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慟哭のメタモルフォーゼ  作者: 田中 スアマ
第一章
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第一章(4)

 八年前の九月一日、世界中の人間が一斉に自殺する事件が起きた。人種、性別、職業、年齢の全てが絶妙にバラけていて、赤ん坊から老人まで多くが死亡した。後に〝審判の日〟や〝人類存亡の機〟、欧米なんかでは日本発祥から〝切腹の日(ハラキリ・デイ)〟なんて風にも呼ばれた。


 割合的には発生国故に日本人が少し多めなくらいで、そのデータも多くの人間の突然死に世界中が発狂状態になってまともに記録されていない。今存在している記録は全て終息後に纏められたモノであり、夏休み最終日に慌てて書いた観察日記のような代物だ。


 生き残された人々は一人残らず、あの時の情景を心に刻み込まれた。様々な場所、様々な方法で大勢の人間が一斉に首を吊り、首の骨が「ゴギッ」と折れて軋む音が地球全土に広がった。


 首を吊る環境が無かった者は壁なり地面なりに頭蓋骨が割れて脳味噌が飛び出て機能停止するまで打ち続け、赤ん坊や身動きの出来ない老人らは自らの意志で死ぬまで息を止めた。トイレブラシで目玉を貫いて、中の脳味噌をほじくり出して死んだ者もいたという。


 あの日全ての人類が〝自殺の音〟を聞き覚えてしまった。命の終わりは全く美しいモノではなく、フライドチキンの軟骨を噛み砕いた音に似たジャンクで不健康な汚らしいモノである事が判明してしまった。


 過去の世界大戦時のように公園や校庭を臨時火葬場にしても足りない程の縊死体から出る臭気と、彼らが死の間際にまき散らした糞尿の臭いに多くの人間が狂った。二次災害的に自殺をする者や心中を図る者らで臭いは一層濃くなり、疫病まで発生して更に大勢死んだ。


 それでも人類は一致団結してどうにか滅亡を免れたが、その光景を空から見下ろしてほくそ笑んでいた者がいた。空にぽっかりと開けた穴の中から滲み出てきた元凶らに対し、混乱した人々は呼び名を統一する事は出来なかった。


 宇宙人、未来人、異世界人、十次元の支配者、透明人間、形状概念生命体、テンズウォール人。若者は己の感性で、年寄りは築いた常識と黴臭い幼心で、学者は立派な著書の形式で、国は民意を統合してその名を呼んだ。


 だが人々にとって最も呼びやすかったのは〝それ〟だった。


 漢字で一文字。


 ひらがな二文字。


 英語で三文字で書ける、この世で一番凄いヤツ。


 八年前の九月一日。


 この世界に神が舞い降りて来た。

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