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幸福と絶望と異世界生活と  作者: ゴルハアミーゴ
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29.再戦

次回は2018年11月1日に投稿です。

「もう!ハウルさん!立会人ってなんですか一体!リョーガさんたらなんの説明もしてくれないんですよ!?」


 修練場にハウルが姿を現わすとリヴが矛先をハウルに向け始める。先程からこの調子だ。まぁ事情も何も説明していないのだから仕方がない。


「リョーガ。リヴは関係ないだろう?」


 リヴの声は一切無視してハウルが俺に話しかける。リヴが恨みがましい目でこちらを見つめるが気にしたもんでもない。


「関係ないことないだろ。十分関係者だ。」


「しかしな。」


「なんだ?リヴの前で醜態を晒すのが怖いか?」


 ため息を吐きながらハウルが帽子を被り直す。


「いや。いい。勝手にしろ。」


「そうか。じゃ約束通り。俺が勝ったらお前は俺と一緒に街をでる。お前が勝ったらこの話は無しだ。」


「ああ。問題ない。」


「そ、それって・・・」


 リヴが改めてこちらに視線を向ける。まぁ驚くのも無理はないだろう。昨日の今日だ。しかもリヴからすれば今まで続けてきた日常が一気に変化しようとしている瞬間だ。だが俺の奴隷になるとまで決意した結果だ。こんな展開になろうとそれは許容の範囲内だろう。


 俺はリヴに一度だけ視線を向け、すぐに戻した。


「そういうことだ。」


 リヴが俺の答えに身を固くする。案の定、その一言で事情を飲み込み、一瞬だが不安の表情を浮かべた。だが、すぐにそれを打ち消し、決意を固めた表情で全てを了承した。


「わかりました。それでは私、リヴが立会人を務めます。お二人とも、命を落とすなどということが無いよう十分にご注意を。健闘を祈ります。」


 気丈。という表現が正しいか。死を前にしたハヅキの表情と似たものを感じる。悲壮な決意を浮かべた表情に素直に美しいと感じる。


 ハウルが木剣を構える。俺もそれに倣った。リヴは俺たち二人の様子を確認し、ふた呼吸ほど息を吸う。

 そして声を放った。凛としたよく通るはっきりとした声だ。


「それでは、始めてください。」



 静寂。という言葉が正しいか。ハウルは動こうとしない。格上の冒険者の矜持なのか、格下の俺相手に先行するのは恥だとでも思っているのかもしれない。だがメティスがハウルの状態を細かく確認し、伝えてくれる。その情報が俺を侮っているということも。


 ふと、構えを解いて木剣を下ろす。ハウルは微動だにしない。


「だめだな。油断しているだろう?今度の俺をこの前の俺と同じと思わないで欲しい。今のまま始めてたら秒殺もいいところだぞ?」


「・・・もはや狂人としか思えんな。うだうだ言ってないでさっさとかかってこい。人はそんなにすぐ強くなれるものではない。」


「本当のことなんだがな。」


 ハウルは答えようとはしない。もう言葉はいらないということか。


「最後の親切心だ。今から三つ数える。ゼロのタイミングで真正面から斬りかかる。俺から見て右上から左下だ。避けるなり、受け止めるなり、好きにしろ。」


 やはりハウルは答えない。もういいな。と呟き、木剣を構え直した。


「いくぞ、三、」


 気功を体内に巡らす。出力など加減する必要はない。


「二、」


 強化された握力で木剣を破壊してしまわないよう、持ち加減を再確認する。


「一、」


 ハウルは微動だにしない。


「ゼロ」





 ----ハウル----


  修練場に入ると、リョーガとリヴの姿が見えた。だが、近づくにつれ、自分がリョーガと認識していた人物が全く別の人間ではないかと感じてしまった。冒険者としての勘と言えばいいのか。目に映る人物と自分が今まで認識していた人物に違和感を感じる。まず纏っている空気が違う。高位の冒険者特有の、下位のものとは区別せざるを得ない強者のオーラがある。あとは余裕か。正直、昨日の時点ではハッタリにしか見えないただの強気だった。今はハッタリではなく、余裕と感じられるような雰囲気の違いを感じる。


