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星の勇者  作者: アシラント
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マスターブラックの過去

「え?やだ。」


レイジはキッパリと断った。マスターブラックはシュンとした。


「...なんじゃ、ノリが悪いのう...」


「弟子って...絶対めんどくさいじゃん。それに、俺はバトルマスタータウンにずっといるわけじゃないしなー。」


「ふむう、確かにのう。お主は勇者じゃものな。魔王退治に出かけねばならんか...まあそうだとしてもじゃ!お前さんがわしの弟子になってくれればお前さんは確実に強くなれる!そしてわしは勇者の師匠として有名になって波動拳を世界に知らしめることができる!どっちにも利のある提案じゃと思うんじゃがのう?」


「まあ、利があるのは認めるけど、でも弟子になったら色々と面倒なことがあるんだろう?面倒なのはイヤだね。」


「ほっほっほ。心配することは無いぞ!お前さんが魔王討伐の為に動くだけでわしは十分なのじゃよ。...それに」


マスターブラックはそこまで言ってからさっきまでの笑みは一瞬にして消え、冷たく鋭い目線をレイジに向けて低い声で威圧するように言った。


「お前さん、今のままじゃ魔族に殺されるぞ...?」


レイジはマスターブラックの凍り付くような目線と重たい言葉に戦慄と恐怖を覚え、一歩後ずさった。それを見たマスターブラックはいきなりニコッと笑ってからいつものテンションで話し始めた。


「ほっほっほ。なあに、心配は要らんよ。わしが修行をつけてやるからのう!弟子になるかどうかはそのあとでも大丈夫じゃよ。とにかく、今はお前さんをわしの孫のタイダイよりも強くせねばいかんからのう!ほっほっほ!」


マスターブラックはそう言って穏やかに笑った。レイジはマスターブラックという人物に底知れぬ恐怖を覚え、ボソッとつぶやいた。


「...な、なんなんだ、あの威圧感...それに、俺が殺される?ふざけるな。俺はすでに魔族を退(しりぞ)けているんだ。十分な実力はあるはず...」


レイジがそう言いかけたその時、姉御がその意見を否定した。


「いいや、レイジ。今のはマスターブラックが正しいよ。」


「姉御!?...どういうことだ?」


「確かに、レイジは魔族を退けた。あのネズミの魔族をね。でもあたしから言わせてもらえればあの程度の実力は魔族側にはうようよといるのさ。」


「...まさか、それは言い過ぎじゃないのか?だってあれほどの実力を持った魔族がたくさんいるんだったら、100年間の戦争でとっくに人類は滅んでるだろう?だって、人間側では相当な実力のあるんだぜ?俺は。その俺が互角のチュー五郎がたくさんいるなんてありえないだろ?」


「...そう信じたい気持ちは分かる。けどね、あたしは20年ぐらい前の戦争で魔族と闘ったことがある。だから言えるけどチュー五郎は魔族の一般兵の中では少し強いぐらいのレベルだよ。」


「...姉御。姉御は闘ってないからそう思うだけで、あいつはすっごい強かったんだぞ?俺は恐怖で命乞いしちまうほどに強かったんだぞ?」


レイジは自身の情けない、恥ずかしいときの話を姉御に言った。姉御はうなずいた。


「まあ、そうだろうね。あたしはあんたと同じレベルの相手と命の取り合いをさせたことは無かったからね。けど、それほど強かったと感じたとしても、魔族の中ではちょっと強い兵士ってレベルなのさ。」


「...嘘だろ...だってあいつ、魔王軍の十二支獣(じゅうにしじゅう)害鼠(がいそ)ってやつの弟だったんだぞ?それが弱いわけないだろ?だって、十二支獣って魔王軍の幹部なんだろう?幹部よりもちょっと下のレベルを相手にしたんじゃなかったのかよ?」


