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星の勇者  作者: アシラント
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波動拳習得

レイジが覚悟を決めて弟子になろうとしたことに、姉御は驚いてレイジに聞いた。


「...驚いたねぇ。レイジが弟子入りを志願するなんて。どうして急に弟子入りを決めたんだい?」


姉御に聞かれてレイジは少し考えてから答えた。


「...俺、先代勇者がどんな人間なのか、全然知らなかった。正直、嫌いだった。だって、俺は別に人類の為に闘うようなことは絶対にしたくなかったからな。めんどくさいから。...でも、先代勇者の存在を聞いて、なんとなく、期待を寄せてしまう人の気持ちが分かったっていうか...」


レイジは今まで嫌っていた人の気持ちが分かってしまい、それを認めたくない気持ちを抱えながらも今思っている事を全て吐き出した。


「...もし俺が弱かったら、それほどまでに頂点に登り詰めた存在に頼ってしまうだろうなーって、そう思ったんだ。...別に、今でもそんな存在になりたいって思ってるわけじゃないけど...子供っぽい理由で強くなるのを拒否するのはやめようって思えたんだ。それに、そのー、俺にも、大切な人が出来たしな...」


レイジはネネの方をチラチラと見ながら言った。ネネはそれに気づいて恥ずかしそうにマントで顔を隠してそっぽを向いた。マスターブラックはレイジの言葉に穏やかに笑った。


「ほっほっほ。そうか。それでいいんじゃよ。お主は自分の闘う理由、そして強くなる理由を明確に出来た。それは素晴らしい事じゃよ。その気持ちがあって、ようやく人は強くなれるのじゃ。人の原動力は心じゃからな。」


「心か...確かにな。」


「うむ!それでは、波動拳の威力減衰を抑える方法を教えるぞ!まず何よりも大切なのは、魂の力を極限まで小さく集中させることじゃ。」


「極限まで、小さく...?」


「うむ。レイジの波動拳は手のひら全体から放っておったのう。じゃが、わしの波動拳は手のひらのほんの一部、肩、肘、手首の三つが一直線に重なる部分、その中でも中心の直径0.1ミリ程度まで絞っておるのじゃよ。」


「直径0.1ミリだと...?そんなに絞れるものなのか?」


「ほっほっほ。肝心なのは質であり量ではない事を知る事じゃな。」


「量よりも質が大事?」


「うむ。いくら魂の力を大量に集中させたとしても、それでは波動拳の本当の使い方は出来んという事じゃ。大事なのはたった一点に集中させること。それでこそすべてを貫く波動拳が出来るのじゃ。まずはそれが出来てからじゃな。波動拳の威力減衰を抑えるためにはそれをマスターする必要があるのじゃ。」


「なるほど、ちなみにコツとかってあるのか?」


「うむ、あるぞ。波動拳は拒絶の拳じゃ。じゃが、貫くためには絶対に必要なものがある。それは『殺意』じゃ。」


「殺意...」


レイジはマスターブラックから発せられたその言葉が重く感じた。


「ほっほっほ。そうじゃよ。通常の波動拳は拒絶。そして貫きの波動拳は殺意じゃ。殺意が限界まで研ぎ澄まされたとき、わしの奥義の『一槍貫(いっそうつらぬき)』を放つことができるのじゃよ。じゃからまあ、通常の波動拳ができても貫きの波動拳はできないって事もあるからのう。特にお前さん、あんまり感情が豊かな方じゃなさそうだしのう。」


