幕間
裸の姿にも慣れ始めた頃、砂の道を歩いていると不思議な事が起こった。目を少し離した隙に、地面から大きな建造物が生えてきたのだ。
地響きも騒音も無く生えてきた建物は、上部にナンバーが振られていた。緑のプレートに1とか6とかのアラビア数字が刻まれている。どの建物にも複数の窓が裸の自分を見下ろしていたが、人らしき気配はどこからも感じ取れない。
「なんだ、あれ?」
思わず呟いた言葉に、背後から砂を踏む音が聞こえた。
「あれは恐らく、私の家だろう」
突然の気配に驚愕しながら振り返ると、背後には見覚えの無い初老の男性がいた。
初老の男性は男を見ると、やんわりとした声で話しかけてきた。
「君、ここは死後の世界かね?」
「いや、俺も知らない間にここに居たんで……」
「そうか。となるとここが何処なのかも分からないな……」
男がそう言うと、初老の男性は少し寂しそうな笑みを浮かべた。男性は自分と違い裸ではなくパリッとしたスーツに身を包み、自分の裸姿を見ても平然としていた。
「それよりもアナタ、ここが『自分の家』と言いましたよね? あの建物らに見覚えがあるんですか?」
男の言葉に、初老の男性は少しの間目を閉じた。
「……実を言うと、本当にそうなのかは分からない。ただ見覚えという感覚があるのは事実だ。あの建物のどれが私の住まいなのかは分からないし、そもそも本当に住まいだったのかも分からん」
「そうですか……」
「とりあえず、一つ入ってみようか?」
「えぇ!」
男性の言葉に対し、男は思わず仰け反った。
「危なくないですか? もし変なバケモンとかがいたら……」
「こんな無音の世界で男二人いるよりかは、いっそ怪物でも現れてくれる方が少しは賑やかになるだろう。怖いなら私一人で行くから、君は待っていてくれても構わないよ?」
「いやいや俺も行きますよ? 行きますけど……」
男自身、新たな出会いがあるなら相手が天使でも悪魔でも何でも良かった。だが初老の男性とこうして出会い、新たな出会いがあるかもしれない中で一つの羞恥が己の新進を阻んだ。
「ほら俺、裸ですから恥ずかしくて……」
その言葉に男性は男の身体を見ると、ハッハと豪快に笑った。
「何を言っている? 君はいま裸なんかじゃないぞ?」
その言葉に男は見下ろすと、確かに自分は服を身に着けていた。途端に服の重みが身体に圧し掛かり、下着が陰部を軽く締め付ける感触がする。
「問題も無いようだし、では行くとするか」
「あ、はい!」
男は彼を追いかけ、一つの建物に入って行った。