4.1日目 夜
目を覚ますと夕暮れだった。場所は川のほとりで皆が思い思いの方法で寛いでいた。当然野宿の道具も無く、食料も無い。
「おっ気付いたね。」
田丸が声をかけてくる。
「大丈夫かい?急に倒れたからビックリしたよ。どこか痛いところとかない?」
心底心配してくれているのだろう。純粋なやさしさは40手前の男にはグッとくる。言われて身体の隅々に意識をまわすが特に痛むところは無い。軽く動かしても同じだ。嫌に体が軽いのが気になる。そういえば、気絶する前にレベル1がどうとか。この世界への適用化がどうとか聞こえた気がする。アマテラス様に聞き忘れたな。
「すまないな。大丈夫みたいだ。ここまで運んで来てくれたのは田丸か?」
「そうか。良かった。うん。僕と坂本くんも手伝ってくれたよ。」
「ありがとう。坂本もありがとうな。」
「まー気にするなよ。俺たちは今一連托生だからな。助け合っていこう。」
坂本が気さくに返す。なかなか良い奴だ。寝起きだし、水が飲みたいな。川の水は飲んでも大丈夫なのか?皆は試したのか?状況がわからない。
「今、どんな状況か教えてくれるか?」
「あぁ。うん。佐々瀬くんが倒れて2時間くらいかな。しばらく歩いたところでこの川を見つけてここまで来たんだけど、この水が飲めるかもわからないな。という話になってひとまず限界まで飲まないことにしようって話になった。あと、今日はこのままここで野宿で、夜の番は交代交代でやってみようってなってる。体調が大丈夫そうなら夜の番を長めにお願いしたいな。」
かなり慎重だな。まぁ自分の命がかかればこんなものかもしれない。体調は問題なさそうだし、気絶したまま放置されてたら死ぬ可能性だってあったわけだ。大きな借りができてしまったな・・・ひとまずは夜の番は任せてもらって貢献しよう。
「そうか。俺も賛成だ。夜の番は任せてくれ。体調はすこぶるいいからさ。」
俺と田丸の会話を聞いていた皆がホッとした雰囲気を出す。慣れない環境で流石に疲れが溜まっているのだろう。水分か。。。死活問題だな。。。そうか。ポーションがあったな。
「みんな、聞いてくれ。俺は商人だからか、ポーションをはじめから持っていた。お詫びにもならないが回し飲みでよければ、みんなで少しずつ飲んでくれ。少しは口の渇きを癒せるだろう。体力回復の効果もあるかもしれない。」
そう言ってポーションをインベントリから取り出し、自分で一口含む。害があるもので無いことをアピールするためだ。周囲が明るい雰囲気になる。
「いいね。ポーションてどんな味だろう。」
「楽しみ。」
「栄養ドリンクぽいのかな?」
やはり疲れているのかそこまで騒ぎ立てる様なことは無かった。ポーションは栄養ドリンクのような味だが、水分を入れて薄くしたような味で飲みやすい味だった。
「まて!佐々瀬!お前なんでそれがポーションだってわかるんだ。」
黒崎から声が上がった。しまった。ガチャを引きましたなんて言えるはずない。ここは。。。そうか、インベントリだ。
「なんでって、インベントリの中に入っている時、名前が表示されるだろ?それでポーションだと思ったんだが?」
「インベントリ?名前が表示される?どういうことだ?俺たちはインベントリではなく、ストレージというスキルだぞ?ストレージの表示では名前が出てこない!」
ストレージだったのか・・・こちらのほうがかなり優秀そうだな。まぁいらん情報がバレてしまったが、支障はないだろう。そして、別にこの程度だったら押し切れる。
「そうか。そうは言っても説明した通りだしな。。。商人だからそっち方面が優遇されてるんじゃないか?」
「それは。。。ある。かもしれないな。」
「おい、さすがに疑いすぎだろう。佐々瀬も自分で飲んでるんだし、ポーションであろうと無かろうと貴重な水分だ。」
坂本が黒崎に食ってかかる。やっぱり坂本はいいやつだな。いいぞ!もっとやれ!
「あれ、ちょっと待ってよ!今の話じゃ佐々瀬くんのインベントリなら鑑定みたいなことができるんだよね!だったらインベントリに川の水を入れてみたらいんじゃないかな。」
田丸・・・流石に食に関しては頭が良く回るな。
「たしかに盲点だった。試してみるか。」
黒崎も毒気を抜かれたのか話の流れに注目する。川まで歩き、川の水に手を触れる。インベントリに入れるにはとりあえず、ふれておけば問題ないだろう。川の流れがあるので格納されているのかどうかわかりづらいが。そう思うと、目の前の川を流れる水がごそっとなくなり、一瞬だけ地面が見えた。そこまで深い河でもなく、透明度が高かったため、別に何かが川底で見つかったというわけではないが、急なことに驚いてしまった。早速インベントリを確認してみる。
<アイテム名:魔水>
「魔水というアイテムになったみたいだ。多分だが、飲用には向かないんじゃないか?」
田丸が残念そうな声を上げる。魔水という単語すら、異世界人である俺たちでは馴染みが無い。でっち上げたというには格納から結果の回答までがスムーズであろう。信用は上がったものと思われる。
「そうか。100%信じることは出来ないが、信じてみよう。」
黒崎のその言葉に坂本がまた反応しそうになるが、森井がなだめてこの話は収まった。その後はポーションの味について一盛り上がりし、夜の番の俺を残して離れすぎ無い程度にバラけて地面に寝転び始めた。
眠気はほぼゼロだ。交代までは周囲を警戒しつつ、能力の確認でもしよう。そう思って自分のステータスを開く。そうすると脳内に声が響いた。
『マスター。私の声は届いておりますでしょうか。』