35.再戦の行方
結局月曜投稿となってしまいました。
次回は2018年11月22日の予定です。
急な寒さに驚きますね。皆様健康には十分にお気を付けください。
2018/11/19 22:54 誤字修正しました。
スゲー空間をでた俺は剣聖のジョブレベルを上げるため、森を散策もとい、走破し、魔物を狩り続けた。イムレスト周辺の魔物といえば、スライムやグリンウルフしかおらず、ジョブレベルには役不足であったが、ダンジョンは一目につく。贅沢はいっていられなかった。
朝方まで森を駆け回り、剣聖のジョブレベルは2に上がった。能力のベースが上がった俺は、救うもののによる能力上昇、気闘法による強化により、ハウルが反応出来ないほどの一撃を出せるようになったというわけだ。
───ハウルは崩れた壁の中から出てくることはなかった。メティス曰く、剣聖、救うものによる能力上昇、救うものによる枯渇を知らない気功を用いた気戦法、これらを総合した能力はSランクに達するほどらしい。元々Aランクの上位だろうと、防げる攻撃ではない。
「生きてますよね。」
リヴが青い顔をして聞いてくる。問題ない。と答えるが、意識を失ってる可能性は高い。
『メティス』
『ハウルは気絶しています。今なら問題なく処置ができます。』
OKだ。では早速、「処置」をしてやろう。
スタスタと壁に近づき、瓦礫のなかからハウルを力づくで引っ張りだす。
目立った外傷はない。まぁあっても問題ないが、メティスの加減が絶妙だったというところだろう。
リヴを救うと決めたとき、リヴとハウル、それぞれの身体の状況はメティスに教えてもらっていた。ハウルは両腕の気器や気脈が潰れている。原因はクエスト中に負った大怪我のせいだろう。詳しくは聞いていないが、得意魔法が使えなくなったということに関係があるのだろう。気功が魔法に関係するのは何ともよくわからん話だが。
ハウルが治ればまた冒険者として名を馳せてほしいというリヴの願いはかなえられる。ハウルがそれを望むかどうかは別の話だ。
「この勝負、リョーガさんの勝ちと・・・」
「いや、待て待て。今のはまだ準備運動だ。」
ハウルの身体を担いでリヴの近くまでやってくると、動揺しながらも、毅然とした態度でリヴが俺の勝利を告げてくるが、俺がそれを遮った。
「え、準備運動って、どういう・・・」
首を振って発言にこたえる意思はないことを表した。ハウルを地面におろし、
つけられていた両腕のグローブを取り外した。
『じゃ。メティス。任せたぞ』
『承知しました。マスター』
自分の身体が勝手に動き始めるのを感じた。メティスがハウルへの処置を開始し始めたのだろう。
ハウルはランク判定試験のとき、俺に対し、里の者か?と聞いてきた。そして両腕の気器が使えなくなり、得意魔法が使えなくなった。そしてランク判定試験の時に見せた、瞬間的な移動。これらから推測すると、ハウルは以前メティスから聞いた、気闘法を使える部族の出身ということになる。となれば、気器や気脈の知識はあるとみていい。ハウルは自分で分かっていたのだろう。魔法や自然治癒で潰れてしまった気器や気脈が治らないことに。
その中途半端な知識がハウルに絶望と諦めを与えてしまったのは想像に難くないが、メティスに言わせれば浅はかすぎるという話だった。
気器や気脈の損傷には気功による回復が有効だ。ちょうど毎晩俺に対して行ている開孔作業でも急ピッチで進めている手前、損傷が発生するのは茶飯事らしい。その時に実施するのが、外部からではなく、内部からの技による修復を行っているとのことだ。今回も同じような理屈だ。外部から気穴を通じ気功をハウルの中に流す。その上で内部から技を使い気器や気脈を修復するらしい。
気器が潰れれば保有できる気功の絶対量が激減するし、その回復力も激減。気脈が潰れていればその箇所に気功を通すことはできず、戦力も激減。戦力が6割になってしまったというのもわからない話ではない。
そろそろ太陽が頭上に差し掛かるといったところで、メティスから声がかかった。
『処置は完了しました。ここまで治療すれば能力としては全盛期の9割程度、あとは自然治癒でも時間をかければどうにかなるはずです。』
これでハウルはすぐにでも目を覚ますだろう。
「リョーガさん、ハウルさんに一体何をしていたんですか?」
ハウルへの処置の間、リヴからは散々質問を浴びせられた。そのすべてを無視し、ハウルへの処置に集中しているフリをしていた。
「まぁちょっとな。それよりもこっちに来て座ってくれるか?」
「はい?かまいませんが・・・」
───仰向けに寝ているハウルの顔の上に水の玉を形成し、その制御を開放する。水の玉は重力に従い、ハウルの顔に落ちると、その顔をぐっしょりと濡らした。
「ガハッ!」
口や鼻にモロに入ったのだろう、むせながら猫のように機敏な動作で身体を起こし、周囲をうかがった。そして、その咳が収まるころ、状況を理解し、顔から感情が抜け落ちていった。
「お、俺は・・・」
「・・・少なくとも二刻は気絶していたな。約束通り、お前には俺と一緒に街をでてもらう。かまわないな。」
ハウルが感情の抜け落ちた顔で茫然としている。まぁ無理もない。自分にただ一つ残された一番大事な物を奪われた。すぐには感情が追い付かないだろう。
「リヴは・・・?」
枯れたような声で俺にそう問いかけるハウルは拳を握りしめ、その手を震わせながらこちらをにらみつけていた。
「先にギルドに戻らせておいた。ここから先は邪魔になるからな。」
「ここから先?」
「俺とお前は一勝一敗。次でケリをつけよう。もう手加減は無しだ。俺も。お前もな。」
「俺もって言われて・・・」
ハウルの言葉が止まる。自分の身体の異変に気付いたんだろう。いや、異変がなくなったことに。ハウルは再び思考を停止させて虚ろな目を俺に向けてくる。
「うん?手加減してくれてたんだろう?そんな状態での勝負は無しだ。」
ニヤリとした笑顔をハウルに向けた瞬間、すべてを悟ったのかハウルは自分の手に目を落とし、後ろを向いた。
空を見上げると青空の中を雲がゆっくりと移動していた。風は優し気に吹いている。
「全くふざけたヤツだ。常識ってもんを叩き込んでやらないとな。」
振り返ったハウルは両手に一つずつ拳銃のようなものを握っていた。一つは銀色、一つは黒色、銃身は長く、それぞれが短剣のような長さだった。
「常識か。しっかりと教えてもらおうじゃないか。」




