サライヤンvsゴゴ&ネネ③
ゴゴとネネはヨロイヤンを装着したサライヤンと対峙していた。ゴゴはニイッと笑った。
「サライヤン...それがお前の本気って事か!?」
サライヤンは土煙の中からノッソノッソとゆっくり歩きながら出てきた。
「そうとも!これが俺様の最強の形態!!...まあ、俺様の美しいスケベボディが見られなくなるのが大弱点だがな...」
「なるほど。最美最強の裸状態と、最高最強の甲冑まといか...美しさが無いのは俺たちにとっても最高のアドバンテージだな!!ネネ!!」
ゴゴはキリッとした表情でニコッと笑った。ネネは感性がまともだったので普通に疑問を抱いた。
「いや、どこがよ??美しさがあっても無くても変わんないんだけど...むしろ強くなってる分もっと厄介なんだけど...」
ネネは眉をひそめてゴゴの方を見た。ゴゴはキョトンとした表情からガッハッハと高笑いをした。
「何言ってんだよネネ!美しさが無いって事はな、ロマンが足りてないって事だ!!これ以上ない有利な状況だろ!!!」
「え?ロマン?......ん???」
ネネは本気で困惑した表情で首をかしげた。ゴゴはガッハッハと笑うだけでそれ以上は説明しなかった。さっきの説明で理解できていると思い込んでいたからである。そしてサライヤンは図星をつかれて動揺していた。
「うぐぅ!!?さ、さすがはゴゴだ...俺の本質的な弱点をしっかりと見抜いていやがるな...」
サライヤンは甲冑をまとった姿でもわかるほどに動揺している様子が明らかだった。ゴゴは得意げに鼻を鳴らした。
「ふん!そこに気づかないとでも思っていたのか??逆に心外だぜ!!ロマン不足を見逃すほど、俺の目は死んじゃいないぜ!!!」
「くっくっく...それでこそゴゴだ!!」
ゴゴとサライヤンはお互いに心の底から通じ合っているかのように話し合っていた。それをポカーンとした表情で見ていたネネは心の底から思った。
『ああ...バカなんだ。この人たち...言っていることの半分もわかんないわ...』
ネネは理解することを諦めて一言もしゃべらなかった。そしてゴゴはネネに言った。
「ネネ!お前もまだ本当の実力を隠してんじゃねーのか?」
ゴゴの指摘にネネは一瞬沈黙し、目線はサライヤンの方を向いたまま口をゆっくりと開いた。
「...どうして?」
ネネは否定はしなかった。その答えを聞いてゴゴはガッハッハと笑った。
「ノリだ!!俺もサライヤンも本気を出してきているからな!!次はネネの番かと思っただけだ!!」
ゴゴの回答にネネはガックシと肩を落としてフフッと笑った。
「つまり、当てずっぽうで言っただけって事?はぁ...まんまと騙されたわ。まぁ、その通りなんだけどね。」
ネネは片方の口角だけをあげて笑みを浮かべた。ゴゴはフフンと鼻を鳴らした。
「だったら、出し惜しみしない方がいいぞ!サライヤンはとんでもなく強いからな!!ロマン不足が弱点とはいえ、それ以外は全て俺の能力を上回るからな!!」
ゴゴの言葉にネネは深くため息をついた。
「...そうね。出し惜しみしてまた殴られたくはないものね。...本当はこの姿を見せるのは仲間の誰であれ嫌なんだけど、そうも言ってられないものね。」
ネネは仕方なく、諦めの感情がこもったため息を吐いてから集中し、自身の内なる魔族の本能を目覚めさせた。するとネネの姿は次第にトカゲのような鱗が全身に浮き出始め、口は恐竜のような前に尖った形になり、さらに背中から大きな翼が生え始めた。それを見たゴゴもサライヤンも同様に驚いていた。
「おお...うおおお!!?」
ゴゴはネネの姿かたちが変化する様を見て、驚きとともにかっこよさを感じた。
「す、すげぇ!!カッコいいぜ!!ネネ!!俺もそうなりてぇなぁ!」
ゴゴはまるで少年のようなキラキラとした眼差しで見ながら言った。ネネは変身した後に、サライヤンに向かって言った。
「この姿になった私は、力が数倍にも跳ね上がるの。せいぜい気を付ける事ね。」
ネネは挑発とも取れる発言をした。サライヤンはフッフッフと不敵に笑った。
「これが魔族の中で最も筋力が高いとされる『竜族』の真の姿か...やはり魔族は素晴らしい生き物だな。この星の支配者はやはり魔族であるべきだな。」
サライヤンはボソッとつぶやくように言うと、今までの適当な構えではなく、左手を脇を閉じて腰の横辺りに置き、右手を開いたまま正面に構える姿勢をとった。それを見たゴゴはガッハッハと笑った。
