赤紫色の霧③
ゴゴは赤紫色の霧の中を歩き進んでいた。
「うーん。幻獣か幻獣使いがいるっつー話だったが、一体どこにいるんだ?よくわからんが、強そうなやつを倒していけばいいか。」
ゴゴはあまり複雑なことは考えず、ただ敵を倒すことだけを考えて進んでいた。その途中、全裸の女性がゴゴの腕に掴みかかってきた。
「はぁ、はぁ、ねぇ...して?」
女性はゴゴの手を自身の肌にピッタリとくっつけて誘った。ゴゴは眉をひそめた。
「ん?お前は幻獣使いか?」
ゴゴに聞かれて女性は呆けた顔を浮かべた。
「えぇ?なぁに?それ?ねぇ、そんなことより、早くしましょう?もう我慢できないわ?」
「なんだ、幻獣使いじゃないっぽいな。じゃあどっか行け。ジャマ!」
ゴゴは女性の手を振り払いズンズンと進んでいった。その途中、全裸の男女がイチャイチャしていたが、ゴゴは全く興味を持たずに幻獣使いかどうかを確認したらすぐに歩き出した。
「うーん、意外と人がいるなぁ。これも幻獣の仕業か?ビャッコみたいに誘い込んで魂を喰らう感じか?...俺大丈夫かな?なんか、この霧から出られねーし、ちょっと急いだほうがいいのか?...まあいいや、適当に歩いてりゃいずれ見つかるだろ。」
ゴゴは面倒なことは考えずにとりあえず動こうとした。しかし目の前に明らかに異常な存在が2人出現し、ゴゴは立ち止まった。
「あらぁ、あなた、なーんか違う感じねぇ。」
「うふふ!そうね!エッチな気分になってないみたいですわね!」
ゴゴの目の前に現れたうちの1人は裸で大きな胸をたゆんたゆんと揺らしながら乳首と陰部だけは謎の煙で隠れている長く美しい黒髪の女性が現れた。そしてもう1人は顔が白いウサギの顔をしており、服装が真っ赤なバニーガールの衣装を着ていた。ゴゴは一応聞いた。
「お前ら、誰だ?多分幻獣使いだと思うが。」
ゴゴの質問に裸の女性が答えた。
「あらぁ!バレちゃった?うふふ、賢い坊やねぇ。いい子いい子してあげるわよぉ?」
裸の女性はそのおっとりとした印象のタレ目をニコッと笑って母性溢れる笑みを浮かべた。ゴゴはガッハッハと笑った。
「そうか!賢いか!そうだろう!ありがとう!」
ゴゴはニッコリと笑った。その笑顔を見て裸の女性は一瞬キョトンとし、その後、笑いに上品さと色気を感じられる笑い方をした。
「うっふふふふ!まさかお礼を言うなんて、本当にかわいいわねぇ。母性本能をくすぐられるわぁ。」
裸の女性は口を少し丸めた手で押さえながら笑い、ウサギの魔族と思われる者も両手で口を押さえて笑った。
「うふふ!ほんとね!初めて見たよ!お礼言う人!」
2人はお互いにクスクスと笑い合い、ゴゴはよくわからずにノリで笑った。
「ガッハッハ!なんだかよく分からんが、楽しいらしいな!ちなみにお前らはいったい誰なんだ?幻獣使いか?」
ゴゴの問いに対して2人は一旦笑い終えてゴゴにニコッと笑いかけ、裸の女性はペコリとお辞儀した。
「あらぁ、これは失礼。私の名前はエロマ。この霧を発生させている幻獣使いよ。」
エロマは優しく微笑みかけながら名乗った。そしてウサギの魔族と思われる者も続けて名乗った。
「私はね!魔王軍十二支獣が一柱、『色兎』ですわ!」
色兎は右目でウィンクをしながら自己紹介をした。ゴゴはガッハッハと笑った。
「魔王軍十二支獣!?あの牛鬼と同じ肩書の魔族か!?そいつは最高にやべーじゃねーか!?」