「...まあ、否定はしないけど。でも、殺意か。...難しいな。今まで憎くて憎くてたまらない相手に出会ったことがないからなー。...いや、一応いるな。」


「ほう?それはどんな奴じゃ?」


マスターブラックに聞かれ、レイジは一瞬ためらいながらも重たい口を開いた。


「...幻獣のビャッコってやつだな。あいつは...まあ、少し面倒を見た少年たちを異形の怪物に変えたやつだからな。あれはさすがに、俺でも殺意が湧いた。」


レイジは奥歯をかみしめてイライラした表情で言った。マスターブラックはその表情を見て少しため息をついてから言った。


「ふむ、その様子じゃと、貫きの波動拳は使えなさそうじゃな。」


「なに!?なんでだ?」


レイジは驚き、マスターブラックの顔を見た。マスターブラックは少し目を閉じて言葉を考えてから答えた。


「お前さんの殺意には、魂がこもっておらんからのう。」


「魂...?」


「うむ。その程度はただ相手に怒りを覚えた程度じゃ。本物の殺意とは、たとえ自分がどんな目に遭おうとも絶対に!必ず殺すと!胸に誓った覚悟が必要なのじゃよ。」


「...まあ、確かにそこまでの覚悟は無いけど...」


レイジは少しすねて言った。マスターブラックはほっほっほと笑った。


「なあに、気にすることは無いぞ!お主は恵まれた人生を歩んでおるという証じゃ。それに、今のお前さんに必要なのは貫きの波動拳ではなく、波動拳の基礎じゃからな。」


「波動拳の基礎?それは拒絶の波動拳って事か?」


「うむ、わしがお前さんに教えたかったのは、『波動拳を武器にまとわせる』方法じゃよ!」


「武器に...波動拳を...!?」


レイジは目を輝かせて機体の眼差しで聞いた。マスターブラックはその目を見て嬉しそうにうなずいた。


「ほっほっほ!そうじゃ!お前さんは貫きの波動拳よりもそっちの方が強くなるためには必要じゃとわしは判断したのじゃよ。どうじゃ?知りたいか?」


「ああ!知りたい!教えてくれ!いや、教えてください!」


レイジは姿勢を正してお願いした。マスターブラックはひげを撫でて笑いながら言った。


「ほっほっほ!そうかそうか!ならば教えよう。といっても、やり方は単純じゃ。今持っておるその刀に波動拳を流し込むだけじゃ。まずはわしがやって見せよう。」


そう言うとマスターブラックは自身の(ふところ)からナイフを取り出した。


「よいか?まずは波動拳を手に集める。そしてそこからナイフに流し込む。さらにそれを振り抜けば...!」


そう言ってマスターブラックは右手に持っていたナイフを横に振り抜いた。すると数メートル先の木はナイフの刃が当たっていなかったにもかかわらず、綺麗に両断されていた。


「す、すごい!?斬撃が飛んだ...!?」


「ほっほっほ。その通りじゃ。これが波動拳を武器に流し込むメリットのひとつじゃな。」


「メリットのひとつ...?じゃあほかにもメリットがあるのか?」


「うむ。他のメリットとしては、どんなにもろい武器でも魂の力を流し込めさえすればその強度ははるかに増すこともメリットのひとつじゃな。」


「なるほど...だが、それだけのメリットなら神のへそくりの武器にもありそうだけどな。斬撃を飛ばす武器とか。それに、神のへそくりは神のへそくり同士の衝突意外じゃ刃こぼれすらしない強度だし...」


レイジが自分で言いかけて、波動拳を武器に流し込むもうひとつのメリットに気づいた。


「...いや待て、そうか!神のへそくりだと大変だけど、普通の武器なら敵に奪われても大丈夫なのか!なるほどな。」


「ほっほっほ。気づいたようじゃのう。」


2人は分かっていたが、昆布は分からず聞いた。


「いや、全くわからないでござるよ?なにが大丈夫なんでござるか?」


昆布の質問にレイジは答えた。


「ああ。つまり、もし斬撃を飛ばせる神のへそくりが敵に奪われたら、敵も斬撃を飛ばして来るだろ?でも、波動拳を武器に流し込んで飛ばした斬撃なら、たとえ敵に武器を奪われても敵は斬撃を飛ばせない。波動拳を習得していない限りな。だから、武器を奪われたときの被害が小さいのもメリットだって話だ。」


「なるほど!そういうことでござるね!」


昆布は納得した。そしてマスターブラックはほっほっほと笑った。


「そうじゃな。それに、貫きの波動拳は習得するのがかなり難しいのじゃ。それに比べて武器に波動拳を流し込むのはそう難しい事ではないからのう。3ケ月もあればわしの孫のタイダイに通じるほどになるじゃろう。」


「なるほどな。じゃあ早速やってみるか。」


そう言ってレイジは名刀『憤怒の魂』を抜刀し、そして手のひらに波動拳を集中させ武器に流し込んだ。その瞬間、マスターブラックは驚いた。


「なんと!?何の苦も無く武器に流し込めるのか!?お前さん、本当に才能の塊じゃのう!!」


「え?これって難しい事なのか?」


「そうじゃよ!魂の力を流し込める武器には条件があってのう、その武器を自身の体の一部として認識できていることが条件じゃったのじゃよ。最初の1カ月はその修行をしようかと思っておったのじゃが...」


マスターブラックは驚いて開いた口が閉じなかった。それに対してレイジはいたって冷静に答えた。


「...まあ、憤怒の魂は物心つく前から一緒にいたからなー。もう俺の一部みたいなもんだな。」


そう言ってレイジは波動拳を流し込んだ憤怒の魂を左から右へと薙ぎ払い、斬撃を飛ばした。その斬撃はマスターブラックのものとは違い、斬るのではなく叩きつけたように木を破壊した。その違いにレイジは驚いた。


「あれ?さっきのマスターブラックとは違う...なんでだ?」


「ほっほっほ。それはまだお主が波動拳の修練不足じゃからじゃよ。」


マスターブラックは笑いながら言ったが、内心ではホッとしていた。


『ううむ、これで波動拳の飛ぶ斬撃すらもわしと同じレベルで出来ておったらわしの出る幕が無くなるところじゃったな。しかし、わしの予想以上の逸材じゃな。レイジは。これはもしかしたら、本当にわしの孫のタイダイに勝ってしまうかもしれぬな...いや、もしかしたらそれ以上の本当の勇者として人類の希望になるやもしれん...』


マスターブラックは心の中でそう思い、本気でレイジの修行に取り組もうと意識した。

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