バトルマスタータウンに帰還
姉御たちと色々話をしながらレイジたちはバトルマスタータウンに戻ってきた。するとバトルマスタータウンの入り口の前でキョロキョロと挙動不審になりながら立ち尽くしているヤミナが見えた。
「おお!ヤミナ!」
レイジはヤミナの姿を確認すると大きく手を振った。ヤミナの方もレイジたちの姿に気づき、恥ずかしそうに手を振った。そしてレイジたちはヤミナの近くまで来た。
「れ、レイジ君!よ、よかった。ちゃんと無事だったね。」
ヤミナはレイジの無事を確認し、ホッと胸をなでおろした。レイジは軽くうなずいた。
「ああ。ちょうどヤミナが見てないと思われる通信障害の時間に、『ラスト』って半裸ブラジャーの男に出くわしてな。」
「えええ!!?ぶ、ブラジャーしてたの!??」
ヤミナはレイジたちが今まで聞いたことも無いほどの大声で驚き、そして顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。レイジは急に大声を出されて驚いていた。
「おお...そんなに驚くことなのか...。いや、普通は驚くよな。そんな変態が現れたって聞いたらな。」
レイジはようやくまともな反応をする人間に出会えて自身の価値観が間違っていない事を認識した。ヤミナはアワアワと慌てながら縮こまって恥ずかしそうにレイジの顔をチラチラと見た。
「そ、そう、だよね!う、ウチ、ビックリした...!」
ヤミナはほほを指でポリポリとかきながら言った。レイジはヤミナに向かって言った。
「ヤミナ。ありがとな。お前のそのメカがなかったらネネの居場所を突き止められなかった。本当に助かったよ。」
レイジはさわやかに笑って言った。ヤミナはレイジにお礼を言われて思わず気味の悪い笑みを浮かべてしまった。
「ふひ!フヒヒヒ!!い、いやぁー!全然大丈夫だよー?」
ヤミナは上がり続ける口角を抑えることができず、自分自身でも気持ちが悪い笑みを浮かべていると自覚していた。レイジはそんな笑い方をするヤミナを見て『褒められるのがそんなに嬉しいのか?』と心の中で思った。そしてレイジは疲れてくたくたになった体を休めるためにヤミナに言った。
「とりあえず、今は休もう。俺はもう当分動きたくねーな。」
レイジはそう言って宿屋に戻ろうとした。その時に昆布はレイジのそばに近寄り、耳打ちをした。
「兄貴、例の約束、覚えているでござるよね?」
「例の約束?...ああ、ネネに、告白するってやつか。...なあ、今日は疲れてるから、明日にするって事は...?」
レイジはダメもとで昆布に聞いてみた。昆布は般若の面のような形相でレイジを見つめた。その顔を見た瞬間、レイジはギョッとして顔を遠ざけ、そして諦めのため息をついた。
「はぁ、わかったよ。言えばいいんだろ?言えば!全く、こんな疲れてる状態で告白して、ネネに振られでもしたら、お前殺してやるからな!」
レイジは目をカッと開いて眉間にしわを寄せ、怒りをあらわにした表情で言った。昆布はそんなレイジの表情を見て頷きながら答えた。
「別に構わないでござるよ!失敗するとは到底思えないでござるし。それに、兄貴に殺されるのなら、拙者は本望でござるよ。」
昆布は今までレイジが見たことも無い優しく、そして儚げな笑みを浮かべて真面目なトーンで言った。レイジはその言葉が嘘偽りないものだと理解し、昆布の事を少しだけ恐れた。
「...今の言葉、冗談で言ったんじゃないのか?いや、まあ、冗談じゃない事は伝わってきたが...だとしたら相当キモいな。なんで俺に殺されることが本望なんだよ。殺さねーよ!!お前は俺の大事な仲間であり、友達だ。そんな大切な存在を、殺すわけねーだろうが。」
「あ、兄貴ぃぃ...!!」
昆布はウルウルと目に大粒の涙を浮かべながら感動していた。そして昆布は目を服でゴシゴシとぬぐっていつものお調子者な昆布に戻った。
「兄貴ィ!拙者はどこまでも兄貴について行くでござるよ!!この昆布!兄貴に絶対の忠誠を誓うでござるよ!」
昆布はピョンピョンと跳ね回って喜んでいた。レイジは疲れていたために「ハハッ...」と乾いた笑いしか出てこなかった。そんな元気に飛び跳ねる昆布を置いておいて、レイジはネネに振り返った。
「なあ、ネネ。そのー、話があんだけど...さ。今、いいか?」
レイジは頭をフル回転させてネネの様子をチラチラと見ながら慎重に言った。ネネはドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じ、生唾を飲んでうなずいた。それを見たレイジはパァッと表情が明るくなり、そしてみんなに向かって言った。
「じゃあ、みんなは先に宿屋に向かって行ってくれ。」
レイジの言葉に姉御が反対した。
「えええええ!!?あたしらは見て言っちゃダメなの!!?」
