8.身体強化
「身体能力?身体能力はそんなに急に上げられるものではないはずだ。具体的に何をしようとしている?」
「マスター。この世界には身体能力を急に上げられる方法はいくつかあります。ジョブの変更、恒常的なバフスキルの取得、一時的なものでいえばバフ魔法の付与も該当するかと。ただ、恒常的なものを獲得するのはさすがに敷居が高くなります。数ある中でマスターには気功による身体強化を修得いただきたいと考えます。」
「気功・・・気か。理由を教えてくれ。簡単で大丈夫だ。」
「はい。数ある手段の中でも、汎用性高い。修得に時間がかからない。永続的に活用が可能。など。この状況からして最適かと。」
「そうか。次点は何になる?気と比較して何が劣っているんだ?」
「次点は魔力による身体強化になります。こちらもいずれ修得した方が良い技能となりますが、身体能力の強化という点でみると、気功と魔力では大きく効率が異なります。基本的に同じような強化ができますが、その性能は別物といっていいでしょう。」
「なるほどな。方針はそれで構わないが気功について詳しく教えてくれ。」
「了解しました。気とは魔力が外部から取り入れられるものに対し、体内にて生成されるものです。人類や多くの生物は魔力の器と気功の器が備わっており、それぞれ魔器、気器といいます。魔力を外部から吸収し、魔器に蓄えられるのに対し、気功は気殿と呼ばれる機構で生成され、気器に蓄えられます。魔力も気も器内にあるときはただのエネルギーであるとご理解いただければと思います。」
「ただのエネルギーか。それを体外もしくは体内で使うということだな。器にある魔力や気が枯渇すると何か起こるのか?魔力切れにより動けなくなるなどか?」
「使用できなくなるのみで、戦闘行動や生活に支障はありません。疲れを感じる。めまいがするなど、特に症状はありませんので、逆に注意が必要かと思われます。」
「なるほど。続けてくれ。」
「了解しました。念のため、気を使う人類についてご説明します。この世界において気を使う人口は、武闘僧ともモンクとも呼ばれる存在が一番多く、彼らは気をチャクラとも呼びます。次点は冒険者となります。とは言っても人数は大きく開いており、冒険者の中で気を使う存在は少し珍しい部類に入ります。その他はごく一部の国の騎士団で訓練されていたり、一部の部族が使える程度です。無意識的に使っているものは多いですが、使いこなすとなるとこのような存在のみとなります。」
「魔法よりは圧倒的に使える存在が少ないわけか?」
「はい。色々な理由があるのですが、今回の説明では省かせていただきます。」
「まってくれ。気功の普及率が低いという事は、修得が容易ではない。ということも理由にあるんじゃないか?俺の目的としては早急な自衛力の獲得だ。可能なのか?」
「はい。マスター。通常の人類であれば気功による身体強化を修得するために途方も無い時間が必要となります。それは気功という存在に対しての人類による研究が未熟である点がありますが、これも話としては長いので割愛させていただきます。マスター。私はマスターの肉体をマスターが認識できないレベルで精密な操作ができます。なので、気功の操作も今の時点で私ならば操作が可能です。」
「つまりどういうことだ?ティスが戦闘時のサポートとして気を操作してくれるのは良いと思うが、現状それが出来るのであれば、何もしなくていいのではないか?」
「いえ、マスター。エネルギー効率と発動までの早さが異なります。気功の器を気器、気功の通る道を気脈、気功を生み出す機構が気殿、気功を体内の筋肉や関節、体外に出すところを気穴と言います。これらの器官についてはすでにマスターの身体に備わっているものですが、気脈、気穴においては一度も使われない状態を閉功状態と言い、気を通しにくい状態となっています。簡単に言うと、これらを使える状態にしていきたいと思います。」
「なるほどな。水道と似たようなものということか。指定した場所に気と言う名の水を持って来たいときに、メティスなら力技で水を持ってくることもできるが、水道管と蛇口を整備した方が圧倒的に効率とスピードが早いと言うことだな。」
「早いご理解で助かります。マスター。」
「それでは俺は実際にこれから何をすればいいんだ?」
「マスター。この作業は私で対応させていただきますのでマスターはお休みいただければと思います。」
「ん?それでいいのか?」
「はい。気功による身体強化を修得するということは使える気脈と気穴を増やすということに多くの時間を使います。それさえ出来てしまえば、気を操作する感覚を覚える程度ですので、大した時間は必要ないかと。」
そ、そうなのか。拍子抜けだな。というかメティスの能力が恐ろしすぎるのか。。。
「これからのスケジュールですが、日の出をリミットとして、日の出30分前まで私が気脈と気穴の開功作業。それからマスターを起こしますので、30分ほどで気の使い方を覚えていただければと。」
「わかった。任せよう。ではスゲー空間から出るとするか。」
「承知しましたマスター。」