レイジの質問に姉御は少しの間沈黙してから口を開いた。


「...それは、レイジが魔王討伐のやる気を失うだろうと思って言わなかったけどね。害鼠はそれほど強くなかったよ。」


「え?」


レイジは絶句した。姉御は力強くうなずいて言った。


「いや、確かに強かった。強かったけれど、20年以上前の害鼠、つまりあたしらが闘った害鼠の父親かな?それに比べるとはるかに弱かったんだよ。まだまだ成長途中って感じだったね。」


「な、なんでそんなことが分かるんだ?」


「オーラさ。」


「オーラ?」


レイジは首をかしげた。姉御はうなずいてから言った。


「ああ。あたしが5歳の頃だったかな?害鼠が先代勇者と闘っているところを見たことがある。その時の気迫や動き方、そして何より人間を恨む気持ちがオーラとなって背に現れていた。それが今の害鼠との決定的な違いだね。」


姉御の言葉にレイジは絶句し、何も言えなくなってしまった。そして姉御はそんなレイジを見てためらいつつも話を続けた。


「だからあの場で最も強かったのは確実に牛鬼(ぎゅうき)だったね。あいつの強さはとてつもないよ。きっと、これから様々な魔族に出会うだろうけど、どんな魔族よりも牛鬼が一番強いと思えるほどの強敵だったね。少なくともあたしはそう思ったよ。」


「な、なんじゃと!?ぎゅ、牛鬼じゃと!?」


姉御がレイジに話しかけている言葉をマスターブラックが聞いて、驚きのあまり声を出してしまった。マスターブラックは額から冷汗を流し、今まで見たことのない驚愕の表情で姉御を見ていた。姉御はマスターブラックに聞いた。


「...牛鬼を知っているのかい?」


姉御に質問されてマスターブラックはハッと我に返り、過呼吸になりつつあった息を整えてから話した。


「う、うむ。今から20年ほど前、わしらが闘った魔族の幹部じゃ。人類側の大陸で最後まで残った要塞の(あるじ)じゃった。」


マスターブラックは顔色を悪くして、苦汁をなめるかのような苦しい表情で話し始めた。


「当時、牛鬼軍は他の魔族たちとは群を抜いて強く、牛鬼軍を倒さねばまた人類側の大陸は攻め落とされると言われていたほどの実力を持っていた集団じゃった。わしも戦場で波動拳を編み出し、他の魔族は相手にならんほどの実力があった。しかしじゃ、牛鬼軍はそんなわしですら苦戦を強いらされるほどの猛者ばかり、その上牛鬼軍を束ねる牛鬼はわしが手も足も出ぬほどの化け物じゃった...」


マスターブラックはその当時の情景を思い出してしまい、手足がガクガクと震え出した。


「...恐ろしかった。当時のわしは仲間の力を借りて逃げることしかできんかった。そして、もっと恐ろしい話がある。それは、牛鬼には息子がいたのじゃ。その名を『牛若丸』という。この牛若丸も牛鬼に匹敵する、いや、一説にはそれ以上の実力があったとされておる。」


「...牛若丸。」


レイジはボソッとつぶやいた。マスターブラックは生唾を飲んでうなずいた。


「うむ。そしてわしらはこれ以上闘うのは無理と判断し、退却しようとした。しかしその時、驚くべきことが起きた。それは、先代勇者パーティーが牛鬼たちを討ち取ったのじゃ!」


マスターブラックの言葉にレイジはパッとマスターブラックの方を見た。


「先代勇者...!?」


「うむ!わしらの攻めに(じょう)じて敵陣に深く切り込み、一気に牛鬼たちのおる本陣に攻め入ったのじゃ!そして牛鬼と牛若丸を倒して人間大陸から魔族を引かせることに成功したのじゃよ!」


「...まじかよ...先代勇者って、そんなに強かったのか?」


「ほっほっほ。強いなんてもんじゃなかったぞよ!その剣を振りかざすたびに敵はバッタバッタと切り裂かれ、魔族のどんな攻撃も華麗にさばき、そして先陣切って人間たちをその言葉で鼓舞して進む姿はまさに希望の象徴じゃったよ!」


