したし、変身する能力と透明になる科学力で襲ってきたとか...」
レイジの話を聞いてドナルドは少し考えたからうなずいた。
「確かに、それも有り得るか...まあ、真実はどうかはあいつの傷を見ればわかるな。あいつの腹には俺の蹴りがぶち込まれて、腹に穴空いたはずだからな。まあ、それを確認してからだな。」
ドナルドはそう言ってタバコを落とし、脚で踏みつけて消火してからレイジたちに言った。
「まあ、それまでは俺も積極的に探したりはしねーよ。それじゃ、俺はバトルマスタータウンに行ってマスターブラックっていうジジイに会って公式戦に出場するかな。なんでも、俺が公式戦に出るなら強い選手を俺のファミリーに参加させてもいいって話だからな。」
ドナルドの話にレイジは驚いた。
「ええ!?ドナルドも出場するのか!?」
「ん?ああ。まあな。マスターブラックとの約束だしな。それに、俺自身も強い奴と闘うのは好きだしな。じゃあそういうことだから、公式戦で会おうぜ。俺たちは俺たちで修行してるからな。」
ドナルドはそう言って背を向けて手を振りながら去っていった。そしてアルバートとフォルキットがレイジに近づいてきた。
「そうだな!まあ俺たちは出ないから、ライバルが減ってよかったな。」
「そうですね、ではお別れの握手でもしましょうか。」
そう言ってフォルキットはレイジの手を握ってきた。そしてレイジは違和感に気づいた。
『ん?なんだ?手に、何かある?』
レイジはフォルキットから何かを渡されたことに気づいた。それに気づいたフォルキットはレイジの顔をじっと見つめて力強くうなずいた。そしてアルバートとフォルキットはドナルドの後を追って行った。そしてドナルド達の姿が見えなくなるとレイジは手に握らされたものを確認した。それは紙だった。
『今日の夜10時、ここで会おう』
紙にはそう書かれていた。それをレイジは姉御たちにも見せた。
「なあ、姉御。フォルキットからこんな紙が渡されたんだが...」
姉御はそれを確認してみんなにも見せた。そしてレイジはみんなに聞いた。
「これは...いったいどういう事だ?」
レイジの発言に姉御は少し考えてから答えた。
「多分、何かしら訳アリだね。こんな内容、口頭で言えばいいはずなのにわざわざ紙に書いて渡すなんて...。」
姉御の回答に昆布はうなずいた。
「そうでござるねぇ。あのアルバートって人の態度を見るに、あの人も知っているみたいでござったね。多分知らないのはドナルドだけでござるよ。きっと、ドナルドには知られたくない内容の話だと思うでござるよ?」
昆布の発言にレイジは顎に手を置いて考えながら言った。
「...いったい何の用だ?全く見当がつかない。罠なんじゃないのかって思うけどな。...いや、さすがにないか?うーん、考えていてもわからないな...とりあえず指示通りにこの場所で会おうかな。」
レイジの言葉にネネは心配になった。
「...大丈夫?」
ネネのそのたった一言にレイジはネネの気遣いを感じてフッと笑った。
「まあ、俺ひとりでこの場所に向かうわけじゃないからな。出来れば全員でこの場所に向かってから話を聞こうか。それでどうしても俺ひとりにだけ話す内容ならみんなには聞かれないようにすればいいからな。そしたら罠だった時でも安全だろ?」
レイジの提案にみんながうなずいた。そしてブレイブが言った。
「うーん、僕はどうしたらいいんだろう?さすがにいない方がいいかな?ドナルド君とはそこまで親しくないし、アルバート君とフォルキット君なんて初対面だったしね。それに、夜の10時なんてもう寝る時間だよ。」
ブレイブはそう言い、レイジはうなずいた。
「ああ。そうだろうな。じゃあブレイブは来なくても大丈夫だ。ただ、もしブレイブの力が必要な時は呼んでもいいか?」
レイジのお願いにブレイブはパアッと明るい表情になって答えた。
「もちろんだよ!レイジ君とはもう友達だって思ってるからね!友達のピンチに駆けつけないわけないじゃないか!いつでも頼ってね!」
そう言ってブレイブはレイジの手を握ってピョンピョンと飛び跳ねて喜んだ。レイジは苦笑いしながらもその素直さに少しうれしくなった。
「...ああ。頼りにしてるぜ?ブレイブは俺に勝った男だからな。その実力、信頼してるぜ。」
レイジはそう言ってブレイブの手を握り返した。