ゴゴは嬉しそうに焦った。そしてエロマは膝に手をつき前かがみになってまるで子供をあやすかのように優しく微笑みかけた。
「うふふ。ねぇ、ボク?君はどうしてこの霧の影響を受けないのかしら?」
エロマの問いにゴゴはガッハッハと笑って答えた。
「おう!俺は金玉がねーからな!多分そのおかげだぞ!」
ゴゴの答えにエロマは不思議に思った。
「うーん、そうなのかしらぁ?私の『ラブミスト』がその程度で破れるものなのかしら?だって、死にかけの老人ですら20代の頃の性欲を取り戻すレベルの媚薬なのよぉ?」
エロマの言葉に色兎はうなずいた。
「確かに!それはおかしいね!見たところこの人は健康体そのものなのに!」
色兎はうんうんとうなずきながら言った。エロマはうなずいてゴゴに聞いた。
「そうなのよねぇ。それに、ボクはどうしてこの霧の中に来たのかしら?」
「ん?俺か?まあ、友人に頼まれてな。この霧を消しに来たんだ。エロマとか言ったか?お前を倒したらこの霧は消えるんだな?じゃあ倒させてもらうぞ!それに、どうせ倒さねーと俺出られねーしな!」
「あらぁ!?そうなのぉ!?じゃああなたはもう童貞さんじゃあないのねぇ。うーん、それはちょっと残念ねぇ...」
「ん?童貞?いったいどういう事だ?」
ゴゴは眉をひそめて聞いた。エロマはうふふと妖艶に笑い、答えた。
「この霧はねぇ、一度でも性の喜びを知ったものは出られない仕様になっているのよ?つまり、あなたが出られないのは、性の味を知っているからなの。あぁん、もったいないわぁ。私がその味を教えてあげたかったのにぃ。」
エロマは少し残念そうな表情をしながら笑った。そしてゴゴは興味なさそうに「へー。」と答えた。
「まあ、よくわからんがとりあえず倒させてもらう!」
そう言ってゴゴは拳を握り、脚に力を込めて勢いよく地面を蹴りだし、エロマへと一直線に突撃した。エロマは余裕そうに笑い、エロマめがけて放たれたゴゴの拳は色兎が間に入って防御した。
「...受け止めた!?」
ゴゴの渾身の一撃を色兎はほんの少し押される程度で完全に防御しきった事に、ゴゴは驚いた。そして色兎はフフッと得意げに笑った。
「驚くのはこっちだよ!まさか私がほんの少しでも押されるなんてね!」
色兎はそう言ってバッと腕を振り払い、ゴゴの拳を払った。ゴゴは払われて空中で体勢を崩し無様に宙に舞った。
「うおぉ!?俺を軽々しく跳ね返す!?なんてパワーだ!?」
ゴゴは宙を舞いながら色兎のパワーに驚いていた。色兎はウィンクをしながら笑って答えた。
「うふふ!私はね、発情していればしているほど、そのパワーが増すの!性の力を筋力に変える!これが私たちウサギの魔族の最大の特性!」
色兎はそう言いながらグッと足を踏み込み、腰をひねって全力のぶん殴りを宙を舞っているゴゴの背中にぶち込んだ。ゴゴはそのあまりの威力に「カハッ!?」と肺から空気が漏れ出てしまうほどの衝撃を受け、そのままはるか後方へと吹っ飛ばされた。そして色兎は殴った拳を見て言った。
「うふふ!やっぱりすごいわ!この威力!!エロマちゃんが隣にいてくれるときはまるで牛鬼様並みの筋力になるね!」
色兎に褒められてエロマはニッコリと笑った。
「あらぁ!ありがとね!私は戦闘の方はあまり得意じゃないから色兎ちゃんが居てくれると本当に安心するわぁ!」
エロマはギュッと色兎に抱き着いてお礼を言った。そしてゴゴは吹き飛ばされた場所で全身土埃まみれになりながら立ち上がった。