マスターブラックはまるでヒーローを見る少年のような眼差しで語った。レイジは改めて勇者という称号がどれほどのものなのかを実感した。


「...マスターブラックほどの実力者ですら魅了する存在なのか...。」


「うむ。わしは20年経った今ですら、あれほどの存在は現れないと確信できるほどの圧倒的な実力、カリスマ性、そして美しさを兼ね備えた完璧な存在じゃったよ。いまだに脳裏に焼き付いておる。その真っ白に輝く長い髪と整った横顔、そして凛々しい声!」


マスターブラックは目を閉じて、少女が恋焦がれるような表情で語った。レイジはマスターブラックに聞いた。


「なあ、どうして勇者はそんなに強かったんだ?」


「うーむ、そうじゃなぁ、実はわしもよくわかっておらんのじゃが、まず何と言っても力じゃな。」


「力?」


「うむ、それは筋力はもちろん、魂の力も圧倒的じゃったな。あの強さは何かカラクリがあるとかそういうレベルのものでは無かったのう。もう単純にすべてのスペックが頂点にまで登っていた印象じゃったな。まさに人類が到達できる最高地点という感じじゃったな。」


「...なるほどな。強さはわかった。ちなみに先代勇者ってどんな性格の人間だったんだ?」


「うーむ、わしも直接話しをしたことは少ししかないからのう。じゃが、確実に言えることは、先代勇者は争いが嫌いじゃったな。」


「争いが嫌い...?」


「うむ。先代勇者は戦争を終結させることが望みだと言っておったな。あれだけの強さを持ちながら、平和な世を夢見てわしらに語っておったな。そのために自身の力をふるうと言っておったのう。」


「...そうか。平和を夢見ていたのか...なんか、主人公って感じの人なんだな。」


「ほっほっほ。そうじゃのう。」


マスターブラックは穏やかに笑った。そしてレイジの中で少しだけ覚悟が変わった。


「...マスターブラック、俺は一応勇者って呼ばれてるけど、それはただ勇者の刀を拾っただけだと思ってた。正直、今でも俺には勇者の資格は無いと思ってる。でも、ちょっとだけ、俺のやるべきことが分かった気がする。それは、勇者になる事じゃない。この戦争を終わらせることが目的なんだって、今ようやくわかったよ。」


「...うむ。そうじゃのう。」


「正直俺は、周りから過度な期待を押し付けられてウンザリしてたんだ。誰も自分で動こうとしないくせに他人には期待する。そんな連中の思い通りに動くのがイヤだったんだ。でも、俺だって戦争なんてくだらないと思ってる。だから、俺は周りの期待とかそういうの考えずに、ただただ今ここにいる俺の仲間を失わないために、戦争のない世界を作りたいと思うよ。」


「...それでいいんじゃよ。きっと誰もがそうなのじゃよ。戦争で大切な人の命を失いたくない。だから20年前の戦争を終結させた勇者という存在に期待を寄せておる。別人であるにもかかわらずのう。それでも、やっぱり頼るしかないんじゃよ。それは人間の弱さであるが、本質じゃ。じゃからお主はそんなこと気にせず、自分の好きなように生きればいいんじゃよ。きっと、先代勇者もそうやって生きてきた結果が戦争を終結させる英雄にまでなったはずじゃからな。」


マスターブラックは優しく微笑みながら穏やかに言った。レイジは少し恥ずかしそうに笑ってからマスターブラックの目を見て言った。


「だから、マスターブラック、いや、師匠!俺に波動拳の使い方を教えてください!俺は強くなって仲間たちを守れるようになりたい!あの魔王軍の十二支獣や四天王が襲ってきても守れるように!」


レイジは覚悟を決めた男の目をしていた。マスターブラックはその目を見てレイジの覚悟を感じ取り、(こころよ)く了承した。


「うむ!ならばまずは波動拳が発生した後の力の分散を抑える方法を教えようぞ!」

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