ネネvsネリィ②
ネリィは地面をけり出し、ネネへ向かって闘いを仕掛けた。ネネはつま先立ちをしていつでも動けるようにしていた。
「はああああああ!!!」
ネリィはまっすぐに突っ込み、右手のナイフを逆手に持った状態でネネに斬りつけた。ネネはそのナイフをボクシングのような避け方の、後ろに上半身をのけ反らして避けてからカウンターのジャブを繰り出した。その攻撃はネリィの顔を捉えたかに見えたが、ネリィは左手でネネの拳を掴んで防御していた。
「...思ったよりも速くないわね。」
ネネはサライヤンが言っていたほど速くなかったことをネリィに言った。ネリィはクスッと笑った。
「それはー、あたしがまだ本気を出してないからかなー。いきなり本気を出すのはダメでしょ?サライヤンが言ってたよ!『闘いは、相手の情報を引き出してから本気を出すものだ』って!」
ネリィはそう言いながら空振った右手のナイフをネネの心臓部に刺そうとした。ネネはネリィの腕をつかんでその攻撃を防いだ。
「...確かにそうね。いきなり本気で挑むのは後のことを考えていない考え方かもしれないわね。」
ネネはそう言いながらグルグルとその場で回り出し、ネリィを放り投げた。ネリィは空中で素早く体勢を整えてキレイに着地した。そしてネリィはフフッと可愛らしく笑った。
「そうだよー!サライヤンは意外と真面目なこと言うんだよー?見直したー?」
ネリィは首を左右にかしげながら言った。ネネはフッと笑った。
「そうね。思っていたよりかは、まともなのね。」
ネネはそう言って今度はネネの方からネリィの方へと一直線に近づいて行った。ネリィは動じることなく軽やかなステップを踏みながらネネの様子をうかがった。ネネは自身の間合いまで入ると右手の爪をとがらせ、そのままネリィの体を貫こうと攻撃した。ネリィはその攻撃を身をかがめてネネの懐にもぐりこんで回避した。
「そこ!」
ネリィはネネの攻撃を避けると同時に右手のナイフでネネの左脇腹を斬りつけながら駆け抜けていった。しかしネリィはある違和感に気づいた。
「あれ...?感触が違う...?」
ネリィはネネの肉を斬ったと思ったが、手に伝わる感覚はまるで金属にぶつかったような感触だった。不思議に思ったネリィは駆け抜けながら振り返った。するとネネの体にまとっていたマントがネリィのナイフを防いだことに気づいた。
「えええええええ!?なんでマントがそんなに固いの!?」
ネリィは驚きのあまり声を出していた。ネネはフッと笑った。
「ネリィは...とても素直なのね。見ていてとても面白いわ。...でも、今は戦闘中だからね。」
ネネはネリィの純粋さが好きになり始めていた。しかし今は戦闘中なのでネネは感情を押し殺して非情に徹しようとした。そんなネネとは真逆に、ネリィは褒められたことを素直に喜んだ。
「えへへ...ありがと!あたしもネネと喋ってるとなんか楽しくなってくる!...だから、ごめんね。あたしたちのわがままで捕まえようとしててさ...」
ネリィは罪悪感で辛そうな表情を浮かべて上目遣いで言った。ネネはその瞳を見て心が揺らいだ。
『...そんな顔しないでよ。せっかくこっちが非情になって闘おうとしているのに、そんな顔見ちゃったら...やりずらいじゃない...』
ネネは心苦しそうにため息をついてキッと目の表情を変え、戦闘モードに入った。
「もう話し合いは意味ないわね。だったら、私はあなたを倒してでも逃げさせてもらうわ!」
ネネはそう言って両手の爪をとがらせ、ネリィに対してインファイトを仕掛けた。ネリィはネネの攻撃を距離を取って間合いに入らないように平地を逃げながら、近づかれたらナイフでの反撃を加えつつ距離を取ることに専念した。
『ネネちゃんの攻撃はまともに食らっちゃダメだね。パワーで言えばあたしよりも全然強いからね。だからあたしが勝つためには、スピードで勝負するしかないね。...でも、あのマント、どうやって攻めればいいんだろう?』
ネリィはネネのパワーとマントの防御を崩せる算段が思いつかず、攻めあぐねていた。ネネもそのことを理解していた。
『ネリィは私のパワーとマントの防御力を恐れているみたいね。私がわざと隙を作ってもむやみに懐に入らないのは意味がない事に気づいている証拠ね。この子、思っていたよりもずっと闘い慣れているのかしら...?まあ、そうだったとしても勝つしかないんだけどね。問題はどうやって勝つかね...。私は今全力でネリィを追っているけどあの子はまだ余裕があるみたい。スピード勝負は絶対に勝てないわね...』
ネネは一旦ネリィを追うのをやめた。ネリィもそれを見て距離を取ったまま止まった。
「あれ?鬼ごっこはもう終わり?」
ネリィは息一つ乱さずに聞いた。ネネは少し呼吸を整えてから言った。
「ええ。どうやら私から追いかけても一生捕まえられなさそうだったからね。だから...!」
ネネはそう言ってクルッと反転して全速力で木々に向かって走り出した。その様子をネリィはポカーンと口を開けて頭の上に『?』を浮かべながら見ていた。そしてハッと気づいた。
「もしかして...逃げた!?」
ネリィはネネが本気で逃げ出したことに気づき、急いでネネの後を追った。ネネは木々の中を信じられないスピードで走り抜けていった。ネリィはネネが平地でのスピードと森の中のスピードを比較してもほとんど落ちていない事に驚いていた。
『ええ!?普通森の中ならもっと走りにくくない!?なんであんなに速く動けるの!?』
