ゲンブvs姉御軍団②
ゲンブは口から舌をダルーンと出しながら倒れた。それを見たあんこは姉御の元へと駆け寄った。
「やったね!姉御ちゃん!あたしら勝ったよ!!」
あんこは嬉しそうに言った。ネネも姉御の元へと駆け寄ってフフッと笑った。しかし、姉御はずっとけわしい表情をしながらゲンブのことを見ていた。そしてゲンブに問いかけた。
「タヌキ寝入りなんて、やることがせこいじゃない?四神獣の一柱なんでしょう?あんたがこんな攻撃で倒れるとは思えないんだけど?」
姉御は再び薙刀を構えて言った。するとゲンブは何事も無かったかのように目玉を動かして姉御の方を見た。
「あぁららぁ。ばれちゃったぁ?」
ゲンブは自身の頭から流れる血を前ヒレで拭きながら起き上がった。その行動にあんことネネは驚いた。
「嘘!まだ生きてるの!?」
あんこは驚きつつも再びヒシちゃんたちを展開し、ネネも額に汗を流しながら戦闘態勢に入った。そして姉御が問いかけた。
「なんで死んだふりなんかしたんだい?あんたほどの実力者なら、そんなせこい手を使うまでも無いと思うんだけどねぇ?」
姉御の問いかけにゲンブはニヤッと笑った。
「まぁねぇ。そんなことしなくてもぉ、勝てるんだけどねぇ。勝つなら楽な方がいいじゃないぃ?」
ゲンブはそう言って手始めに湖を泳いでいるゴゴを捕まえて湖から出した。
「ゲへぇ!!」
ゴゴは岸に投げ飛ばされて変な声が出た。そしてすぐに体勢を整えて姉御に聞いた。
「姉御!ゲンブって強くね?」
その単純な質問に姉御はうなずいた。
「ああ。そうだね。どうやらあたしらの想像以上の実力を持っているようだね...正直舐めてたよ。これだけの人数でかかれば倒せると踏んでいたけど...どうやら全員が本気を出しても倒せるかどうかって所だね...」
姉御はゲンブの防御力のすさまじさに苦虫を噛み潰したような表情になった。そして姉御は再び全員に命令を出した。
「全員!今は湖から離れろ!ゲンブの防御力を貫くのは並大抵の攻撃じゃ通らない!だから一転突破のために今は引いて作戦を練り直す!」
姉御はそう言って湖から離れて木々に隠れた。全員が姉御の言うとおりにしようとした。しかし、その瞬間に、ネネを狙う何者かが現れた。
「うっひょおおおおおおおおお!!!本当に魔族がいるじゃーーーん!!!」
木々の中から現れたのは緑色のアイドルの様な衣装を身に着けた胸毛が濃く、筋肉モリモリのおじさんが現れた。
「...誰?」
ネネは後ろをゲンブに、前をそのおじさんにふさがれた。そしてネネと一緒にいたゴゴがそのおじさんを見て言った。
「その姿...もしかして、『イエティアイドルのサライヤン』か?」
ゴゴはその顔をよく見た。もじゃもじゃなひげとアフロ、さらに完璧に割れたけつ顎。そして男性ホルモン多めな、かくばった顔立ち。それを見てゴゴは確信した。そしてサライヤンは自身の名を覚えていたことに対してフッと満足そうに笑った。
「そう!!その通り!!この俺様こそがぁ...人さらいのサライヤン様さぁ!!!」
サライヤンは片手を天に掲げ、顔はうつぶせるというポーズをとって言った。そしてサライヤンの背後にパァンという破裂音がしたと同時に、紙吹雪が舞った。
「よっ!大将!ノリノリだねぇ!?」
サライヤンの背後から現れたのは犬が擬人化したような姿の女の子だった。その毛は薄茶色で、鼻の下あたりからは白い毛で覆われていた。そして耳が上についており、目は真っ青な瞳だった。服装は盗賊らしく、黒い布地に赤のラインが入ったマントを羽織っていた。ゴゴはサライヤンに聞いた。
「なんだ?その女の子は?ずいぶんと毛深いな。サライヤン以上じゃないか?」
そう問われたサライヤンはキョトンとした顔になって、そののちに大笑いをした。
「ハーーーーーーーーッハッハッハッハッハ!!!そうかゴゴ!!お前にはネリィが毛深い女の子に見えるか!?こいつは面白れぇなぁ!!ハーーーーッハッハッハ!!」
サライヤンはゴゴの回答がよほど面白かったのか、バカでかい声で笑った。そんなことをしている最中にゲンブが水を操ってゴゴとネネに襲い掛かった。ゴゴとネネはそれを避けてサライヤンの隣を横切って行った。
「悪いな!サライヤン!今は逃げてる最中なんだ!用事なら後にしてくれ!」
ゴゴはサライヤンにそう言って逃げようとした。しかしサライヤンはシュッと何かをネネに向かって投げた。ゴゴはそれを手でつかんで言った。
「なんだぁ?狙いはネネか?」
「おぉーう!ご名答ご名答!!さっすがゴゴ!俺のことわかってくれるねぇ!!?」
サライヤンは手を叩いてゴゴを褒めた。ゴゴはその投げられたものを見た。それは針だった。
「...眠り針か?」
「なんとぉ!!またまたご名答!!連続正解のご褒美に、俺のケツドラムを鳴らしてやるぜ!!」
