2:恐怖(1)
その日、ギルは酔っていた。
昼間、職場で上司に理不尽なことで怒られ、部下に任せていた仕事は失敗され、また上司に怒られた。散々な1日だったのである。
イライラした彼は、明日が非番であることもあり、憂さ晴らしにザク(女性が男性の席につき、お話をしながら食事をするお店。キャバクラに近い)に行った。
馴染みのザクには、新しく娘が入っており、その子はギルのどストライクであった。
早速、娘を指名し、一緒におしゃべりをしながら食事をすると、彼女は聞き上手である事が直ぐに分かった。
適度に頷き、そして自慢話をすると、心のそこから思っているかのように素晴らしいと褒めてくれた。
そんな彼女に、いい所を見せたくて、ギルはどんどんお酒を頼んで言った。
その結果が現在である。飲みまくった酒のおかげか、道はぼんやりと見える。
せめて、家までは帰らねばと、重い足を踏み出していると、いきなりドンッと誰かにぶつかった。
ギルは、尻もちをついた。急なことに驚いて、最初は何がおきたか分からずぼんやりとしていた。
それもそのはず。今夜は、月明かりもなく、ほぼ真っ暗闇の中、足元のみを照らす明かりを頼りに歩いていたのだ。まして、酒で頭は正常ではなかった。物事の処理に時間はかかる。
しかし、自分が転んだことに気づくと、恥ずかしさと、酒に酔って調子に乗っていたこともあり、こう叫んだ。
「おいっ、なんだ!!!オレをだれだとおもってるんだ!?王宮の役人だぞ!?」
そして、ぶつかったであろう人物にキッとニラめつけようと顔を上げる。ギルは別に小柄ではないが、ぶつかった人物はだいぶ長身なようで、ぼんやりと見えるフォルムの目に向かってニラもうとした。
しかし、ギルは目が合った瞬間に行った事は、体を震わすことであった。
ギルの目とあったのは、赤い瞳であった。
赤い目は、オオカミと人間のハーフのオオカミ族の者の印として国内で知らないものは居ない。また、オオカミ族は大変な戦闘狂と言われており、ギルは自分が殺されるのではないかと震えたのだった。
しかし、狼男はギルを殺すのではなく、縄で手首を結んだ。
当然、ギルは驚いて、何をするんだっと言おうとした。
「なっ」
「ラ・ギル、貴様が馴染みのザクと協力して麻薬を売っている罪で逮捕する。」
ドスの効いた、低い声で目の前の狼男は言った。
彼は、サバトの国のキララ(今で言う警察組織)であった。