36.ハウルの魔法
次は2018年11月25日(日)の予定ですが、
1日遅れる可能性があります。
左手に握った黒い銃はだらりと地面の上を漂い、右手に握った銀色の銃はハウルの右肩に乗せられていた。
これが本来の姿なのだろう。バラバラだったピースがはまったような、完成された雰囲気を漂わせている。
唐突にハウルが距離を詰め始めた。悠然と、歩くように。ただし、スピードだけは異常なスピードでこちらに迫ってきた。
振りかぶった銀色の銃を木剣で受ける。黒い銃が俺の脇腹に迫るが、木剣で押し返して黒い銃を交わした。回転しながら距離をつめ、裏拳のように銀色の銃が俺に迫るが、それを屈んで交わす。俺を見失ったであろうハウルに対し、下から全力で木剣を切り上げる。読んでいたのか身体を捻って躱したハウルは慌てたように距離をとった。
「力が戻っても、さすがに近接戦はつらいな。全くなんて奴だ。」
「つらいと言っても余裕でかわしてるじゃないか。当たる気配がないんだが。」
「時間の問題だ。俺はお前みたいな馬鹿げた気力は持ってないんでな。短期決戦でいこう。魔弾を見せてやる」
『アクセル』
黒い銃を頭上に掲げ、詠唱と共にトリガーを引く。銃口から半透明な赤い膜が現れ、ハウルを包み、数秒と持たず消えていった。
恐らくはバフ系。知覚速度か動作速度を上げる魔法か。
続いて銀色の銃を真横に構え、トリガーを引く。詠唱は無い。銃声は3発。銃口から赤い光が発射される。
一体どこへ?と赤い光を追うと、直角を超える鋭角に曲がり、俺に向かってくるのがみえた。だが、ハウルの気配がすぐ近くまで迫っているのを感じ、視線を切った。
ハウルの黒い銃が内から外へ弾くように振るわれる。木剣が弾かれ、胴がガラ空きになる。シールドを張った左腕が振るわれる銀色の銃を受け止める。ハウルの脇の下を赤い光が通過した。
「くっ」
シールドを作り出して赤い光を迎撃。弾かれた木剣に力を込め、振り抜こうとしたところで左肩に衝撃が走る。後ろからの衝撃だ。バランスを崩しかけるが、牽制のために木剣を振り抜いた。
ハウルは距離をとって告げた。
「残念だったな。これで俺の勝ちだ。」
『ディレイ』
左肩を中心に半透明な青い膜が俺を包む。若干立ちくらみを感じる。
「感じているだろう?潮時だ。その状態では・・・」
ハウルがとんでもない早口で喋っている。何してるんだこいつは。
若干だが素振りをしてみる。立ちくらみの影響ももう無い。視界も正常だ。何かしらの異常があるのか確証が持てないが・・・
「すまんが、よくわかってない。今のところ俺はまだ諦めなくて良さそうだが。」
帽子に手をそえて首を振る。見た目からしてそうだが、映画で見た海外の俳優のような仕草だ。
「普通に喋りやがって。普通は知覚速度が遅くなって、会話すらままならなくなるもんだよ。」
まぁそんなとこだろうな。救うものの効果かメティスが何かしたかだろう。影響は無かったということだ。
「残念ながら効果が無いようだな。」
木剣をインベントリに収納する。
「魔弾は気功で具現化させた銃と、銃の内部に具現化させた魔法陣に魔力を通すことで様々な効果をもたらす技術のようだな。」
ハウルは微動だにせず、こちらを見つめている。その表情から感情は読み取れない。
「気功による物体の具現化は発動にはかなりの量の気功を消費するが、維持し続けるのはそこまで消費が激しいものじゃない。魔法陣を変更するにしても、一度作ったものを再編するだけだ。理に適っていると思う。」
やはりハウルに変化はない。緊張を保ったまま俺の話を聞いている。
「魔法としては魔法陣に魔力を流すだけだ。ほとんどの場合は簡単な魔法あれば無詠唱でいけるみたいだな。魔法陣の組み方次第では魔力自体の節約にもなっていると思う。」
「先ほどのように近接戦闘と組み合わせるとかなり厄介だ。状態異常の種類が多くなればなるほどその厄介さは増す。先ほどもディレイではなく、毒や麻痺のように動きを直接的に阻害する魔法だったら違った展開もあっただろう。だが、そもそも、槍のように尖っていて、突き刺さるような魔法だったら?」
「もしかしてだが、まだ手加減をしているんじゃないか?ハウル。魔弾にはどう考えても先がある。」
ハウルがしばらく考え込むように視線をさまよわせる。たが、大きくため息をつくとポツポツとしゃべり始めた。両手からは銃身が消え、グリップの部分のみが残っている。
「普通は変わった杖だな。で終わるんだけどな。お前の目的はなんだ?リョーガ。お前はなんでこんなことをしている?」
「なんとなくだ。俺はリヴやお前が気に入ってな。お前らが困ってて、俺には助ける術がある。だったら助ける。それだけだ。」
「助ける?だったらこの戦いはなんだ?素直に俺を治すといえば終わりだろう。」
「お前を治す術があるから俺に治させろ。と言ったらお前は治させたか?」
「・・・」
「さすがにお前はそこまで俺を信用していないはずだ。まだ出会って2、3日だしな。」
「・・・」
「図星だろう。ここまでうまく運ぶとは思ってなかったけどな。まぁスムーズに進んだほうだ。」
「素直に感謝を言いたい気分じゃないが、まぁ感謝している。全盛期とまではいかないが、またこのスタイルで戦えるとは思わなかったな。」
「俺が好きでやったことだ。だが、全力は見せてもらうぞ?」
「やけにこだわるな。お前の目的は達したんじゃないのか?」
「あぁ興味本位だ。この世界の上位がどんなもんなのか知っておきたくてな。」
「この世界の上位か。また物好きなことだ。残念だが、上には上がいるぞ?」
「興味本位と言っただろう。構わないさ。」
ハウルが距離をとって話をつづけた。
「じゃこうしよう。俺が今から全力の一撃を打つ。それを避けたり、防御したり、いずれかの方法で生き長らえたらお前の勝ちにしよう。」
「自信たっぷりだな。まさか、わざと外す気なんじゃないか?」
「ははは。大丈夫だ。外さないんじゃない。外れないんだ。」
「ん?」
「これから放つ一撃だ。本来魔弾っていうのはこの魔法の名前でな。必中の魔法なんだよ。」
「必中の魔法か。」
「俺の身に着けた技術は全てこの魔法を昇華するためにあるようなもんだ。手加減なんてものはあり得ない。死ぬ気で防御することをお勧めする。」
ハウルの手には全長3mに達するだろう禍々しい形をした物体があった。腰だめにし、右手がトリガー。
左手はグリップをハンドルのように持ち、姿勢を保っている。
「死ぬんじゃないぞ。リョーガ。」
「ははは。死ぬなんてことは早々ないさ。全部終わったら酒でものみに行くぞ。朝まで付き合ってやる。」
「ちっ。死んでほしくはないんだがな。」




