9.二日目
メティス先生の開孔作業は問題無く進んだらしく、日の出前に起こされた俺は30分と言わず、5分程度で気功による身体強化を修得した。
本当にこんなもんなのかと思っていたところ、脳内にメッセージが響いた。
<スキル:闘気法を修得しました。>
本当にこんなもんらしい。日の出まで時間が空いたので脳内でメティスと会話する。
「俺の今の能力でこの森から脱出する際のリスクは何がある?」
「防具の充実によりほぼ全てのリスクがクリアとなりました。闘気法の習得により逃走能力が格段に強化されましたので、万一、盗賊の集団やゴブリンの群れに襲われてもある程度の規模でしたら問題ありません。
なお、この森に盗賊の集団やゴブリンの群れがいるなどという情報は今のところありませんのでそれさえも杞憂かと。」
「了解だ。このメンバーでこの森を脱出し、近隣の人里などに着くまでどの程度かかる?」
「本日を2日目とすると早くて4日目の日暮れ、遅くて5日の午前程度の距離となります。もちろん最短距離を一直線で進んだ場合ですので実際にはもっと長期間になる可能性が高いです。ちなみにですがマスター単独で私のサポートを含め、闘気法もフル活用すれば明日朝には到着が可能です。」
「そうか。まぁメリットデメリットを考えるんならこいつらを置いてったほうがいいんだろうけどな。気を失っていた間助けてもらったんだ。このまま放置は寝覚めがわるい。人里に出るまで付き合ってやるさ。寝ている奴らが起き出す前にジョブをセットだけして欲しいとメティスに言われ、ナイトをセットした。服装はもちろん元に戻している。」
「夜の番、1人でこなしちゃったんだね。大丈夫?」
日の出を過ぎてもぞもぞと全員が起き、眠気が覚めてきたころ、田丸が声をかけてきた。
「あぁ。なんか興奮しちまってな。眠気が起きなかったから、交代しなかったよ。」
俺の答えに坂本が声をかける。
「おいおいそんなんで大丈夫かぁ?まぁこっちは素直に助かるけどな。昨日はやっぱすげぇ疲れてたみたいで熟睡してたわ。日中辛かったらいってくれよな。」
「まぁ無理しないようにな。」
森井も声をかけてくる。
「ありがとな。本当に大丈夫だから心配しないでくれ。」
出発前に今日の方針を確認しようと黒崎が声をかけてきた。だが、話し始めて早々に、田丸が口を挟む。
「ねぇ昨日は佐々瀬くんが倒れちゃったからバタバタしてて話せなかったんだけど、みんなレベル2になって何かスキル覚えなかった?僕すごい強力なんじゃないかなってスキルが手に入ったんだけど・・・もし、みんなもそういうスキルを覚えてたら何か現状を打破するようなことができないかなと思って。。。」
田丸の言葉に他のメンバー動きが止まる。
なんだ?みんな獲得したってことか?篠原と浦田もレベル2か。まだ俺はレベル1だけどな。誰も何も回答しようとはせず視線を逸らしている。まぁ1日過ごしたからといってまだ顔見知り程度だし、全部が全部信用はしてないってことの表れかね。田丸はおそらくそこまで考えてないんだろう。
ここは探りだな。
「田丸。強力なスキルってどんなスキルなんだ?」
「うーん。僕だけしか獲得してなかったのかなぁ。喰スモノってスキルなんだけどね。説明書きがよく分からないんだけど、食べれば食べるほど強くなるみたいなんだよね。僕よく食べるから、神様が言ってたスキルってこれかなって。。。」
「か、神様が言ってたスキル??」
「あれ?佐々瀬くんはこの世界に来る前、神様に会わなかった?何か、僕の特性にあった能力をくれるって言ってたんだけど。」
こ、こいつ警戒心ってものが無いのか・・・ベラベラ重要な情報を。まぁいい。ってことはこいつら全員アマテラスに会ってたわけで、レベル2になってスキルをもらったということだな。聞く限りじゃ、俺のスマホゲーほど強力なもんじゃ無いみたいだが。
やっぱりみんなそうだったのか。と坂本が答えるのを筆頭に、他の面々も同意の言葉を口にする。やはり全員同じようだな。
『メティス。こいつらを鑑定してこいつらの持ってるスキルを確認できないか?』
『すでに実施済みですが、スキルの効果まで確認はできませんでした。名前だけ列挙します。
黒崎 奪ウモノ
坂本 偽ワルモノ
森井 壊スモノ
田丸 喰スモノ
篠原 愛サレルモノ
浦田 愛スルモノ
効果が推測し辛いな。しかし、田丸、篠原、浦田を見るに本人の意志がかなり反映されてるようだな。それでいうと黒崎はクズだとわかってるから想定どおりだが、坂本と森井もちょっと黒いイメージがするな。気をつけよう。
「俺は戦闘系のスキル見たいだからあまり役に立たなそうだな。」
坂本が自分のスキルについて話し始めた。嘘のような気がするな。偽ワルモノという名称で戦闘系はなさそうだが。
俺も。など他の面々が役に立たないことを話し始める。自分の内面を晒すような行為だ。少しでも情報を出したく無いだろ。田丸はさらけ出しすぎだ。まてよ。ここで一芝居打つか。えっちらおっちら森をさまよわれても困るしな。
『メティス!サポートを頼む!』
『了解しました。マスター。』
