ママの誕生日には
Kobitoさまの『ほっこり童話集』企画に参加させていただけることになりました。
ありがとうございます!
柴野いずみさまの『母の日のカーネーション企画』に、旧作ながら参加させていただけることになりました。柴野さま、ありがとうございます!!
アヤちゃんは冬が好きです。なぜなら「イベントもりだくさん」だから。
でもこれはお兄ちゃんがいつも言うことで、どういうことだか、アヤちゃんはよくわかってません。ケーキやお菓子がいっぱい食べられることみたいなので、お兄ちゃんの口まねしてるだけ。
12月最初に、アヤちゃんの待ちに待った誕生日。そのあと、クリスマス、お正月、2月は節分とお兄ちゃんの誕生日、3月はひな祭り、おはぎを食べてパパのバースデー。
学校のお友達は「ぼたもち」って呼んでたけど、パパが「おはぎ」っていうから、アヤちゃんはおはぎが正しいと思っています。
ひとつだけ、毎年困ってしまうことがあります。四人家族、みんな仲良しなのにママの誕生日が出てきていません。
ママは夏生まれだと思うでしょう?
違うんです。ママの誕生日も冬。
なのに、いつもケーキ無し。
それじゃあだめですよね?
でもその日は1月2日なんです。
おせちとおぞうに、基本元旦とおんなじお食事。
前の日のほうがよっぽどお祝いだなんて、なんか嫌です。
ママに、「ケーキ欲しくない?」と聞いても
「いいの、いいの」と笑っています。
近所のおいしいケーキ屋さんは12月30日から1月3日までお休みです。スーパーだって、三が日お休みだったりします。
コンビニというのもあるらしいけれど、アヤちゃんにはどれがそのお店なのかわかりません。
去年のお誕生日は、パパがお夕飯のときに、「一本つけて」と言ってお酒を飲んでいました。お正月だから前の日も飲んでいましたが。
ママにも注いであげて、ちょっと恥ずかしそうに「誕生日おめでとう」って言って、ママもちっちゃなお湯のみみたいなのにちょびっとだけもらって、両手で嬉しそうにお口に運んでいました。
だから今年アヤちゃんは、「何か特別なこと」がしたいのです。一年生も二学期まで過ぎました。いつまでたっても妹だけど、もう大きいのです。
そう思いながらも名案は浮かばず、「イベントもりだくさん」に追われて迎えてしまった新年。
元旦が来て年賀状を受け取って、「とーしのはーじめのためしとて〜」と家族で歌ってからおせちとおぞうにを食べて、みんなで初もうでに行って、おふろに入ってまたご飯を食べてお布団に入ると、明日のママの誕生日がとっても気になります。
――ママに何かしてあげたい。
2日の朝が来て、年賀状も来ないので、おこたのパパのお膝の上にわざわざ座って一緒にテレビを見たりもしましたが、何ともそわそわ落ち着きません。
プレゼントを買おうにも、アヤちゃんはまだおこづかいをもらってなく、お金の必要なときに要るだけをママがくれます。
「プレゼント買うからお金ちょうだい」なんてママに言えるわけありません。
お札のお年玉がもらえたのは、今年が初めて。きちんとお礼を言って、袋ごとママに取って置いてもらうことにしました。
お金があったとしても、今日開いているお店はなさそうです。
と、なると。
今、家にあるもので何とかしなくてはなりません。
――ケーキなんて焼けない。私が持っているものの中で、ママが欲しいものってあるのかな?
てんで思いつきません。ママはいつだってアヤちゃんの欲しいものをズバリ当ててくれるのに。
――どうしよう、どう、しよう?
考えれば考えるほどこんらんします。
――ママの好きなものって何だっけ?
何も思いつかない自分にがっかりしてしまいます。
そうこうしているうちに、パパとママはマンションのりじさんのところへごあいさつに行くことになりました。
ママはきれいにお化粧して耳には小さなお花のイヤリング、ドレスは黒いけどかわいく、おひざのところでレースがギザギザしています。
「同じ建物の中だから、お兄ちゃんと一緒にお留守番な?」
パパに頭を撫でてもらって、アヤちゃんはコクリとうなずきました。
ママたちが行ってしまうと、お兄ちゃんは子供部屋でゲームを始めます。
アヤちゃんはこたつの部屋で考えました。
そう、ママはお花が好きです。だからアヤちゃんもお花が好きなのですから。
お花屋さんは開いてません。でも、もしかしたら、ゾーカなら作れるかも!