「その構え!!そうそう!!そうでなくちゃなぁ!!!」
ゴゴは狂ったように口角を上げ、真っ白い歯を輝かせながら笑った。そしてゴゴは深く腰を落とし、勢いよく地面を蹴りだしてサライヤンへと一直線に突撃して行った。その速さは今までの速さとは比べ物にならないほど速く、隣にいたネネですら飛び出した瞬間をとらえることができないほどだった。
「どぅあらああああああああああああ!!!!」
ゴゴは叫び声と同時に左ストレートを思いっきりサライヤンの顔めがけて放った。サライヤンはその左ストレートをまるで美しい女性が迫りくるナンパを華麗に断るかのような、右手でゴゴの左手の内側をそっと撫でるように押して軌道をそらして避けた。
そしてグッと握りしめた左手で鉄拳制裁を加えるがごとく、右足に体重を乗せ、ゴゴの脇腹に重たい正拳突きを食らわせた。
「ガフッ!!?」
ゴゴは口から血を出し、そのまま吹っ飛ばされていった。
「グアアアア!!」
ネネはゴゴが吹っ飛ばされた瞬間にはすでにサライヤンの目の前まで来ており、間髪入れずにサライヤンに襲い掛かった。ネネの鋭い爪の一撃が右手から繰り出される。その攻撃をサライヤンは今さっき殴ったばかりの左手をパッと開いて一瞬にして男性的な腕から女性的なしなやかな腕になり、ネネの一撃を自身の腕から肩に沿わせるようにして流した。
『なっ!?』
ネネはサライヤンの腕が一瞬で変化したことに驚いた。実際には変わっていないのだが、変化したように見えるほどに緩急の差が激しかった。そしてサライヤンは右手を女性的なしなやかな腕から一気に男性的な暴力的な腕へと変化させ、そのままネネの胸の心臓辺りに正拳突きを放った。
ネネは殴られた衝撃で地面を足でえぐりながら後方へととばされた。そして足で踏ん張って止まった後に、ガハッと口から血を吐き出した。
そしてサライヤンは2人の攻撃を受けて思った。
『単純なパワーで言えば、竜族のあの子の方が強いのか...まあ竜族の筋肉に加えて、魂の力もあっちの方が上手く扱えているからな。現時点ではって所かな。』
サライヤンはフゥーッと息を吐いて呼吸を整えた。ネネは殴られた胸の場所を手で押さえながらもサライヤンをにらんでいた。
『今の動き...まるで流れる清らかな水と激しく燃え盛る炎のような攻撃...これが武術ってやつなの?』
ネネは初めて体験する武術にどう攻めればいいのか困惑していた。ゴゴはいつも通り何も考えずに突撃あるのみだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ゴゴはまた正面から挑んできた。サライヤンはその攻撃をスルッとかわして受け流し、右ひじでゴゴのみぞおちを思いっきり突いた。ゴゴは顔が歪むほどの痛みを受け、その場から動くことができなかった。その隙をサライヤンは見逃さず、回転しながらジャンプをし、そのまま後ろ回し蹴りをゴゴの顔面へと思いっきり放った。ゴゴの顔面は鼻っ柱が折れて鼻血が流れるほどの衝撃を受けた。
「ググッ...うぐぐぐぐぐ!!」
ゴゴはそんな攻撃を受けても嬉しそうに、狂ったように笑った。そんなバーサーカー状態のゴゴを見てネネは聞いた。
「ちょっとゴゴ!むやみやたらに突っ込んで行っても意味ないんじゃないの?もっとこう...あの武術に対する弱点とかは無いの??」
ネネはまともな質問をした。ゴゴはネネの方を向いた。
「弱点か...威力の高すぎる攻撃は受け流すことができない!!!俺は何年か前の試合でそうやって闘ってた!!...まあ、勝てたことは無いんだけどな!!!」
「笑顔で言う話じゃないでしょ...でも、なんとなく理解したわ。中途半端に打ち合っても意味は無いのね...やるならダメージ覚悟で攻め続けるって事ね。」
「ああ!しかもあの鎧!!あれすっげー重いんだぜ!!俺が着てそう思ったんだから、相当重たいぞ!!!今までいろんな装備を試してきたけどよ、あの鎧が一番重かったな!!!」
「そう...そんなに重いんだ...」
「ああ!だからな!!サライヤンがあの位置からほとんど動いて無いのは動きたくても動けねーんだ!だから!インファイトに持ち込めばなんとかなる!!...気がする!!」