 魔法や技の類では無い気がする。確証は得ないが、魔法や技を使った擬態には限界がある。主に見た目が変わるというところに重きを置いていることが多く、纏った雰囲気、威圧感を再現できるようなものではない。かつて肩を並べて戦った高位の冒険者と同質のオーラは、魔法や技で誤魔化せるようなものではないのだ。間違い無く前回とは別物だろう。


「もう!ハウルさん!立会人ってなんですか一体!リョーガさんたらなんの説明もしてくれないんですよ!?」


 立会人か。別に構わないが、リョーガの変貌ぶりのほうが大問題だ。言葉を交わしながらリョーガの様子をうかがうが、怪しいところはない。やはりこのわずかな時間で圧倒的な力を手に入れたらしい。もしくは力を隠してたか。いや、この感覚は消せるようなもんじゃない。


 才能か?Sランクでさえこんな短期間で成長する化け物は聞いたことがない。だとすれば・・・それこそ、神や天使、悪魔、いずれにしろ超常の存在?

 いや、そんな存在が今俺の目の前にいるというのか?信じろってほうが無理だな。


「わかりました。それでは私、リヴが立会人を務めます。お二人とも、命を落とすなどということが無いよう十分にご注意を。健闘を祈ります。」


 リヴの声にハッとする。ゼシカ・・・お前の娘にこんな顔をさせてしまう時がくるとはな。いつかのお前と同じような顔をしやがって。ちくしょうが。


 ちっ。時間切れだ。後は実際に戦ってみるしかない。力は見立てで五分といったところか。まだまだ若輩と思ってた男が1日で同等か。笑わせる。


 俺はリヴのそばを離れるわけにはいかん。もう長くは無いだろう。だが、一分一秒でも長く普通の幸せを。生きるということを味あわせてやるんだ。ゼシカ。パーカー。お前らの娘は俺が守る。



 木剣を構えてリョーガに対峙する。リョーガもそれに倣った。リョーガが木剣を構えると空気が一変する。やばいな。剣術では恐らく手も足も出ないだろう。これは体術との組み合わせで変則的にいくしかないか・・・


 リヴが開始を告げるが、容易に隙を見せるわけにはいかない。


 ふと、リョーガが木剣を下ろす。隙など全く無い。


「だめだな。油断しているだろう?今度の俺をこの前の俺と同じと思わないで欲しい。今のまま始めてたら秒殺もいいところだぞ?」


 油断?油断など皆無だ。お前の力は分かっている。俺と同等だ。油断などするはずが無いだろう。


「・・・もはや狂人としか思えんな。うだうだ言ってないでさっさとかかってこい。人はそんなにすぐ強くなれるものではない。」


 本来ならな。分かってる。お前は強い。強くなった。


「本当のことなんだがな。」


 ああ。分かってる。


 リョーガが三つ数えた後に斬りかかると告げてきた。良いだろう。そこまで言うならその慢心を斬って捨てよう。


「いくぞ、三、」


 リョーガの身体を気功が駆け巡っているのを感じる。とんでもない出力だ。これでは攻撃を仕掛ける前に力尽きてしまうだろう。何を考えている?


「二、」


 気功の奔流は止まらない。むしろ強まるばかりだ。まさかこれを維持できるっていうのか?


「一、」


 ま、まだ増えるのか?正気じゃない。こんな力を制御できるはずが。



「ゼロ」



 一瞬にして目前にリョーガが現れ、そして急激に遠のいていった。


 いや、遠のいるの俺自身だった。

 抗いきれない力の奔流に流される中、次なる衝撃に備え、身体全体に気功を巡らせた。




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