義母と娘〈上〉
更新遅くなりました……すみません……
――5年後。
「お義母様、出かけてまいります」
「分かったわ、なるべく早く帰ってくるのよ」
白雪は15歳となり、予想通り美しく成長した。その為、彼女に求婚する人もとても多く、ほぼ毎日のように手紙が来ている。
そんな彼女も、もうそろそろで彼女は相手を見つけなければならない。
悩む彼女に私は「ゆっくりでいいから、私にとってのお父様の様な人を見つけなさい」と、いつも言っていた。
そして、彼女は――私が魔女ということを知らない。
何度も伝えようとしたのだが、いつも躊躇してしまうのだ。
嫌われたらどうしよう、と。
私たちは血が繋がっていない。だから、どんな反応をするかが不安で、そして、何よりも怖い。
いつかは伝えなければいけない、ということは分かっている。でも、もう少しだけ……。
◆◇◆
「……暇ね」
私は、誰もいない部屋の中で1人つぶやいた。
普段なら、忙しいこの時間帯。だが、今日は珍しくも午前中に仕事が全て片付き、午後からは何もすることがなかった。
久しぶりに魔術の練習でもしようかしら……。
このごろ、魔術どころか魔女らしいことを何一つしていないことに気づき、私は姿見の前に立つ。
魔女の力は段々と衰えていく。使わなければ尚更。
私は鏡に手をかざし、目を瞑る。
今から私が試そうとしている魔術は『真実をうつす』という、ある程度の魔女ならば誰でも出来るものだ。
知りたいことは1つ――王の最期の様子。
私は彼の最期を見届けていない。それがこの5年間、ずっと心残りだった。
私は小さく呪文を唱え、鏡に魔力を込めた。すると、ゆっくりと鏡が光り、あたたかくなっていくのを感じた。
だが、鏡には自分の姿しかうつっていない。
まさかの、失敗……?
私は自分の力の衰えを実感しながらも、再度挑戦しようと試みる。
「次こそは……っ」
私がこめる魔力を大きくすると、鏡があるぼんやりと徐々にハッキリとどこかの部屋を映し出した。
――あぁ、ここは王の部屋だ。
ベッドの上には彼がいた。今はもう、いない彼が。
成功したのね……。
安心しながらも、彼の弱々しい姿を目にし、胸が締め付けられる。
彼に覆いかぶさっている少女は、白雪だろう。
小さな体を震わせている。
すると、声が聞こえた。
「ねえ、白雪」
――彼の声だ。
私は泣きそうになりながらも、一言一句逃さぬように耳を澄ます。
「白雪はこの世で1番美しくなれるよ。だから、幸せになりなさい。誰よりも大好きだよ」
小さくも私と出会った時と変わらない優しい声で彼は白雪にそう告げた。
その言葉に私は胸を痛める。
あぁ――彼の1番はやっぱり、白雪なのね……。
これはきっと『嫉妬』という感情なのだろう。
娘である白雪に対しての。
最低だ。
心の中で私がそうつぶやき、私は魔力をこめるのを止めた。
そして、すぐにこの醜い感情を消し去り気を紛らわせるために、本を読み始めたのだった。
◆◇◆
「お義母様!」
純粋な瞳で駆け寄ってくる白雪。
彼とおそろいの色。
そう感じた瞬間に、私は声が出なくなる。
『どうしたの?白雪』
そう言いたいのに。どうしても、声が出ない。笑えない。
彼女が、私の愛した人の――1番好きな人。
考えないようにしたいのに、できない。頭から彼のあの言葉が離れない。
私を救ってくれた人。1度でも愛してくれた人。
私はいつでも彼を愛していたが、 気付かぬうちに彼は違っていったのだろう。
そう考える度に心の中が段々と黒くなっていくのが、自分でもわかった。
――危ない
そう感じた瞬間にはもう、遅かった。
白雪を黒い炎のような靄が襲う。彼女は今まで見たこともないそれに、逃げもできず、ただ立ちすくむことしかできない。
「だめ……っ!!」
私は自らの力に恐れを抱きながらも、そう叫びながら必死に魔力を消し去った。
靄が消えた瞬間に私はその場に崩れ落ちる。きっと、魔力を使いすぎたのだろう。
そのまま白雪の方へ視線を向けると――
「……っ!」
ひどく怯えた表情の白雪が視線があった瞬間に小さな肩びくっとふるわせる。よく見れば手足もふるえている。
「白雪……っ」
私は彼女に謝ろうと名前を呼ぶ。だが、そんな声など届かずに、彼女は走り去ってしまった。
追いかけようとした私は身体の力が抜け、その場に崩れ落ちてしまう。
伸ばした手が届くことはなく、遠くなる意識の中、召使いの声だけが聞こえた。