2:恐怖 (2)
「おっ、俺は…いや、私はそんなことはしておりません!!!」
ギルは、さっきの言葉とは打って変わって、腰の低い返答をする。
それもそのはずだ。キララは、そこらの街の
*ギランとは違う。
*ギラン…街の駐屯地及び警察署。
盗人など、比較的軽い罪を侵したもの
を捕らえる所。
キララが逮捕しに来るのは、国の重罪とされていることを侵したものである。
そのため、キララに逮捕されたものは、ほぼ100%死刑。良くて、無期限の食べ物もない廃れた島へ流される。
「確かに!私は、国の貿易に関する役所には務めております!ですから、他国からの薬を得やすいところにはおります。しかし、輸入品が来た時、その品目を確認するのは、何よりも軍の方々ではないですか!?大変厳重な検査がされているではありませんか!そんな網のなかで、やることは無理なことでごさいます!」
ギルは、一気にまくし立てる。ここで、何かボロを出したら確実に連れていかれる。負けるわけにはいかない。
しかし、ギルの返答に狼男は鼻で笑った。
「はっ、そんなことはこちらも100も承知だ。あの厳しい網の中を抜けるのはなかなか骨がいるだろうな。だが、軍の中に協力関係者がいたらどうなる?いとも簡単にできるだろ?おいっ、あいつを連れてこい!」
狼男は後ろに振り向いて、誰かを呼び寄せる。
すると、なんの気配もなく、スっと2人の人物が出てきた。
こいつ以外、居ないと思っていたのに━ギルはただただ恐怖を感じた。
そして、2人のうちの1人を見ると、彼の恐怖はますます増加した。
それは、確かにギルと協力関係にあった軍人の1人であったのだ。
何故だ!?何故、吐いたのだ!!!
奴には、病に伏せた妹がいる。仮に、奴が捕まったとしても、ギルのことを言わなければ、妹は保護してやると約束していた。
それなのに何故!?
「何故吐いたのか、まるで分からないという顔をしているな。何、簡単な事だ。こいつの妹は、キララの御館様であるカムナ様が養子として引き取られたのだ。カムナ様の所なら、十分な治療が受けられるだろ?」
…!?あのカムナ様が養子として引き取った!?別に、子供を養子として引き取ることは普通にある事だ。だが、何故わざわざ病にかかっている子を?
「まぁ、まだ謎は残っているだろうが、お前には関係のない事だ。ともかく、こいつが吐いたのだ。お前を重要参考人として連れて行く。おい」
また、狼男が後ろを向いて呼ぶと、更に4人キララの隊服を着た男が出てきた。
そして、ギルを連れていこうとする。
だが、まだギルは諦めていなかった。
「もっ、もしそやつが嘘をついていたのならどうするのですかっ!証言だけでは、証拠には成りませぬ!」
「何、安心せよ。こやつの証言だけでは無い。ちゃんと物的証拠もある。ギルの服の中に薬が入っているはずだ。探せ」
そして、男がギルの服の中に手を入れる。
「なっ、何をする!」
言葉では、焦っているようだが実際は、ギルはこの点に置いてはなんの心配もしていなかった。
ギルは、決して薬を自ら運んだりはしていなかった。ザクで行うのは、ザクの女主人と次の受け渡し場所について話しているだけだったためだ。
だが、なんとギルの服から薬が出てきた。
「あぁ、物的証拠も揃ってしまったな。残念だが、これでは疑う余地しかない。さっ、連れてゆけ」
ギルは、何故こうなったのかまるで分からない。
だが、きっとこの狼男が、罠に嵌めようと何か仕掛けたのだろう。そのことが無性に腹にたった。だから、叫んでしまった。
「このっ、人間風情がッ!!人間風情が調子に乗りやがって!お前なんか、人間でも獣でもない中途半端野郎のクセに!」
ギルは、言ったあとに後悔した。こいつが、ブチ切れて殺されでもしたらたまったものでは無い。
しかし、狼男は何もしてこなかった。ちらりと、顔を見ると、先程までギラギラとしていた目は、輝きを失い、悲しそうな顔をしていた。だが、それも一瞬の事で、直ぐにギルをバカにしたような顔をした。
「確かに、俺は半端者だ。だが、お前のような民を傷つけるようなグズではない!」
そう、大声で叫んだが、やはり声は少し震えていた。