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星の勇者  作者: アシラント
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山を登った先にはゲンブがいた

姉御たちは川の水が増していることに違和感を感じて山のふもとまで歩いてきた。


「...やっぱりおかしいね。山の近くまで来たけど、大量の雨が降っているわけでもないね。じゃあなんでこんなに川の水が増量しているんだろうか?」


姉御は鋭い眼差しで川の方を見ながら考えた。そして一つの仮説にたどり着いた。


「もしかしたら、幻獣の仕業かね?それぐらいしか可能性としては考えられないよね。」


姉御の仮説にあんこは首をかしげた。


「幻獣の仕業?どーしてそう思うの?」


「うーん。まあこれは消去法で考えた結果だからね。これだけ不思議なことを起こせるのは幻獣の能力しかありえないって思っただけさ。」


「へえー!たしかに幻獣の力なら水を生み出すことなんてすぐに出来そうだね!ヒシちゃんも出来るしね!」


あんこはそう言って水のヒシちゃんを取り出して自身の周りをまわらせた。姉御はあんこの頭をなでながら言った。


「確かにね。だからもし相手が幻獣だったとしたら、容赦しちゃダメだよ?幻獣は恐ろしい力を持っているんだからね!」


姉御はあんこに言った。あんこはコクリとうなずいた。


「もちろん!わかってるよ!幻獣はひどい事ばっかするもんね。ネネの故郷の人とか、ダンたちとか、ひどい目に遭わせてきたもんね!許せないよ!」


あんこは正義感に燃えていた。姉御はあんこの立派さと危うさを感じながらも笑顔で答えた。


「...そうだね。許せないって思う気持ちは、大切にしなさい。」


姉御はあんこのまっすぐな姿勢に対して思う所がありながらも褒めた。





----------------------------





姉御たちが山を登っている最中にレイジはベッドの上でただ暇そうに外の景色を見ていた。そこに扉を開けて入ってきたのはヤミナだった。


「れ、レイジくん。た、体調はどう?」


ヤミナは困ったように眉をひそめながら聞いた。レイジは意外な人物の登場に驚いた。


「ヤミナ?どうしてここに?」


「え、えと、ウチは闘いになったら足手まといだから、レイジくんの所に戻ってようって思って...」


「...なるほど。確かにヤミナは全く闘えないって言ってたもんな。でも、ヤミナの造った様々な機械は戦闘や移動とかにも役立ちそうだと思うけどな。」


レイジに言われてヤミナはヘラヘラと笑った。


「そ、そうかもね...でも、ウチはさっきのレイジくんとブレイブさんの闘いを見て巻き添えで死ぬなって思って...それで、ウチを守るために誰かが犠牲になるくらいなら最初から付いて行かない方がいいかなーって思って...」


ヤミナはうつむいて指を合わせながら言った。レイジは納得した。


「...そうだったのか。確かに、姉御とかあんことかネネとかは誰かを守るために自分が犠牲になりそうだしな...ゴゴはそんなこと絶対にしないだろうけど...」


レイジはゴゴの自分勝手さを十分理解していた。ヤミナもうなずいた。


「そ、そうだね。う、ウチも、ゴゴさんと一緒にいて気づいたけど、あの人、人の目を全く気にしない人だよね。...ちょっとだけ、羨ましいかも...」


ヤミナは最後の一言は声を小さくして言った。レイジは窓の外を見ながらうなずいた。


「...確かにな。あれだけ自分勝手にやれるなんて、一種の才能だと思うよ。正直、羨ましいな。俺も勇者の責任とか全部放棄して冒険だけを出来たらいいんだけどな。まあ、それをしたら未来がない事は俺が分かっているからしないんだけどな。...ゴゴが俺の立場だったら、きっと勇者の責任なんか放棄して闘いまくるんだろうな...」


レイジはゴゴの自由さが羨ましかった。ヤミナはそれを聞いてうなずいた。


「...そうだね。ゴゴさんはまるで子供みたいだもんね。...ウチも、もっと自由に生きてたら、人生変わってたのかな...?」


ヤミナはいつものヘラヘラした笑いをせずに、感傷に浸る悲しそうな顔をしながら窓の外を見て言った。レイジはそんないつものヤミナとは違う表情に驚いた。


「...ヤミナ。お前、過去に何かあったのか?」


レイジに心配されてヤミナはハッと意識を現実に戻してまたいつものようにヘラヘラと笑い始めた。


「...え?いやいやいや、何もないよ。ふひひ!れ、レイジくんが心配してくれた...ふ、ふひひひひ!」


ヤミナは嬉しそうに笑った。レイジはそんなヤミナの笑いにどこか寂しさを感じた。諦めを感じる笑い方のように見えた。


「...ヤミナ...まあ、大丈夫さ。今までどんなことがあったのか知らないが、これから変わっていけばいい。俺たちはまだ若いからな。それに、これから先どんなことがあっても、俺はこのチームのみんなと一緒ならどんな困難でも乗り越えられると思ってるしな。」


レイジはニッと笑って言った。ヤミナはその笑顔がまぶしく感じた。そしてヤミナは深く目をつぶってから優しく微笑んだ。


「...ありがとう。」


ヤミナはただ一言、それだけを言ってレイジの手を握って慈しみの眼差しでレイジの方を見た。レイジはそんなヤミナの表情を見てフッと笑い、「ああ。」と言ってうなずいた。





----------------------------





「...なあ、あれって完全に幻獣だよな?」


ゴゴは山の中腹にある湖の真ん中でゆったりと泳いでいる巨大なカメを発見した。姉御は隠れる気も無いその幻獣に警戒しながらもうなずいた。


「...ああ。そうだね。あれはたしか、ファイアたちと闘ってた時に現れたゲンブとかいう幻獣だったはず...どうしてあいつがこんな場所にいるんだろうか?よくわからないけど、警戒は怠らないようにね。何をして来るのか分からないからね。」


