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星の勇者  作者: アシラント
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湖の決戦その後②

レイジはゴゴとの会話で神のへそくりの『解放』に必要なのは心を通じ合わせることだということを知った。それについてレイジはボソボソと独り言を言った。


「心を通じ合わせるって...神のへそくりってただの武器じゃん。どうやって心を通じ合わせるって言うんだ?そもそも、解放した方がいいのか?解放することでなにか失う事とかはないのか?」


レイジは解放について頭の中で様々な可能性を考えていた。そんなレイジの肩に手を置いて姉御は話しかけた。


「レイジ。今はとりあえずバトルマスタータウンに戻ろう。さすがに今日は疲れたよ。」


姉御は優しく微笑んだ。レイジは頭をブルブルと振るって一旦考えるのをやめた。


「...そうだな。痛たたたた!!そういえば俺、まだ動いちゃいけない体なんだった。」


レイジは左胸の肋骨を抑え、脂汗を流しながら苦しい表情で言った。姉御はすぐに自身の肩を貸した。


「大丈夫かい?...いや、大丈夫じゃないね。本来は。」


姉御はレイジの苦しむ顔を見てレイジが今までやせ我慢をしていたことを悟った。そして昆布は意外そうにレイジの事を見ていた。


「意外でござるねー。兄貴がこんなにボロボロになりながら助けに向かうなんて。拙者はてっきり『今の状態じゃ足手まといになるから俺は行かない!』とか、冷静な判断ばっかりするイメージでござったけど...」


昆布はレイジの物まねをしながら言った。その姿は眉間にしわを寄せて腕組みをしているポーズだった。それを見たレイジは眉間にしわを寄せた。


「俺のイメージそんななのかよ...眉間にしわ寄りすぎだろ...」


レイジは昆布の物まねに苦言を(てい)した。しかしレイジ以外の全員が心の中で『今も眉間にしわ寄ってるじゃん...』と思った。


「今も眉間にしわ寄ってるじゃん!」


あんこは皆があえて言わなかったことを純粋な心で言った。そう言われてレイジは自身の眉間を触り、フッと笑った。


「知らなかった...俺ってこんなに眉間にしわ寄せてたんだ...」


レイジは自身の新たな発見に驚いていた。そして昆布はうなずいて答えた。


「そうでござるよ!拙者のイメージ、意外とあってるでござろう?拙者、兄貴の事なら大体わかってきたはずでござったが、今日の兄貴の行動には驚いたでござるよ。」


昆布は身振り手振りを大きく動かしながら言った。レイジは少し考えてから発言した。


「...確かにな。俺はいつでもその場の状況を読んで最適解を導き出そうとするからな。もちろん、今日だって俺は頭ではわかってたんだ。行かないほうがいいってな。でも、心は行くしかないって言ってたんだ。だから来た。」


レイジは淡々と説明した。その回答に昆布は驚いていた。


「へぇー!兄貴って、意外と情があるんでござるね!血も涙もない冷血論理的思考人間かと思っていたでござるよ!」


「...お前、俺の事本当になんだと思ってんだよ...」


レイジは笑いと呆れが入り混じったため息をついた。そして昆布はそう思った理由を話した。


「だって兄貴ってあんまり魔王を倒すことに興味なさそうでござるからなー。正直、人類が滅んでもそんなに気にしなさそうって感じがしてたんでござるよ。だから誰かを助けるために自身の身を(かえり)みない行動はとらないって思ってたでござるよ。」


昆布は淡々と自身の思っているレイジの性格を話した。レイジはそれを聞いて頷きながら聞いていた。


「...まあ、だいたいあってるな。俺は別に、俺の知らない人が何人死のうが興味ないな。けど、俺の大切だと思っている人が死ぬのは絶対に許せないんだ。ただそれだけの話って事だな。」


レイジは自身の思っていることを話した。昆布は感心した。


「そうだったんでござるね!さっすが兄貴!いやー!拙者はまあもちろん!兄貴が情に厚い男だって知ってたでござるけどね!...ほんとでござるよ?」


昆布はわざとらしく前から知っていた態度で話していた。レイジはそんな昆布を見て笑いながら言った。


「まったく...調子のいいこと言いやがって!」


レイジは昆布のお調子者なところが面白く、つい笑ってしまうほどに気に入っていた。そんな雑談をしている最中に、事件は起きた。


「なるほど。お前らが...」


音も無くいきなり目の前に筋肉が引き締まったガタイのいい半裸の男が現れ、レイジたちを見回していた。レイジたちは一瞬で警戒態勢に入った。そしてレイジは刀を抜きながら質問した。


