バトルマスタータウン公式戦開催!
レイジはネネと一緒に姉御を追いかけ、追いついた。
「姉御、まあ、姉御が恋愛に興味があるのは分かるけど、俺とネネの恋愛で楽しむのはやめてくれ。なんか...気まずいわ。親の見たくない部分を見ている気分になる。」
「はいぃ...」
レイジの指摘に姉御は縮こまって反省しながら聞いていた。そしてレイジはガミガミと文句を言っている途中で空からなにかが落ちてきた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!開催だああああああああああああああああ!!!」
レイジは声のする方を見上げる。そして空から何かが落ちてきているのを確認するととっさに後ろへと回避してから名刀『憤怒の魂』を握り、いつでも抜刀できる状態にした。そして空から落ちてきたなにかはそのまま地面へと激突し、激しい衝撃音と砂煙をあげた。地面には落下地点を中心に辺りに亀裂が入った。
「な、なんだ?」
レイジは刀に手を添えながらおずおずと落下地点に近づいていった。すると砂煙の中から大きな人影のようなものが見え、こちらにゆったりと迫ってきた。レイジは十分な間合いを取りながらその姿を確認すると、それはゴゴだった。
「ゴゴ!?お前...何してんだ?」
レイジのまっとうな質問にゴゴはガッハッハと笑った。
「開催だぞ!レイジ!」
「...何の?」
レイジはいつものゴゴを見て刀から手を放して会話した。ゴゴは興奮気味に言った。
「何って...バトルマスタータウン公式戦の開催だぞ!?ワクワクが止まらねぇーーーー!!!」
ゴゴは両手でガッツポーズをしながらはしゃいでいた。レイジは続けて聞いた。
「バトルマスタータウン公式戦?なんだ?それは?」
「なに!?知らないのか!?バトルマスタータウン公式戦ってのはな、バトルマスタータウンの闘技場に参戦している選手が己のランキングをかけて争う最高の試合だぜ!?今までのは単なる賭け事の試合だったが、今回の公式戦はランキングが変動するからな。選手全員のやる気が段違いなんだよ!?」
ゴゴは話しながら体がうずいてきた。レイジはゴゴの説明を聞いてなんとなく理解した。
「なるほどな。ランキングってそうやって変わっていくのか。だが、公式戦っていつ開催されるかってのは大体決まっているもんじゃないのか?例えば6月と12月にやります!とか...」
レイジの質問にゴゴはフッフッフと笑った。
「今回の公式戦は、俺がマスターブラックに言って開催させた。」
「そんなこと出来るのかよ...」
「ああ!先月の公式戦は酷いもんだったらしいからな。信用回復のためにも開催したかったらしい。それにな、俺が魂の力をほんの少しだけ扱えるようになったって言ってマスターブラックをぶん殴ったらなんか、開催してくれるって言った!」
「いいのかよ...それ...」
レイジは困った表情で肩をすくめながら言った。ゴゴはガッハッハと笑った。
「ああ!大丈夫だ!マスターブラックは俺の数倍強いからな!!俺の不意打ちを一回も食らわないほどの強さがあるからな!」
「不意打ちって...お前はそういう卑怯なことはしない印象だったが、意外とするんだな。」
レイジの言葉にゴゴはガッハッハと笑った。
「まあな!マスターブラックは特別だからな!確実に俺の不意打ちを食らわないって信じてるからな!正々堂々と闘いたい相手なら卑怯なことはしないが、ただちょっかいをかけてるだけだからな!」
「不意打ちがちょっかいって...やっぱゴゴって頭おかしいのか?」
「ガッハッハ!そうかもしれないな!だが!面白いからやっちまうんだ!」
ゴゴは大声で笑いながら答えた。そして姉御がゴゴに聞いた。
「ゴゴ、先月の公式戦が酷いって言ってたけど、どんな内容だったんだい?」
姉御の質問にゴゴは姉御の方を向いて答えた。
「ああ!マスターブラックが言うには、ひたすらに盛り上がらなかったらしい。なんでも、現状一位の選手とか二位のサライヤンとかが参戦しなかったからそれだけでひどいのに、その上に他の選手も地味ーな闘い方ばっかりで見ている方が飽きてたらしいぞ?」
ゴゴの返答に姉御は首をかしげた。
「地味な闘い?」
「ああ。相手をK.Oさせる闘い方じゃなくて、ひたすらお互いに判定勝ちを狙うようなせこい戦い方が多かったらしい。」
ゴゴの言葉にレイジは質問した。
「判定勝ち?この闘技場って判定勝ちとかあるのか?俺の時はそんなこと言われてなかったけどな...」
「ああ!マスターブラックがたまに止めに入る時があるんだよ。相手選手が死にかけてたり、戦意を無くしたりしたらな。...そういやレイジには言ってなかったな。」
ゴゴの言葉にレイジは頭を抱えた。
「マジかよー!?そんな制度があるならブレイブとまともに闘わなくてもよかったじゃねーかよー。適当に闘ってから降参すれば、こんな痛い目に遭わなくて済んだのに...なーんで教えてくんないのー?」
レイジはゴゴを軽蔑するような目で見ながら言った。ゴゴはガッハッハと笑った。
「それはな!姉御に言うなって言われたんだ!レイジはどうせ本気を出さなくなるからってな!」
ゴゴの言葉を聞いてレイジは姉御の方を見た。姉御は厳しい目でレイジを見ながら言った。
「レイジ...あんたは根性がないからねー。本気で闘ってもらうにはその方がいいとあたしは思ったのさ。結果、あんたは本気で闘ったしね。」
