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星の勇者  作者: アシラント
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赤紫色の霧の中 その後

サライヤンは赤紫色の霧が晴れた瞬間にレイジたちに気づかれないほどの速さでネリィを探しに行った。そして数分の後、木の上で隠れていたネリィを探し出した。


「ネリィ!!」


サライヤンは木の下から声をかけた。ネリィはヒョコッと木の枝から顔を出して下を見てサライヤンの姿を確認するとパアッと明るい表情を浮かべて飛び降りた。


「サライヤーーーーーン!!!」


ネリィは着地すると同時にサライヤンの胸に飛び込んだ。サライヤンは優しく包み込んで頭を撫でた。


「...悪いな。助けに行けなくて。俺のトラウマが発症しちまったよ。情けねーな。」


サライヤンの言葉にネリィは頭をブンブンと横に振った。


「ううん!サライヤンが『とりあえず木の上にいろ!』って言ってくれたからあたしは人間たちに襲われずに済んだの!ありがと!」


ネリィは屈託のない笑顔をサライヤンに向けた。サライヤンはフッと笑ってよりギュッと抱きしめた。


「ああ。ありがとうな。無事でいてくれて本当に良かった。」


サライヤンはネリィの無事を確かめ、胸をなでおろしてネリィに言った。


「...とりあえず、バトルマスタータウンに行こうか。ゴゴの奴に礼を言っとかねーとな。」


「ゴゴ?ゴゴってあの筋肉が凄い人?ほんと、好きだよねぇ?サライヤン?あたしと出会ってからずっとその人の話ばっかりしてるよ?」


ネリィは今まで何度もサライヤンとの会話の話題に出てきたゴゴの名前を聞いて少しからかうように笑った。サライヤンは少し照れながら答えた。


「え!?ああ、そうだったか?...まあ、人嫌いでさらうことに躊躇(ためら)いが無かった時に、人って捨てたもんじゃねーなって思えたやつだからな。まあ、俺にとって特別な奴だよ。ゴゴは。」


サライヤンは照れながらもゴゴに対する特別な思いをネリィに話した。ネリィは「ふぅーん」と何か思う所があるような相槌を打った。


「まあ、いいや!あたしを助けてくれたのは間違いないし、じゃあ一緒にお礼言いに行こ!」


ネリィはサライヤンの手を引っ張って歩き出した。サライヤンはその純粋な行動に自然と笑みがこぼれた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「...そうか。またゴゴか。」


濃い紫色の壁に囲まれ、青い炎で照らされているかがり火を壁の近くに配置された部屋に、赤いカーペットを入り口から玉座に敷かれた部屋に、魔王は玉座に座っていた。魔王は謎の仮面をつけ、黒いマントを羽織い、黒い戦闘用のスーツを身に着けた状態で肩肘をつきながらウィンドの報告を受けていた。


「はい。申し訳ございません。わたくしが援護に向かったにもかかわらず、目的を果たせず、さらにはこちらがテレポートできるという情報を与えてしまい...」


ウィンドは片膝をつき、頭を下げながら先の戦闘の報告した。魔王は深いため息をついた。


「そうか。テレポートの件はいずれバレると思っていたからいいとして、私は、ゴゴという人間の実力を誤解していたようだな。まさか色兎とエロマのコンビを相手に勝利するとは。私の知ってるゴゴはそんなに強くなかったはずだがな。」


魔王は顎に手を当てて少し考えていた。そしてウィンドはさらに深く頭を下げて言った。


「この失態の処罰は、何なりと。」


ウィンドの申し出に対して魔王は首を横に振った。


「いや、いい。今回の作戦失敗は私の責任だ。ゴゴがラブミストの影響を受けない事を知らなかったゆえの失敗だ。色兎とエロマの容態はどうだ?」


「はっ、両名とも命に別状はなく、1カ月もすれば完治するとのことです。」


それを聞いて魔王はフゥーッと息を吐いた。


「そうか。よかった。...ウィンド。」


魔王はウィンドの名を呼び、ウィンドは顔をあげた。魔王は立ち上がって歩き出し、ウィンドの前へと立った。そして魔王はウィンドの頭をギュッと優しく抱きしめた。


「すまない。お前には、いつも苦しい命令ばかりをしてしまって...お前の実力は強いと、私が自信をもって言えるほどのものだ。それなのに結果を出せない事を悩ませているんじゃないかと不安に思う。すまなかった。」


魔王の言葉にウィンドは目頭が熱くなるほどの感動を覚え、震える声で言った。


「いいえ!そんな!...むしろ恐れ多いほどでございます!まさか魔王様がわたくしの実力をそこまで評価して下さっていたとは...!」


ウィンドの言葉に魔王はフッと笑った。


「ああ。確かに、お前の戦闘力はガイアには一歩及ばないかもしれない。だがな、お前は他の四天王の中で私に対する忠誠心が非常に高く、私の期待に応えようと努力している。そのお前の忠誠心と努力家ゆえの未来への期待度を私は評価している。いずれ、戦闘力でもガイアと互角以上になれるだろうと、私は思っている。」