そう言ってサライヤンは自身のケツを丸出しにし、パパンパンパパァンとケツを叩いた。ゴゴは嬉しそうに言った。
「...いい音だな。鍛えられたケツの音がする...やはり筋肉の詰まり方が違うな!」
ゴゴの反応に昆布はさすがに突っ込んだ。
「ああ。そういうの分かるんだ...いや、分かったとしてもおかしいって思う所だろ...なんでケツドラム?もしかして、煽られてる?」
昆布の独り言は誰にも届くことは無く、サライヤンは話を続けた。
「フッフッフ。さすがはゴゴ。俺のケツドラムで気圧されないとは...やはりお前は格が違うな!!」
昆布は再びボソッとつぶやいた。
「いや、格が違うっつーか、ただ単に変態なだけでは?それを理解できるゴゴもまた変態ってだけでは?」
昆布は思わず口に出して言った。しかしそれもゴゴたちの耳に入ることなくゴゴは迫りくるゲンブの水を避けながら逃げようとした。
「悪いな!今は本当に緊急事態なんだ!お前にかまっている暇がないんだ!!じゃあな!!」
ゴゴはそう言って逃げ出そうとした。しかしサライヤンは追いかけて、ゴゴの先回りをした。
「そうかそうか!!でもざーーんねん!!俺もその子に用があってね!!悪いが、さらわせていただく!!!」
サライヤンは目にも止まらないスピードで襲い掛かってきた。ゴゴは何も見えないまま様々な場所から殴られた。
「ぐはぁ!ぐげぇ!うげぇ!...あ、姉御ぉ!!緊急事態発生!!襲われてまーーーーーす!!!」
ゴゴは情けない声を出しながら大声で言った。姉御はそれを聞いて振り返った。
「ゴゴ!?あんた...なんでそんな変な人に絡まれてんのよ!?」
「俺じゃない!!狙いはネネの方!!俺は盾になって守ってるだけ!!!痛いから早く何とかしてくれーーーーー!!」
ゴゴは襲い掛かるサライヤンの攻撃を全く見ることができず、ボコボコにされていた。姉御は仕方なくサライヤンに攻撃を仕掛けようとした。しかしそれをゲンブの水が邪魔をした。
「ゲンブ...なんて厄介な!!」
姉御はゲンブの方を見た。ゲンブはニタァッと笑っていた。
「なーんかよくわかんないけどぉ、僕の味方をする人がいるみたいだねぇ。だったら僕はぁ他の人たちを狙うよぉ。」
ゲンブはそう言って姉御とあんこと昆布に水で襲い掛かった。かなり岸から離れたにもかかわらず、追ってくるゲンブの水は姉御たちにとって脅威だった。
「くっ...これじゃあゴゴたちの援護ができない...仕方ない!ゲンブの動きを止めてからゴゴたちの援護に回るよ!!あんこ!昆布!援護しな!!」
姉御に言われてあんこと昆布は嬉しそうに返事した。
「もちろん!!仲間を助ける為だったら、いくらでも手を貸すよー!!」
「拙者もでござる!!援護ならお手の物でござるよ!!」
そう言って姉御とあんこと昆布はゲンブに戦いを挑んでいった。そしてネネはゴゴに聞いた。
「ちょっと!ゴゴ!あの毛深いおっさんは何者なの!?」
ゴゴは腕をクロスして守りの状態に入りながら答えた。
「さ、サライヤンはバトルマスタータウンの闘技場に出場できる実力者。イエティアイドルの異名を持つ男。見た目以上にとんでもなく素早い!!俺はサライヤンと闘って勝ったことが一度も無い!!それぐらい強い奴!!」
「そう...そんな相手がなんで私を狙うの!?」
「それは...わかんねーけど、たぶんネネが魔族だからじゃないか?」
「魔族だから...?」
「ああ。サライヤンは人さらいで金儲けしてるからな。魔族はその界隈では貴重な奴隷として高く売れるらしい。だから狙ってるんじゃないか?」
「そう...じゃあ、あの犬みたいな女の子はなに?」
「さぁ?...毛深い女の子かと思ったけど、違うっぽいしな...もしかしたら、あれが魔族なのかもな。サライヤンの奴隷って所か?」
「あれが...本物の魔族...」
ネネは初めて見る魔族と思われる少女に何か感じるものがあった。それは言葉では言い表せない、驚きや、物珍しさや、同族ゆえの親近感のような感情が入り混じったものだった。
「...でも、私みたいに肌の色が紫色じゃないわ。毛がふっさふさだし、顔つきだって犬そっくりよ?」
ネネの質問にゴゴはうーんと考えた。
「それは...よくわからねーよ。もしかしたら魔族じゃねーのかもな...とにかく!俺には分からん!魔族にはいろんな種類がいるって事かもな!」
「そう...まあ、そうよね...」
「...それより!早くこの状況を何とかしてくれねーか!?いい加減殴られ過ぎて死んじまうぞ!?」
ゴゴはサライヤンの攻撃にさらされ続けて体中をボコボコにされていた。ネネはそう言われてハッとした。
「...ごめん。初めて見る姿に見とれていたわ。」
そう言ってネネはようやく戦闘態勢に入った。