姉御は淡々と話した。レイジは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも『なんてひどい事をするんだ...』という眼差しを姉御に向けていた。姉御はフフッと笑った。
「レイジ、あんたはもっともっと強くならなきゃいけないんだよ。勇者という使命を一応は背負っているんだからね。」
姉御にそう言われてレイジは不服そうにため息をついた。姉御はそんな生意気なレイジの態度にフフッと楽しそうに笑ってからゴゴに聞いた。
「それで、その公式戦ってのはいつ始まるんだい?」
「ああ!3か月後だ!」
「3か月か...それじゃ、それまでに特訓だね。レイジ、いいね?」
姉御はレイジの目を見て言った。レイジは露骨に面倒くさそうな顔をした。姉御はフフッと笑った。
「そんな顔してもダメ。あんた達には強くなってもらわなきゃ。このあたしを超えるぐらいにはね。」
「姉御を超えるって...やっぱり、ゲンブの強さを目の当たりにして何か考えるところがあるのか?」
レイジは姉御に聞いた。姉御は静かにうなずいた。
「そうだね。正直言って、ゲンブがあれほど強いとは思ってなかった。しかもゲンブいわくあれでも本気じゃないってね。あんな化け物が四天王の1人で、しかも幻獣の王までいるって話さ。魔族との戦争ってだけでも人類存亡の危機なのに、その上に幻獣まで襲い掛かってきたらどうしようもないからね。だからあんた達には少なくとも、それらを退けるほどの実力を身に着けて欲しいのさ。」
「...退ける力か...今の俺たちには逃げおおせる力すらないってのか。...確かに、それはヤバいな。もし幻獣たちが徒党を組んでいて、俺たちを襲ってきたら絶対に死ぬな。」
「ああ。だからレイジたちに特訓をつけようって話なのさ。レイジ、いいね?」
姉御は真剣に、そして優しい眼差しで言った。レイジはうつむいて少し考えてから答えた。
「しょうがないか...闘うなんて嫌いだから修行したくなかったけど、そうも言ってられないんだな...。ハァー、なんで俺は俺の好きなように生きられないんだろうか。俺はただ、ずっと冒険がしたかっただけなのになー。...まぁ、時代を呪っても生きられないしな。死なないための努力をするよ。」
レイジは諦めたように笑った。それを見て姉御はレイジの頭をギュッと抱きしめた。
「ごめんね。あんた達に苦労を背負わせて...あたしがもっと強ければこんな事にはならなかったのにね。」
姉御の言葉にレイジは反論した。
「それは違う!姉御がいてくれたから、俺は今日まで自由に生きてこられたんだ。姉御が居なかったら俺は赤ん坊のまま野垂れ死んでいた。だから...ありがとう。俺、姉御に拾われて、本当に良かったよ。」
レイジは姉御を抱き返して言った。その言葉を聞いて姉御はフフッと笑った。
「...ありがとね。レイジ。じゃあ、生き延びるために修行、サボらないでね?」
「...それはちょっと、保証できないかなー?」
レイジは冗談で言ってみた。すると姉御から恐ろしい怒りのオーラが伝わって来てレイジは慌てて訂正した。
「嘘!嘘だって!冗談だって!やる!やりますから!!」
レイジはあたふたとしながら必死に言った。姉御はフフッと笑ってまたギュッとレイジを抱きしめた。
そのやり取りを遠巻きに見ていた昆布はボソッとつぶやいた。
「...『姉御に拾われて良かった』、か...。」
昆布はまるで生気のない目で姉御とレイジを見ていた。そして近くにいたあんこが昆布の顔を覗き込みながら言った。
「んー?昆布、何か言った?」
「え?ああ、まあ...罪な言葉だなーって。」
「罪な言葉?それってどういう意味?」
あんこに聞かれて昆布はハッとして、ヘラヘラと笑った。
「いやー!まあ!そのー...そうだ!あんこは修行って嫌じゃないんでござるか?拙者は嫌で嫌で仕方がないでござるよー。」
昆布は頭の後ろを指でかきながら言った。あんこはエヘヘ―と笑った。
「別に嫌じゃないなー。だって!強くなるのって楽しいもん!なんかさー!ヒーローになったみたいですっごくワクワクするな!」
あんこはルンルンと空中で踊りながら言った。昆布はうなずきながら言った。
「はぇー!あんこはヒーローになりたいんでござるか?」
「うん!ヒーローみたいに強くてカッコよくてみんなから頼られるすっごい人になりたいの!だから修行するのは結構好きだよ!?でも、昆布はずっとサボってるよね?」
あんこの急な言葉に昆布はドキッと心臓がはねた。
「ええ!?いやー、別にサボってるわけじゃ...」
「ええー!?サボってるよ!絶対!だってあたしがハァハァって息切らしてる修行も、昆布は全然息切らしてないんだもん。絶対手ぇー抜いてるでしょ!?」
あんこはプクーッとほっぺたを膨らませながら言った。昆布はハハハと乾いた笑みを浮かべた。
「い、いやー!あれでも全力だよー?全然手なんて抜いてないって!...それより!そう言えばヤミナはもう起きてる頃でござるかねー?気になるからあんこ、見てきてくれないでござるか?」
あんこはムスーッとした表情のまま言った。
「...今絶対話そらしたでしょ?」
あんこの鋭い視線に昆布は乾いた笑いしか出てこなかった。それを見たあんこはため息をついた。
「まあ、いいや!あたしもヤミナちゃんのこと気になってたし、ちょっと見てくるねー!」
そう言ってあんこはふわふわと浮いて宿屋まで行った。そしてあんこが居なくなってから昆布はボソッとつぶやいた。
「...別に手を抜いたわけじゃないよ。ただ、本当に...楽なんだ。」
昆布は悲しい表情でそうつぶやいた。