スピードの落ちていないネネに対してネリィは平地とは違い、全力で走ってもネネに追いつくのには時間がかかっていた。そしてネネはそんなネリィの様子を見て確信した。
『やっぱり、森の中でのスピードならいい勝負できるみたいね。まあ、私は森の中でずっと暮らしていたからね。森に関しては一流って所かしら。』
ネネは冷静にそう分析しつつ、だんだんと近づいてくるネリィに対してはジッと機会を待っていた。
『...まだよ。まだ、もっと引き付けてから...』
ネネはそう思って後ろにいるネリィに意識を置きながらも全力で逃げていた。ネリィは追いかけながら麻酔を塗った針を投げつけた。しかしそれはネネのマントがすべて防いだ。
『うーーー。あのマント強すぎ!この麻酔針、当たりさえすれば絶対眠くなるから当てたいのに―!』
ネリィはマントの防御にイライラして焦っていた。
「もう!にげないでよー!」
ネリィはそう言って一直線に突進してきた。その行動を見てネネは『今!!』と心の中で叫んでクルッとネリィの方を向いて右手にマントを巻き付けて右手を大きく振りかぶった。
『まっずい!!!?』
ネリィはそう思ったが時すでに遅く、地面に足を置いて急ブレーキをかけても止まれず、そのままネネの渾身の一撃を腹にくらった。
「うあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!」
ネリィは汚い声と血を口から吐き出しながら木々をなぎ倒して吹っ飛ばされていった。ネネは息を切らしながら満足そうに笑った。
「さすがに...この一撃を喰らったら...立てないんじゃないの?」
ネネはネリィが吹っ飛ばされた地点を見ていた。土煙が上がっていたが、徐々に晴れてくる。ネリィは腹を抑えながら地面に横たわり、口から血を流してうずくまっていた。それを見たネネは少し申し訳ない気持ちになった。
「...そこまで効くとは思って無かったわ。...ごめん。」
ネネはネリィに近づきながら言った。ネリィは腹の痛みに震えながらも必死に立ち上がろうとしていた。しかしそこにサライヤンが現れた。ネネは一瞬で距離を取り、戦闘態勢に入った。
「さ、サライヤン!?...ゴゴは負けたの?」
ネネは聞いた。しかしサライヤンはチラッとネネの方を見た後、すぐに目線をネリィの方へと向けた。
「ネリィ...派手にやられたな。大丈夫か?」
サライヤンはネリィの様子を見ながら聞いた。ネリィは腹の痛みに耐えながら必死に笑いかけた。
「さ、サライヤン。すっごく痛い!なんとかしてぇ?」
ネリィは冗談っぽく言った。それはネリィなりの気遣いだった。それに気づいたサライヤンはフッと笑った。
「なら、俺のケツドラムでも聞くか?おそらく元気になるぞ!」
サライヤンはケツを突き出して冗談を言った。ネリィはフフフッと笑って木を背もたれにして寄りかかった。
「聞き飽きた!」
「そうかー。じゃあ効果は薄いか...仕方ない。ちょっとそこで待ってろ。今片づける。」
サライヤンはそう言ってネネに攻撃を仕掛けようとした。しかしその間に空から落ちて入ってきたのは銀色の西洋の甲冑のようなものを全身につけた謎の大男だった。その男はネネの真ん前に落ちてきて、サライヤンの方を向いていた。
「...だ、だれ!?」
ネネは大男が落ちてきた衝撃で生じた風圧を手で押さえながら言った。その大男はよく聞きなれた声で言った。
「ハーーーーーーーーーッハッハ!!逃がさねーーーーぜ!!!サライヤン!!!」
その声はネネは良く知っていた。
「まさか...ゴゴ!?」
「ん?ああ!?ネネじゃねーか!生きてたかー!よかったな!」
ゴゴはいつも通りの緊張感のない言い方で言った。ネネは再び質問した。
「ど、どうしてそんな格好に?」
「ん?これか?これはな!すごく痛い!」
「いや、意味が分からないんだけど...」
ネネは困惑した。しかしそれ以上に驚き、困惑していたのはサライヤンの方だった。
「ゴゴ...お前...え?お前...幻獣使いだったよな?」
「ああ!!よく覚えてるな!!最強の能力を持った男だぞ!!!」
「...だよな。お前に無理やり着せたその装備...神のへそくりだぞ?普通...痛くて動けないよな?」
「ああ!!!死ぬほど痛い!!つーか、死んでるかも!!!」
ゴゴはガッハッハと大笑いしながら言った。サライヤンはポカーンとしていたが、だんだんと笑いが込み上げてきてゴゴと同じくらい大笑いをした。
「ハーーーーーーッハッハッハ!!!ゴゴ...やっぱりお前は面白いぞ。俺を笑わせてくれた礼だ。ケツドラムを聞かせてやる!」
サライヤンはゴゴに向けてケツを突き出してパパンパンパパンとリズムよくケツを叩いた。ゴゴはそれを聞いてガッハッハとさらに笑った。
「いいねぇ!!第二回戦の合図としては、最高の音だ!!!よし!!ネネ!!!ここは協力ってやつで倒すぞ!!」
ゴゴはこぶしを握り締めて言った。ネネもフッと笑って拳を握った。
「あんたが協力を申し出るなんて、珍しいじゃない。」
「まあな!!サライヤンはとんでもなく強ぇからな!それに、一対一での決着はリングの上でやりて―からな!」
そう言ってゴゴとネネはサライヤンと闘う姿勢を整えた。サライヤンはフッと笑って二人を見た。
「どうやら、本気で相手した方がいいらしいな...ここからは俺も、魂の力を解放する!!!」
そう言ってサライヤンは全身からあふれ出るほど、大量の魂の力を解放した。