ありふれた獣隠し
度胸試しだった。夏休みならよくある、軽いやつ。だが俺は選択を間違えた。何年も工事が中断したままの高層ビルに忍び込んだ。そのビルは、お化けビルと呼ばれてた。おぞましい怪物が、ずっと顎門を開いて餌を待ち続けている。噂だった。だが噂ではなかった。幾つ階段を飛ばした?俺は乱れた息で胸を大きく上下させながら、口に手を当てて音を押さえ込んだ。懐中電灯はずっと下の階で落としてしまった。見えるのは、まだ壁も作り終えていない剥き出しで、外から入ってくる近くのビルからの明るい光だ。助けを外に求められない。それはもうやって、やった奴は生贄になった。冷たいコンクリートがどこまでも剥き出し。まるで舐められているように冷たい。怖いよ。死にたくない。皆んなどこに?ーー背中が湿った。「え?」それは温もりで、ゆっくりと振り返るとそこには手を振る、『コンクリートに沈められた友だった者の肉と腕』がいた。さざ波が立つようにそれは、俺を攫う。抵抗した、殴った。しかしそれはコンクリートで、俺の拳が砕けて血が染まる。嫌だ、嫌だ、壁が迫る、潰れていく。そして、砕けていって何も残らなかった。