――ママはバラの花が一等好き。でも、バラはたくさん花びらがぐるぐるしてて、どうやって作ったらいいかわかんない。
アヤちゃんの頭の中で何か閃いています。
何かを思いつくときって、いつもこんなですよね。頭のどこからくるかわからないのに、あっちとこっちできらり、きらり、と光るとこが出てきて、それとこれを合わすと、あらふしぎ、だんだん形が目に見えてくるのです。
――ママにあげる花、ママへのお花はやっぱりアレだよね?
赤くってギザギザふさふさ。茎がすっと立ってる。葉っぱは子ブタのしっぽみたいにくるりんと丸まってたり。
アヤちゃんはママとお花の名前当てをしょっちゅうしているので、とっても得意なのです。
何のお花かって? まだナイショだよ。
学校の図工の時間に折り紙でアサガオを作りました。おりづるより簡単でした。でもまあるくカットできなかったお友達のは、ユリっぽくなったりキキョウになったりしてました。
じゃあ、先をギザギザに切ればいいんじゃないでしょうか?
夏休み、おばあちゃんのうちでお兄ちゃんが窓のしょうじを破いたときに、お花を作ってぺたぺた貼りました。足らない花びらはそうやってつけたすのかな。
あ、なんか、作れそうな気がしてきました。
茎はパパのおどうぐの引き出しに、ぐるぐる巻きの針金があります。パパは会社勤めですが、お休みの日は何か作ってるのが好きなので、引き出しにいっぱい、いろいろ持っています。おふろのアヤちゃんの小さなイスも、パパが木を切ったり磨いたりして作ってくれたのです。
まずは自分の色紙千代紙セットをあたります。
「赤い紙、赤いのはないかな〜」
アヤちゃんは赤が大好きなので、いつも一番に使って、残っているのは青や緑ばかり。あの花はとってもとっても赤くて、輝いてる感じがするのに。
――クレパスで塗っちゃおう!
アヤちゃんは、赤色に近いオレンジとピンクの千代紙を選んで、愛用の16色クレパスの箱をつかみ、おこたに戻りました。
千代紙のきれいな模様が見えなくなるのはちょっともったいけど赤くしなくちゃ、と勢いをつけて塗りつぶします。
あらあら、アヤちゃんったら一生懸命で、ママに、
「クレパス使うときは新聞紙をひいてから」
って言われてるの、忘れちゃってます。はみ出しておこたの板の上も赤くなってますよー。
ちょっとべたべたする千代紙をアサガオに折りあげます。そしてギザギザつけ。
――うん、これでナデシコくらいになった。
その上に、もう一枚の千代紙で小さめに作った花びらをうねうねにしてどんどん重ねます。ティッシュで作るお花みたいに、ボリュームたっぷりにしないとあのお花になりません。
さて、これで真ん中にパパの針金を通せばいい、と思ったのですが、針金を切ることができないと気が付きました。ペンチは鍵のついた引き出しの中です。
――どうしよう、茎がつけたいのに。
だってそうです、誰かにお花をあげるときは、やっぱり茎をもって「はいっ」ってするものだから。
――ものさしくらいの長さの、針金。このお花の真ん中に通せて、セロテープでぐるぐるってできるように。
え、ぐるぐる?