「すまん!気絶してたから自分でスキルを取得してたのに気づかなかったみたいだ。俺が取得したのは、見通スモノってスキルだな。まぁ簡単に言うとMAPだ!」
「キタ!MAPか!助かったぜ!」
坂本が喜びの声をあげた。その声に釣られて場の空気が一気に明るくなる。ただ1人、黒崎は気にくわない顔をしているが。
その後はメティスのサポートを得ながらざっくりとしたルートを説明、提案した。所要日数についてはボヤかしておいた。あとで当たった、外れたなど言われても面倒だ。
それ以降は俺を先頭に森の中を進む。明確な先導が出来たため、俺、坂本、森井、田丸、篠原、浦田、黒崎の順に一列で歩くこととした。ジョブから言って一番戦闘力がある黒崎を殿にした形だ。一番戦闘力がある。という点に満足したのか。黒崎は特に異論をはさむことはなかった。単純な奴だ。
途中でわざと最短ルートから外れ、木の実を採取して喉と腹を満たす。もちろんメティスさん監修だ。インベントリで食用と出たと説明している。味は林檎と梨と中間のようなもの木の実だった。もちろん味は現代のものと比べるまでも無く不味いものだ。それでも各面々は半泣きになりながら貪りついていた。俺はメティスのサポートでそこまで苦しいものではない。保存食も兼ねて数個を確保すると木になっている果実は無くなってしまっていた。
もちろん魔物とも遭遇した。だが、戦闘は非戦闘系ジョブを理由に戦闘系ジョブの面々に任せると辞退した。MAPを使っているし、木の実の鑑定もした。皆への貢献としては十分だろう。戦闘は任せてしまっても批判はでない。
黒崎、坂本、森井、意外なことに田丸も戦闘時は生き生きとして戦っている。戦いなんてまさにファンタジーだからな。現代日本で子供のときにRPGをやってた奴らなんてこの状況だったらテンション高くなってもしょうがないだろう。しかもこいつらは俺と同じ情報系の学生だ。RPGに触れてこなかったという可能性は少ない。
こうやって2日目も終わって行った。野営地はメティスさんの誘導により、森の中でぽっかりと広場になった場所だ。見通しがよく、魔物の接近にも気付きやすいだろう。みんなにはすべてMAPのおかげということにしておいた。
夜の番は流石に免除された。俺としてはメティスが番をしてくれるので特にやっても問題無かったが・・・
『マスター。マスターが寝ている間に昨日の続きとして開孔作業をしておきたいのですが、よろしいでしょうか。』
と夜寝る前にメティス提案があった。
『開孔作業は昨日のうちに終わったんじゃなかったのか。何か不具合でもあったか?』
『不具合というわけではございませんが、開孔作業は一朝一夕で終わる作業ではございません。昨日お話しいただいた水道管の例からすると、水道管が細くて水が十分に流れない状態となっています。気功における水道管は太くすることができませんので、水道管を増やし、蛇口も増やすという形になります。このことにより、短い時間で大量の水を運べることになるわけです。可能であれば今後夜間にすることがなければこの作業を継続して実施したほうがよいかと思いますが、いかがでしょうか。』
『なるほどな。別に構わないが、それはどのくらいかかるんだ?』
『毎晩実施したとして1年程度と予測しています。』
『なかなかかかるな。ということは今の進捗は0.03%にも満たないということか。これは問題ないのか?』
『はい。今のマスターの気功容量では特に現状でも問題ありません。ですが、気功容量はレベルアップとともに増加していきますので、1,2レベルも上がればすぐに最大出力には追い付かない状況となることが予想されます。もちろんすべての気功を身体の一部位にあてるということはないので、それを見越した想定ですが。』
断る理由が無いので承諾した。
夕飯は採取した木の実だ。夕飯を食べている最中、
「本当に佐々瀬様様だな!飯は食えるし、森を抜ける見通しもある。一次はどうなるかと思ったが今日一日でなんとかなる気がしてきたわ!」
坂本が、感謝の言葉を告げてくる。偽ワルモノというスキルを取得したことを考えると素直に喜べないがまぁ悪い気はしないな。
「あぁ。たまたまだが、みんなの役に立てて良かったよ。でも俺も戦闘は任せきりで助かってる。持ちつ持たれつだな。ちょうどMAP上で距離を見てたんだが、人里まであと2日ってとこだ。もう少し頑張ろう。」
「そうか。2日か。早いとこ安心して寝床に着きたいぜ。」
坂本がしみじみと言う。森井はコクコクうなづいている。どうやら森井は無口なようだな。カップルは二人で話していることが多く、あまり会話に入ってこない。黒崎も俺が話題の中心になると言葉数が少なくなる感じだ。逆に言えば俺もそれは同じ。お互い不可侵で行きたいところだ。
「はぁ異世界の料理って美味しいのかなぁ。僕楽しみだよ。」
田丸が想像を膨らませながらよだれをすすっている。男の食いしん坊キャラに需要はない。勝手にしてくれ。こうやって2日目が終わって行った。初日の疲れ果てた雰囲気はなく、充実した気分に満たされているような雰囲気で各々眠りについていった。