姉御はそう言って幻獣に気づかれないように木々に潜んで移動しながらゲンブとの距離を詰めていった。あんこたちは姉御の後ろをついて行った。ゲンブは相変わらず間抜けな顔をしながら湖で遊泳していた。


「よし、それじゃあまずはあたしが出てゲンブと話が通じるか試してみる。あんこと昆布はここで待機。ネネとゴゴは反対側に回って挟みこめる場所で待機。いいね?」


姉御の作戦にあんこ、昆布、ネネはうなずいた。ゴゴは「えーーーー?」と言って駄々をこね始めた。


「さっさと闘った方が良くないか?俺は闘いたくてもう我慢出来ねーよ!」


「...ゴゴ。今はあたしの作戦に従ってもらうよ。もしそれが出来ないっていうんなら...分かってるね?」


姉御は鋭い眼光でゴゴをにらみつけた。ゴゴは委縮して「は、はいぃ。」と言ってトボトボと歩いて行った。それを見たネネは驚いた。


「...まさかあのゴゴが素直に話を聞くなんて...姉御さん。どうやってゴゴを制御しているの?」


「ん?まあ、簡単な事さ。あいつはあたしに罪がある。その上命を救っている恩もある。だから従っているだけさ。」


「罪と恩?」


ネネは首をかしげた。姉御はフッと笑ってネネの肩に手を置いた。


「まあ、そのうち言うさ。だけど今はゲンブに集中しなきゃいけない。分かるね?」


姉御に優しく言われてネネはモヤモヤした疑問を一旦飲み込んでうなずいた。そしてネネはゴゴの後を追って配置についた。それを見た姉御は木々から飛び出して大声を出した。


「おーーーーーーい!!!ゲンブーーーーー!!ここで何をしているーーーー!!」


姉御の呼び声にゲンブはぬぅぅっと首を動かして姉御の方を見た。そしてゆったりと泳ぎながら姉御のいる岸辺まで来た。


「おーーーーやーーーー?なーんーかー、みーたーこーとーあーるーぞー?」


ゲンブは相変わらずのろまな喋りかたで言った。姉御は再び聞いた。


「だから、あんたはここでいったい何をしているのかって聞いてんのさ。」


姉御に言われてゲンブは間抜けに顎を開きっぱなしにしながら前ヒレで顎をかいて言った。


「そうだねぇ...。僕はー、ここで泳いでいただけですよぉ...」


ゲンブはあくびをしながら答えた。姉御は再び聞いた。


「泳いでいただけ?じゃあ、何故雨も降っていないのに川の水が増しているんだい?あんたが何かしたんじゃないのかい?」


姉御の尋問にゲンブはため息をついた。


「はぁぁぁぁ。なーんだ...もうバレちゃったのかぁ...ざーんねん。」


ゲンブはぐでーっと首を下ろしながら言った。そして姉御は眉をひそめた。


「なんだい。やっぱりあんたの仕業だったのかい。...どういうつもりだい?」


「...まぁ、答えてあげてもいいですよぉ...。僕はねぇ。水を操る幻獣なんだぁ。だからぁ、川の水を操ってぇ、そこにある街を壊そうかなーってぇ、思ってたぁ。」


「...なんでそんなことをするんだい?」


「なんでって...それはぁ人間の魂を食べてぇ、復活するためだよぉ。」


「復活?」


姉御はずっとけわしい表情のまま聞いた。ゲンブはずっととぼけた表情のまま喋った。


「そうだよぉ。...もしかしてぇ、知らなかったのぉ?僕たち幻獣はぁ...人の魂を食べることでぇ、強くなれるんだよぉ?」


「...そうかい。じゃあ、それを今すぐやめろって言っても、無駄かい?」


姉御は殺気を飛ばして言った。ゲンブはそれでも緊張感のかけらもない表情で言った。


「うぅーん...どうなんだろぉ?僕じゃぁ決められないかもねぇ...」


「決められない?じゃあ、誰がそれを決定するんだい?」


姉御は聞いた。ゲンブはそこでなんとも恐ろしい笑顔を見せた。


「もちろん...『幻獣の王』だよぉ!」


ゲンブはニタァッと気味の悪い笑みを浮かべた。姉御はその笑みが本能的に受け付けないものであると直感してゲンブから距離を取った。


「そうかい。じゃあ、今やろうとしている街の破壊をやめてくれって言ったら、どうする?」


「それはぁ出来ないねぇ。だって、僕はお腹が空いているからねぇ。それに、君たちに出会ったら『レイジ』君は捕獲しろって言われてるんだぁ...残念ながら、今はいないみたいだけどねぇ。」


ゲンブはあんこたちのいる場所とネネ達のいる場所を見て言った。姉御は舌打ちをした。


『やっぱり、その程度じゃバレるか...まあ、それでもやるしかないか...』


姉御はそう思って号令を出した。


「全員!!!目標はゲンブ!!!総攻撃開始!!!」


姉御の号令であんこたちは一斉に飛び出して襲い掛かった。ゲンブはニタァッと笑った。


「水のあるところで僕と闘うのぉ?やめといたほうがいいと思うよぉ?」


ゲンブはそう言って目にグッと力を入れて戦闘態勢に入った。

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