またアヤちゃんの頭に「きらり」が見えます。何かな、なにかなー。
クリスマス。ママと一緒にツリーのてっぺんに乗せるお星様を作ったのでした。雪だるまやトナカイさんの顔やリースという輪っか。それからアヤちゃん専用のツリーも。
「モールだ!」
アヤちゃんはまた子供部屋にかけ戻ります。おべんきょう机の一番上の引き出しは、アヤちゃんのおどうぐばこになっていて、先ほどの千代紙もそこから出てきたのですが、今度はモールセットです。
でも袋の中に残っていたのは、明るい紫とピンク。茎にはなりそうにない色でした。
――これはクレパスで塗れないよな〜。もう一セット、買ってもらえばよかった。
ママもパパも自分で作るタイプのおもちゃなら、いつだって喜んで買ってくれるのです。
机の上を眺めると、ママがアヤちゃんのお誕生日にくれたポリアンサスというお花の鉢植えが目に入りました。眩しい黄色のお花で、いいにおいがします。
――お返し、できないのかなあ。
かごに入った植木鉢の隣に、アヤちゃん専用のクリスマスツリーがちょこんと立っています。
ママが緑の色画用紙を三角帽子型にしてくれて、そこにアヤちゃんがぐるぐる緑の極太モールを巻きつけてツリーにし、小さなリボンと真珠だまをあちこちつけてできあがりでした。
そっとツリーを手に取ります。
――こわせばいい。ここに緑のモールがある。
でもアヤちゃんの大事なツリー。
こわすなら他のがいいと思っても、作った飾りは全部ママが押し入れにしまったからどこにあるのかわかりません。
今度ばかりはアヤちゃんも慎重です。まず、紫のモールで試してみようと思いました。おこたの部屋から赤い花を取ってきました。
並べてみても、モールのほうが極太なので、赤いお花の真ん中に通すことはできません。
花びらの下のがくの部分にモールを巻きつけてみました。茎はつきそうですが、色がどうしても不自然です。
極太のモールのケバをハサミで散髪してみましたが、たいして切り落とせません。細くはなりましたが、まだ紫のまま。
――よし、緑。
アヤちゃんが決心します。決心したら、さっさとやるのがアヤちゃん流です。
色画用紙に工作用のノリで貼っていたモールをはがし、まっすぐにのばします。画用紙のついていたところ、真珠だまのついていたところなどにノリの跡がありました。
――いいんだ、これは切り落とせるから。
今度は緑のモールを散髪し、お花のがくの部分にノリをつけてから巻きつけました。そして念のために、おどうぐ引き出しの底に忘れていた緑セロファンを取り出して、がくの部分とモールぐるぐるとそのちょっと下までを包んで、セロテープで留めます。
――できた!
そこにママのちょっと怒った声がしました。
「アヤちゃん!」
ママとパパと帰ってきて、パパは横を向いてネクタイをはずしていますが、ママは着替えもせずに怒ってるみたいです。
――どうしよう?
子供部屋を一歩出て様子をみると、
「おこた、こんなにして、お片付けは?!」
ママはアヤちゃんがほったらかしで他のことをしていると怒っています。
「ごめんなさい」
こういうときはすぐあやまるほうがいいんです。
「おこたでお絵かきするときは新聞紙するって言ったよね?」
「はい、ごめんなさい」
――どうしよう、どうしよう。お誕生日なのにママ怒らせちゃうなんて……
これでは何もしないほうがよかったかもしれません。お花もらってももう嬉しくないかも。
パパがのんびり言いました。
「アヤ、何か作ってたんじゃないのか?」
「う……ん」
アヤちゃんはうなだれます。
いくらパパでも、赤いおこたの汚れだけでは、アヤちゃんが何を作っていたかはわからないでしょう。
「できたのかい?」
「あ、うん……、できた……」
「見せてくれないのか?」
アヤちゃんはパパとママの顔を交互に見つめました。
――喜んでもらえないかも、だけど、隠してもしかたない。
アヤちゃんは肩を落として机に戻り、横たわっていたお花を取り上げました。そしておこたの部屋に戻って、ママに近づきます。
「ママ、お誕生日、おめでとう……」
うつむいて小さな声でしか言えなかったけど、ママの前に差し出すことができました。
輝くばかりの赤いカーネーションは緑の茎の上にピンと立って満開です。
「え、私? ママになの?」
「誕生日おめでとう」
パパが去年とおんなじ調子で、ちょっと恥ずかしげに付け足しました。
お花はママの黒いドレスにまぶしく映えています。
そこにお兄ちゃんが子供部屋から出てきました。
「お、なんかごそごそしてると思ったら、いいの作ったじゃん。ね、僕コンビニ行ってきていいでしょ? ケーキ売ってるかもだし」
「名案だな。ケーキなかったらアイスのチョコケーキとかあると思うから」
「「アイスのケーキ!?」」
お兄ちゃんとアヤちゃんは同時に声を上げてしまって、みんなで笑いました。
ママはちょっぴり涙ぐんでいましたが、お兄ちゃんに
「あ、お金……」
と言っておさいふを取り出そうとしました。
「何言ってるの、なんで僕が昨日のお年玉まだ持ってると思ってんの?」
「お年玉預けなかったのはそのためか〜」
パパがそうつぶやいてまたみんなで笑いました。
by 秋の桜子さま