ゴゴは確証のない事を自信ありげに話した。ネネはそれが何の確証も無い事だと理解していながらも、今はそれに賭けてみるほかなかった。
「...そうね。じゃあ2人で両側から攻めましょう!そうすれば、いくら強くても受け流しきれるとは思えないもの!」
ネネがそういうとゴゴは力強くうなずいてサライヤンの右手側に走って近づいていった。それに合わせてネネも、サライヤンの左手側へと走って行った。サライヤンは2人の話を聞いていたために近づいてくる前の段階で余裕の表情を鎧の中で浮かべながら言った。
「確かに、この鎧はとんでもなく重い。だが、俺様の圧倒的な武術をもってすれば、お前らごときをさばききる事なんぞ...」
サライヤンは余裕そうに言い、両側からくるゴゴとネネの猛攻に対して全力で受け流そうとした。しかしサライヤンの予想とは全く違い、サライヤンはボコボコに殴られていた。
「ウガァッ!ぐえぇ!うぎぃ!グヘェ!!」
サライヤンはゴゴとネネの攻撃を全くさばくことができず、普通にくらっていた。サライヤンは殴られながらも考えた。
『あれぇ!?おかしいな...全然さばけねぇ。竜族の女の子がさばけないのはともかく、ゴゴの方をさばけないのは何でだ???...んん??んんん???んんんんんんんん?????』
サライヤンはゴゴの攻撃を受け流せない事が本気で理解できなかった。しかしその理由はすぐに判明した。
『ゴゴの奴...攻撃の威力が上がっている...!?』
サライヤンは初めにゴゴに殴られたときはネネの方が威力が強かったはずなのに、今はそれが同じだということに気づいた。そして忘れていた数年前の感覚が蘇ってきた。
『ああ...そうだった。こいつは死に近づけば近づくほど、その攻撃力を増すんだった。俺様も数年前の試合でそれで負けかけたんだ。こんなバカみてぇな奴になぁ...」
サライヤンは思っている言葉とは裏腹に、非常に嬉しそうな笑みを鎧の中で浮かべた。そして両腕をグググッと胸の間でクロスさせたのち、バッと左右に広げてゴゴとネネを弾き飛ばした。
「さすがに、舐めてたよ。お前ら、強いな。」
サライヤンはフゥーッと息を吐きながら言った。ゴゴはすぐに体勢を立て直してニッと笑った。
「そりゃそうだ!!俺は最強だぞ!!!」
そう言ってゴゴは再びサライヤンへと近づきに行った。ネネもそれに合わせてサライヤンへと向かっていった。しかしサライヤンは余裕そうに首をポキポキと鳴らし、肩を回しながら言った。
「どうせお前らは知らねぇだろうから教えてやるが、神のへそくりには、『解放』という力がある...」
サライヤンは近づいてくる2人に向かって話しかけていた。しかし2人はこのチャンスを逃さまいと必死だったため、あまり聞いていなかった。そしてサライヤンはそんな2人の様子にあきれながらも不敵に笑った。
「ヨロイヤン!!!!かいっ......ほおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
サライヤンがそう叫ぶとヨロイヤンの目が緑色に光り、全身の線から緑色のイナズマが周囲へと走り出した。そしてヨロイヤンは空中に浮きだし、さらに激しくイナズマを発生させた。
その異様な光景にゴゴとネネは一旦近づくのをやめて様子を見ていた。
「ななななな、なんだぁ!!?このバチバチしてる緑色のイナズマはぁ!?」
ゴゴは初めて見る光景に驚き戸惑っていた。それはネネも同じだった。
「この光...なんだか嫌な予感がする...」
ネネの予感は的中していた。しかし2人はこのまま止まっているわけにはいかなかった。2人は覚悟を決めてサライヤンに殴りかかった。しかしサライヤンは一瞬にしてその場からいなくなり、ゴゴとネネは互いの拳と腕がぶつかった。
「なにぃ!?消えたぞ!!?」
ゴゴは周囲を見渡した。すると左側からさっきの光が見え、そっちに目線を向けた。そこには空中で漂っているサライヤンが居た。
「神のへそくりの『解放』の力は神のへそくりによってどんな効果が得られるかは違う。このヨロイヤンはな、反重力装置を足場に生み出すことで、自身の重さという欠点を克服することができるのだ!!!」
サライヤンは空中で腕組みをしながら丁寧に説明した。ゴゴとネネは驚いて口が開いたままになっていた。
「マジかよ...これ、勝ち目無くねー?」
ゴゴは目をパチクリとさせながら言った。