魔王はウィンドの頭を優しくなでながら言った。ウィンドは心の底から嬉しさが湧き出てきた。


「ま、魔王様...!もったいなきお言葉!これ以上ない喜びでございます!!」


ウィンドは涙をこらえながら感動をその心で味わっていた。そして魔王はうなずきながら言った。


「フフフッ。大丈夫。私はあなたを信じているから。それじゃ、私は色兎とエロマの2人を(ねぎら)いに行ってくるね。」


魔王はそう言うと撫でる手を止めて赤いカーペットを歩き出し、部屋から出て行った。するとその部屋の外で壁に背をつけて腕を組み、出てくるのを待っていたのはガイアだった。


「...ずるい。ウィンドばかり褒められて。俺も褒めろ。」


ガイアはまるで母親に褒められたい子供のような事を言いだした。魔王はフフッと笑ってからガイアのおでこを人差し指でコツンと優しく触れてから言った。


「はいはい。でもガイアの出番はまだ先だからね。次の作戦にはファイアかアイスに行ってもらう予定だからね。」


魔王はガイアの要求を軽くあしらってその場を去った。そしてガイアはムスッとした表情を浮かべたまま不満そうに自分の部屋へと向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「そうか。霧の中はそんなことになってたのか...にしてもゴゴ。お前よく魔王軍十二支獣の一柱に勝てたな!そんなにお前って強かったのか!?」


レイジはゴゴから霧の中であった出来事を聞いてゴゴの強さに驚いていた。しかしゴゴは首を横に振った。


「いや、あれは俺が強いってよりも、相手が弱かったな。俺の個人的な判断だが、色兎はまだあまり修羅場をくぐった事ねーな。俺程度の相手にビビってたからな。だからもしかしたら次に会う時はもっと厄介な奴になってるかもな!そうなってたら最高におもしれ―んだがな!!」


ゴゴは精神的に強くなった色兎を想像してワクワクしていた。レイジはため息をついた。


「ゴゴ、お前ってやっぱ変わんねーな。闘う事しか本当に頭にねーんだな。...まあ、そこがいいところでもあるんだけど...」


レイジはゴゴの個性を認めた。そして姉御はゴゴに聞いた。


「にしても、人間が魔族の味方をしているとはね。あたしも初めて聞いたよ。...まあ、気持ちはわからないでもないが...」


姉御の発言にあんこは不思議そうな顔をして聞いた。


「え?それってどういう意味?魔族って悪いやつじゃないの?」


「ん?まあ、人間を滅ぼそうとするのは悪い事だけど、魔族自体は悪い種族じゃないって事さ。」


姉御の発言にあんこはさらに理解不能という表情を浮かべた。


「えええ?それって悪いことしてるんだから悪い種族じゃないの?」


あんこの発言に姉御はフッと笑ってあんこの頭をギュッと抱きしめた。


「そうだねぇ。あんこにはまだわからないかもね。でも、この世に悪いだけの人はいないって事は覚えていてね。」


あんこは姉御の言葉がまだ理解できなかったが、とりあえず「うん」と言ってうなずいた。そして昆布がレイジと姉御に聞いた。


「それにしても、兄貴と姉御殿はウィンドが瞬間移動したときにどうしてあんなに苦しそうにしていたんでござるか?拙者はそれが一番気になるでござるよ。」


昆布に言われてレイジと姉御は考えた。


『確かにな。俺はどうしてあんなに苦しくなったんだ?あの苦しみ方は、辛いってよりか悲しいって感じだったな。あれは...なんだろう、表現しにくいが...しいて言えば...『共感』...?』


レイジは何故共感という言葉が出てきたのか、自分自身でもわからなかったが、それが一番しっくりくる表現だと思った。そしてそれを姉御に聞いてみた。


「姉御、俺はあの感覚、『共感』って感じがしたんだが、どうだ?」


レイジの言葉に姉御はまるでパズルのピースが当てはまったかのようにハッとした。


「確かに!それが一番近いかも!悲しみが伝わってくるっていうか...苦しかったねって言いたくなるっていうか!そんな気持ちになったね!」


姉御の反応を見てレイジは「やっぱりそうか」と言い、頭の中でなんとなく考えて昆布たちに説明した。


「まあ、要するに、なんでそう思うのかはわからないけどとりあえずあの時感じたのは苦しみの共感だったって事だな。」


レイジの説明を聞いても昆布は眉をひそめて首をかしげたままだった。


「うぅん?つまり、肝心の『なぜそうなるのか』はわからないって事でござるか?それってまたあの瞬間移動の時の黄色く光るやつを見たら動けなくなるかもしれないって事でござるか?」


「まあ、そうだな。たぶんそうなるだろうな。悪いな。」


レイジに謝られて昆布は動揺した。


「い、いやいや!兄貴が謝る事じゃないでござるよ!な、なるほど!まあつまり瞬間移動しようとしたら兄貴と姉御殿が動けなくなる可能性を頭に入れておけばいいって事でござるよね!?簡単なことでござるよ!」