姉御はレイジの告白を見ていたかったために、誰よりも真っ先に言った。レイジは野良犬を追い出すように「シッシッ!」と手で払いながら言った。姉御は心底残念そうな表情を浮かべて「どうしても?」と聞いた。レイジは力強くうなずいた。姉御もそこまでされては引き下がるしか無く、渋々宿屋の方へと歩いて行った。レイジはみんなの姿が見えなくなると改めて深呼吸をして気持ちを整えた。
「まあ、その...話っていうのは単純で...俺、ネネのことが、好きなんだ。」
「え!?」
ネネは驚きと嬉しさのあまり口元を両手で押さえた。レイジはその反応を見て困っているのか喜んでいるのかわからず、少し不安になったが話を続けた。
「ああ。だから、そのー、俺と...付き合って欲しい。」
レイジは心臓がバックバクと高鳴り、顔からも余裕というものが感じ取れないほどに真剣な眼差しでネネを見ていた。ネネは嬉しさのあまり言葉が出てこず、呼吸が荒くなった。
二人の間に少しの間静寂が訪れる。レイジはジッとネネの返事を待った。ネネは目から涙がこぼれてきて、泣きながら言った。
「私、魔族の見た目だよ?」
ネネの振り絞って出た言葉にレイジは首を振った。
「そんなことは関係ない。俺は、ただ、君のことが好きなんだ。一目見た時から何かを感じてたんだ。そして、ネネと一緒にいると、胸が高鳴るのを自分でも感じてたんだ。...まあ、つまり、何が言いたいかっていうと...俺は、ネネ。君と一緒にいたい。君と、これからの冒険も、そのあとも、ずっとずっと、一緒にいたい。そして君を幸せにしたい。君の笑顔が見たい!だから...付き合って欲しい。」
レイジは自身の思いを恥ずかしがりながらも全てネネにぶつけた。ネネはその言葉に涙で前が見えなくなるほど人生で最も感動していた。そして泣きながらただ小さく「はい。」と、レイジの顔を見ながら言った。レイジはその言葉を聞き心臓が飛び出るほど跳ね上がり、そして両の手をグッと握りしめて喜びをかみしめた。
「や、やったぁ...!!」
レイジは全身から湧き出る喜びの感情に打ち震えながら小さく、そして力強くつぶやき、ネネの方を見て照れくさそうに笑った。
「じゃあ、これで、そのー、カップル...だな!」
レイジは照れくさそうに、そして心底嬉しそうに言った。ネネも涙の溢れる目を手で押さえながら、うなずいた。レイジは緊張の糸が途切れ、幸せなため息を深ーくついた。その瞬間、レイジの頭上から拍手の音が聞こえてきた。
「そう!それでいいの!!レイジ!!」
レイジは声のする方を見上げた。するとそこにはあんこに両脇を抱えられて空中を浮遊している姉御が拍手をしていた。レイジは姉御がなぜここにいるのかわからず、顔を赤らめながら言った。
「な!なんでいるんだよ!?宿屋に帰ったんじゃなかったのかよ!?」
レイジの質問に姉御はフッフッフと不敵に笑った。
「見たいから来た!!」
「帰れ!」
姉御の言葉にレイジは間髪入れずにツッコんだ。そんなやり取りをしていたらまた聞きなれた声が聞こえてきた。
「うんうん!姉御の言う通りでござるよ!告白はシンプルな方がいいに決まっているでござるよ!!」
レイジは声のする方を向いた。そこには落ち葉の中から勢いよく飛び出してきた昆布がいた。レイジは昆布に向かって言った。
「なんでお前までいるんだよ!?」
「フッフッフ。これが!忍法木の葉隠れの術でござるよ!!...まあ、拙者は忍者じゃなくて侍でござるけどね...」
「いやそんなこと聞いてねーよ...」
レイジは昆布の謎の発言にもツッコんだ。さらにその木の葉の中からブレイブも出てきた。
「いやー!レイジ君!男らしい告白の仕方だね!!」
「ブレイブもいるのかよ...」
レイジは呆れるように言った。するとレイジの持っていた無線機からヤミナの声が聞こえてきた。
「あ、えと、い、一応、ウチもいる...けど...」
「勢ぞろいだな...いや、ゴゴは?」
レイジはほとんど集合している場にゴゴがいない事に気づいた。すると昆布が答えた。
「ああ。ゴゴなら本当に宿屋に帰ったでござるよ。」
「なんで逆にあいつだけ来てねーんだよ!もうこうなったら全員が来ててもいいだろ!...いやよくねーよ!帰れよ!」
レイジは両手を振り回して威嚇した。姉御たちはキャッキャとはしゃぎながらバトルマスタータウンへと入って行った。レイジは全員が居なくなったことを確認するとため息をつき、改めてネネの方を見た。
「...まあ、そのー、うるさい仲間たちと一緒だけど、これからも一緒にいてくれるか?」
レイジはほっぺたをかきながら微笑んで言った。ネネはフフッと笑った。
「こちらこそ、よろしく、お願いします。」
ネネはペコリとお辞儀をしながら言った。そしてレイジは照れくさそうにキョロキョロと周りに目を泳がせながら聞いた。
「ああ、じゃあ、そのー...手でもつないで行こうか?」
レイジの言葉にネネは「え!?」と驚きながらも嬉しく、そして恥ずかしそうにうなずき、手を差し出した。レイジはドキドキしながらもその手を握り、ネネの顔を見ながら微笑んだ。
「お、おし!じゃあ、行こうか?」
「う、うん!」
レイジとネネは2人で手をつなぎながら宿屋まで向かった。