「くっそー!なんだあの威力!?サライヤンのパンチぐらい痛いぞ!?...やっぱり魔王軍十二支獣の肩書は伊達じゃないな...へへへ!!楽しくなってきたじゃねーか!?」
ゴゴは全身に湧き上がる闘争のエネルギーで筋肉が震えあがるのを感じ、色兎のことを全身で強敵であると認識した。そしてゴゴは狂ったように笑いながら色兎の元へと走って行った。
「うおおおおおおおお!!!絶対に勝つ!!!!」
ゴゴは叫びながら走り、色兎の元まで来た。そしてゴゴは何かを語る前に色兎へと攻撃を仕掛けた。色兎もそのゴゴの熱を感じ取り、エロマを自身の後ろへと回らせて戦闘態勢に入った。
「ガッハッハッハ!!!くらええええええええええええええええ!!!」
ゴゴは叫びながら色兎へと突撃し、脚を踏み込んで体をひねりその右手を振り抜いた。色兎はその拳に合わせるように自身も右手を振り抜いて両者の拳は最高速に届いたところでぶつかった。瞬間、その衝撃は霧の外にまで届くほどの大きな衝撃波になった。そして両者はその力が拮抗していると理解し、互いに全力をぶつけねばいけない事を本能的に察知した。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
両者はその拳に今の全力を注ぎこみ、そして色兎がゴゴの力に勝った。ゴゴは再び拳をはじかれた。そしてゴゴは体勢を崩し、その隙を逃さずに色兎は右足を踏み出して左手でゴゴの横っ腹に自身の拳をねじ込んだ。ゴゴは痛みで顔をゆがめながらもなんとか踏ん張って吹っ飛ばされるのを止めた。そしてゴゴは色兎の左手を掴み、色兎をそのまま自身の後ろへと投げ飛ばした。
「ぐ、ぐぐぐ...なんて重いパンチだ...腹がえぐれるかと思ったぜ...」
ゴゴは右の脇腹を押さえながら言い、そして色兎は投げ飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、両手両足でしっかりと地面を掴んで獣が突撃するかのような体勢になった。ゴゴはそれを見てグッと腰を落として右手を体の後ろに回し、反撃の体勢に入った。そして色兎はまるで弓で弾かれた矢のような、空を切り裂くスピードで飛び出した。ゴゴはタイミングを合わせて右手を振り抜いて反撃しようとした。しかし色兎はそれを読んでおり、ゴゴの右手を両手でつかんでまるで体操選手のように自身の体をグイッと持ち上げてからゴゴの後頭部に渾身の蹴りを食らわせた。
「グハァ!?」
ゴゴは目玉が飛び出てしまうかと思うほどの蹴りに思わず前のめりに倒れこんでしまった。色兎はフゥーッと息を吐いて笑顔になってゴゴに聞いた。
「うふふ!!あなた、本当に強いね!!エロマちゃんが一緒じゃ無かったら苦戦していたと思うよ!...名前は?」
ゴゴはガバッと起き上がって少し間合いを取りながら答えた。
「ゴゴ!俺の名前はゴゴだ!」
「ゴゴ...あんたが...!?」
「ん?なんだ?俺のこと知っているのか?」
「え?ああ。そうね。ガイアと牛鬼様が言っていたわよ。面白い奴だってね。私もそう思うわ!」
「そうか!!ついに俺の名も知られるほどになったか!?」
「ええ...まあ、それ以上に勇者候補の5人の方が有名だけど...」
色兎はボソッとつぶやいた。しかしゴゴはガッハッハと大声で笑っていて聞こえていなかった。そして両者はお互いに目を見つめ合い、ここから本当の、己の全力を出して殺し合う闘いが始まると察知していた。