昆布は周囲に漂う気まずい雰囲気を変えようと必死にポジティブな事を言った。そしてネネはレイジの耳元で小声で話しかけた。


「ねえ、ダーリン?本当に大丈夫なの?昆布はああ言ってくれてるけど...そのー、心が変わったりとか...」


ネネはレイジの気持ちに何か変化があるのかを質問した。レイジはギュッとネネの手を握って言った。


「ああ。大丈夫だ。確かに、あの時は悲しみの気持ちでいっぱいだったけど、今は変化ないな。ネネへの愛情も変わらずだしな。」


レイジはすこし照れくさそうにネネの顔を見ながら言った。ネネは顔を真っ赤にしてプイッとそっぽを向いて「ば、バカ...」と言った。レイジはへへへッと照れくさそうに笑った。そしてヤミナが話した。


「あ、あの、う、ウチの機械で調べた結果、すごいことが分かったんだけど...」


ヤミナの言葉にレイジはヤミナの方を向いて聞いた。


「え?すごい事?」


レイジに聞かれてヤミナはおどおどとしながらも答えた。


「あ、あの、そ、そんなにすごくないかもだけど...しゅ、瞬間移動の力は科学のものじゃないって事が分かったの。...あ、あの、そ、それだけ...です...」


ヤミナはだんだんと自信が無くなり最後の方は小声で話した。しかしそれを聞いた姉御は心底驚いた。


「なに!?それは本当かい!?」


「ひぇぇ!は、はいぃ。本当ですぅ。」


ヤミナは姉御の急な大声と反応にビビりながらも答えた。そして姉御は驚きながらもニヤリと笑った。それを見た昆布はまた不思議そうな顔をして聞いた。


「え?そんなに驚くことなんでござるか?」


姉御は昆布の方を向いて説明した。


「ああ。そうだね。つまりだ、あれが科学のものじゃないなら、十中八九幻獣使いの仕業って事になる。つまり、その幻獣使いを殺せば大幅に相手の勢いを殺せるのさ。これが仮に科学のものだったとしたら瞬間移動の装置を破壊してもまた復活する可能性があるけど、幻獣使いなら殺せば二度と復活しない!」


姉御の説明を聞いて昆布はハッとした。


「な、なるほど!つまりその幻獣使いを倒せば拙者たちはこの戦争を有利に進めることができるって事でござるね!?こりゃ希望がどんどん出てきたでござるね!?」


「ああ。まあ、その幻獣使いを探すのが至難の業だろうけどね。だけどまだ希望はあるね!」


姉御はそう言って笑みがこぼれた。そしてそんな会話をしている最中にサライヤンが現れた。


「よう!」


サライヤンの出現によって全員が少し警戒態勢に入った。しかしサライヤンは両手をあげて闘う意思がないことを示した。


「まあ、そう警戒するな。ただお礼を言いに来ただけだ。」


「お礼?」


レイジは聞いた。サライヤンはうなずいてゴゴに目を合わせた。


「ゴゴ!ありがとな。霧の中からネリィを救い出してくれて。」


サライヤンに言われてゴゴは一瞬考えた。


「ん?...ああ!そういえばそういう目的だったな!忘れてた!すまん!」


ゴゴの言葉にサライヤンは一瞬キョトンとした表情になり、そして笑いが込み上げてきた。


「ハーーーーッハッハッハ!!お前忘れてたのかよ!?こいつは本ッ当に面白い奴だな!?まあいい!結果的に助けてくれたことになっているからな!感謝している!!...2か月後の公式戦、お前も出るんだろう?」


サライヤンは一通り笑い終わった後にそう聞いた。ゴゴはニッと笑った。


「ああ!出るぜ!」


「そうかそうか!それを聞いて安心した。俺も出ることにしたからな。...お前と闘うためにな。」


「そうか!楽しみだな!」


「ああ!本当に楽しみにしている...それでな、俺はこの公式戦に出たら、魔族側に亡命しようと思っている。」


サライヤンはさらっと重大な事をゴゴに言った。


「そうか!魔族側に行くのか!?...ん?じゃあネネをさらうつもりなのか?」


ゴゴに聞かれてサライヤンはフッと笑って首を横に振った。


「いいや、それは...諦めた。ネリィに散々怒られたからな。」


「そうか。じゃあ、公式戦の後に出会ったら殺し合いになるな!それはイヤだな!」


ゴゴは笑顔でそう言った。サライヤンはフフッと笑った。


「そうだな。ネネをさらえなかったら俺はネリィとは離れ離れになるだろうな。元々、ネリィは戦闘向きの種族じゃないそうだからな。俺は前線に出て人間たちをぶっ殺して、ネリィはおそらく家族の元へと戻るだろうな。」


「そうかー。まあ、頑張れよ!次の公式戦で闘うことになったら、そん時は全力で勝ちに行くからな!」


ゴゴはサライヤンとネリィの関係にあまり興味がなく、さらっと流し、そして公式戦での闘いで本気を出すことを宣言した。それを聞いてサライヤンはフッと心底嬉しそうな笑みを浮かべた。


「それは...最高の楽しみだな...じゃあな!」


そう言ってサライヤンはネリィと一緒に山の方へと向かって行った。

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