「...誰だ?」


レイジの質問に半裸の男は両手をあげて闘う意思がないことを示した。


「俺は闘いに来たわけじゃない。ちょっと、そのー、勇者パーティーの顔を見に来ただけだ。」


半裸の男は顔をそらしながら言った。誰の目にもそれが嘘であることはバレバレだった。しかしレイジはそんなことよりも気になるものが目に入った。


「...ところでお前、なんででっかいブラジャーをしているんだ?」


レイジは男の胸についていた濃い紫色のブラジャーを指さして言った。男は自身の目線を下に落として確認すると平然とした表情で答えた。


「ああ。取るの忘れてたな。まあ、気にしないでくれ。」


「気にするだろ...変態かよ...」


レイジは小声でツッコんだ。そのツッコミを半裸の男は聞いており、ハハハッと笑った。


「そうか、お前が『レイジ』だな?あいつの言っていた通りの性格だな。」


下半身はボロボロの黒い布切れを腰に巻き付けており、長く黒い髪の黒いたれ目、そしてだるそうな話し方の半裸の男はレイジの名を知っていた。レイジは少し驚き、再び質問した。


「...なぜ、俺の名を?」


「まあ、有名だからな。俺の中では。」


男はボサボサの髪の毛をかきむしりながら答えた。レイジはさらに気になることを聞いた。


「さっき、あいつって言ってたよな?あいつって誰だ?」


様々な質問をするレイジに対し、半裸ブラジャーの男は人差し指を立てた。


「ちょっと待て。俺はもう行かなきゃいけない。時間が限られてるからな。じゃあな。」


半裸ブラジャーの男はそう言って逃げようとして、くるっと体を後ろに向けた。しかし何かを思い出し、レイジに向かって顔だけを振り向かせながら言った。


「ああ、そうだ。俺の名前、『ラスト』って言うんだ。これからよろしくな。」


ラストはそういうととてつもない速さで逃げて行った。その場にいた全員が追いかけるのを一瞬で諦めるほどに圧倒的なスピードだった。レイジはその速さに驚いた。


「嘘だろ...あんなふざけた姿してたのに、なんでこんなに速いんだよ...もしかして、サライヤンしかり、変態は強いのか...?」


レイジはこの世界の異常者を連続で見て、自身の価値観が揺らいでいるのを感じた。しかし姉御は冷静にツッコんだ。


「いや、たぶん数少ない強い変態が連続しただけだと思うけどね...少なくとも、あたしはそう信じたい。」


姉御は自身の願望も入り混じった意見を言った。レイジもそれに激しく同意した。


「うん。これ以上俺の価値観を揺さぶらないで欲しい...。それより!ヤミナに連絡しないと!あいつの接近にヤミナも気づかなかったのか?気づいていたなら連絡くらいするはずだろ?」


レイジは今までずっと見張ってくれていたヤミナがあの半裸ブラジャーの男の接近について何も教えてくれなかったことに少しだけ違和感を感じていた。するとそのヤミナから連絡が来た。


「...しもし?...もしもし!?レイジ君!?だ、大丈夫!??」


ヤミナは必死な声でレイジに呼び掛けていた。レイジは通信機を手に持ち返信した。


「ああ。ヤミナか?俺は無事だ。」


レイジは冷静に話した。ヤミナは通信機越しにでもわかるほど、安堵の息をついていた。


「よ、よかった。じ、実は、さっきからそこら辺で電波障害が発生してたの...。だ、だから、もしかしたらレイジ君たちに何かあったんじゃないかって、心配してたの...。」


『うぅぅぅぅ...どうしよう。レイジ君に役立たずだって思われて嫌われたらどうしようぅぅぅぅ』


ヤミナは不安になり、早口で理由を説明していた。しかしレイジはそんなことは考えておらず、むしろその理由を聞いて納得していた。


「そうか、だからあの半裸ブラジャーの男は時間がないって言って逃げたのか...。いや、そうするとあの半裸ブラジャーの男は俺たちの中にヤミナの存在があることを知っていたのか?いつ?どうやって?」


レイジは一つの疑問が解消されると同時にもう一つの疑問が浮かび上がってきた。しかしレイジは姉御に言われる前にハッと気づき、一旦考えるのをやめた。


「いや、今はバトルマスタータウンに戻るのが先決だ!戻ってからサライヤンの言っていた神のへそくりの『解放』の件と、半裸ブラジャーの男の正体について考えることにするか...」


レイジはそう独り言をつぶやいてバトルマスタータウンに向かって歩き出した。

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