32 女神
お読みくださり、ありがとうございます。
次回は11月13日(火)です。
5つ目の属性である光の玉が消えそうなタイミングで脳内に声が響いた
〈スキル:気力消費減少を獲得しました。〉
時間は午前2時を過ぎたくらいだ。流石のメティスも負荷が高いらしく話をしている余裕は無いようだったが技の発動音がそれなりにやかましく、夜の森に木霊していた。
技でも負荷軽減スキルが入ったということは少しはスピードが上がるかもしれない。
そんなことを考えていると、目の前に紫がかった黒い玉が浮かんだ。闇の玉だろう。やはり魔法の時と見た目は変わらない。ぼんやりと見つめていると段々と玉が大きく膨れ上がっていくことに気づいた。バスケットボールよりも大きくなっただろうところで形が崩れ始める。恐らく行使回数に到達したのだろう。またすぐに玉が形成される。無属性だ。ただし、いきなり先程の玉と同等の大きさだ。
炎はイメージ通り炎が燃え盛る音、水はピチャピチャ。風は扇風機の音に近いか。土は石が砕ける音、光はキーンという甲高い音が聞こえる。闇に関しては形容しづらい。じくじくと言った表現が一番近い。耳元で聞こえたら寒気がしそうな音だ。最後の無属性だが、淡い光を放つ以外は何の音もしない。無音だ。俺自身が無属性に適正があるからなのかもしれないが、他の属性に比べ、圧倒的に美しく、幻想的な雰囲気を感じる。
幻想的な光の瞬きに夢中になっていると、メティスから声がかかる。
『お待たせしました。もうすぐ行使が終了します。途中で実績を確認しましたが、想定どおりのptsを獲得出来ていますので、合計は101004ptsとなりそうです。』
『ありがとう。了解だ。想定通りだが時間がかかってしまったな。これで女神の祝福ガチャが残念な結果だったら・・・いや、よそう。言葉にすると現実になってしまいそうだ。』
『流石に10万ptsも消費するのでマスターの利にならないことはないと思われますが・・・』
『アマテラスだからな・・・』
自分で言っておいて不安になってくる。10万ptsを金に換算すると・・・いや、だめだ。考えても碌な結果にならないのはわかってる。やるんだ。やってしまえ。
考えてるうちに無属性の玉が消失する。タイミングはぴったりだ。心が決まった。
意を決してスゲー空間に移動する。
立方体を前にして拳を握りしめた。目の前には女神の祝福という文字がある。この場に立つということは例のアレが必要だということだ。ゲンナリする。いや、アレに関してはこれから消費するptsを考えるとそこまで気になるものでも無い。嘘だ。もうヤケクソだ。
「行くぞ」
「はい。マスター。」
拳を握りしめ、言葉を身体全体から吐き出すように叫び出す。
愛と青春の煌めきーーー!
声がスゲー空間に響く。胸がドクドクと脈打つのを感じる。一体どんな結果を迎えるのか。大きな不安と小さく無い興奮が心を満たす。
今吹きあ・・・
「うっっっるさぁーーーーーいのじゃ!!」
えーーーー!?と何オクターブか上の自分の声が頭の中を木霊し、口から何かが飛び出そうになる衝動を抑えた。もちろん文句をつけたのはメティスではない。立方体の上部を開けて身を乗り出したアマテラスだった。
「全く!人がいい気分で寝ておったら何事なのじゃ!?」
唖然とした口のまま、何とか言葉を返した。
「あ、アマテラス様、私は女神の祝福ガチャをしようと」
「だからと言って騒ぐでない!何なのじゃ一体!愛やら青春やら青臭いことを言いよって!リョーガよ!貴様はもう人の歳にして40も迫ろうとしておる!それだからいつまでも結婚もせんと独り身でおるのじゃ!何故我が世界に貢献しようとしない!種の繁栄はお主たち人間にとって、いや、生命にとっての義務であろう!わかっておるのか!」
いや、わかってねーよ。
「あ、あのー私はこの世界ではまだまだ歳も若く、これからというところだとは思うのですが・・・いや、その前にこの詠唱はアマテラス様ご自身から教わったものなのですが・・・」
言ったことをすぐ忘れるクライアントを思い出すな・・・鬱陶しいことこの上無い。
「そのようなものは冗談に決まっておろう!」
「じょ、冗談!?」
一瞬にして全身から汗が吹き出るような感覚を覚え、次には背筋が凍る感覚を感じた。
後ろを振り返ると、そこには微笑みをたたえたメティスがいた。
「何か?」
声が、声が笑っていない。鬼だ。鬼がいる。
「アマテラス様、ご冗談とはお戯れを。せっかくの休息をお邪魔してしまい、大変申し訳ございませんでした。」
慌ててアマテラスとの会話を再開させる。こっちはこっちで怒らせたらマズい。全くなんだこの状況は・・・神様とスキルに挟まれてワタワタしてるなんて全人類、全生命の中で俺だけな気がする。こんな奇跡いらねぇ・・・
「わかればいいのじゃ!じゃあの!」
立方体から浮かびあがっていたアマテラスがふよふよと立方体に戻っていく。もはや何も言うまい。さっさと戻れ。何か確認しなければならないことがあった気がするが、もういい。さっさと帰ってくれ。鬼が。鬼からの視線が怖い。
「なんじゃ。妾が帰るというておるのじゃぞ。別れの言葉は無いのか?」
うるさい。さっさと帰れ。
「失礼しましたアマテラス様。またお会いできる日を楽しみにしております。」
俺の言葉に満面の笑みを浮かべると、
「よろしい。ではの。リョーガ。女神の祝福ガチャでもひけるようになればまた会うこともあろう。楽しみにしておるぞ。まぁ10年や20年では無理だと思うがの。」
捨て台詞を残して、アマテラスが立方体の中に戻っていった。
最後の捨て台詞を反芻し、首をひねりながら、後ろを振り向くと、鬼、もといメティスも首をひねりながらこちらを見ていた。
「???」
立方体の正面を拳で小突いた。
ドカっ パカ ドサ
見ると、立方体の底が抜けて、アマテラスが尻餅をついていた。
「いたたたたた~なんなのじゃ~もう~」
アマテラスが俺を見て停止する。スローモーションのように首をひねり、こちらを見つめた。
「女神の祝福ガチャ・・・・ですが。」
アマテラスが動きだすまでに短くても30秒の時間が流れた。




