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幸福と絶望と異世界生活と  作者: ゴルハアミーゴ
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26.ランク判定試験、結果

 顔を舐める感触がする。毎朝の恒例行事になってしまったな。そう思いながらも身体の上に載っているものを撫でながら、声をかける。


「おはよう。ムート。」


「ぷぎ」


 しばらくムートを撫でながらぼーっとする。



 昨日はあの後、ハウルに担がれてギルドまで連れてかれた。ランク判定の結果はリヴが失神してしまっていたことにより、次の日まで待ってほしいという結論になった。ハウルがあーだこーだと文句をいい、ギルド職員が血相を変えて右往左往していたが、結果は変わらずだ。まぁ別に文句を言うつもりはない。


 一通りの手続きを終えるとハウルと話していた通り、ギルドの食堂で一杯やることにした。実年齢はお互い40手前という事もあってか妙に馬が合った。ただ、その考え方や生き方はこの世界ゆえか、冒険者によるものなのか、厳しさや割り切りが強く見えた。現代人には無いシビアさだ。


 ハウルにおすすめの宿屋を紹介してもらってギルドで別れた。ハウルとはまた会うこととなった。なんでも、ランク判定結果を聞くついでに少し話をしないか。とのことだ。


 ムートを床に下ろし、ステータスで時間を確認し、身支度をする。まだ余裕があるな。


『おはよう。メティス。』


『おはようございます。マスター。昨日はお疲れ様でした。』


『ああ。ありがとう。最低限のサポートで良いと言ったが、俺の思うとおりだった。さすがメティスだ。』


 メティスとはイムレストに着く前から役割や緊急時の対応について話していた。昨日のハウルとの一戦ではメティスのアドバイスや鑑定による戦略の立案、肉体操作は禁じた。生命の危機が迫ったときは自由を許していたが、何より俺の身体だ。俺の手で扱えるようになっておきたい。メティスに頼ってばかりでは自分で考えるという力も無くなっていくしな。


『お褒めいただきありがとうございます。私としてはマスターが心配で常にハラハラしておりました。』


『まぁそこは修行だ。慣れるしかないな。・・・メティス、あのときメティスが戦っていたら、ハウルに勝てていたと思うか?』


『無理でしょう。彼はまだまだ全力まで程遠い力しかだしておりません。それに・・・』


『それに?』


『失言でした。マスター。この先はマスターの言う個人情報にあたりますので、ここまでとさせてください。』


 これもメティスと事前に話しておいたことだ。メティスにかかれば鑑定し放題、個人情報を見放題だ。それが俺に過度な害を及ぼす以外は俺に伝えないよう、メティスに命じていた。俺の指示であれば話は別だが。


 まだまだ時間はある。朝から身体を鍛えるのを日課にしたいと考えていたことを思い出し、素振りをしようと部屋を後にした。





 ハウルと待ち合わせをしたのは5の刻。午前10時だ。この時間になれば朝からバタバタとしていたギルドの中も落ち着くだろうというハウルの配慮だ。


「おう。来たな。」


 ギルドの中に入ると、交渉テーブルで待っていたハウルが手を挙げて声をかける。手を挙げて応えると、若干だがギルド内の視線が集まるのを感じる。ギルドの中は人がまばらだか、遠まきに話をしている連中もいる。

 若干居心地の悪さを感じながら苦笑いを浮かべてハウルの待つテーブルに向かって歩き出す。


「なんだ?これは」


 テーブルに着くと座るように促され、視線の正体について尋ねることにした。


「ははは。噂のルーキー様のご尊顔を拝見。ってやつだな。まぁしばらくは続くだろう。慣れるしかないな。」


「噂のルーキー様?」


「まぁ半分以上は俺のせいだから、同情はするがな」


「本当ですよ!全くもう!」


 リヴが書類をテーブルに置きながらハウルに怒り出す。そして、俺の顔を見ると顔を真っ赤にした。


「え、えと、昨日はお恥ずかしいところをお見せしました。」


 どうやら昨日の失神お漏らしコンボのことを言ってるらしい。


「そうか?何のことかわからないが、まぁ気にしなくていいんじゃないか?」


 視線をそらして若干の笑みを浮かべる。


「そ、そうですか。で、ではわからないままにしておいてください!」


 リヴは安心したような明るい笑顔を浮かべていた。まぁ気が済んだならいいんだ。


「ところで、噂のルーキーってのはなんのことだ?ええとリヴ・・・さん?」


「リヴで構いませんよ。リョーガさん。噂のルーキーも何も、全ての元凶はハウルさんなんですよ?リョーガさんはもっと文句を言って良いと思います。」


「全ての元凶と言っても俺は悪いと思ってないがなー。」


「ほら、そうやって!もう!ちゃんとリョーガさんに謝ってあげてくださいよう!」


「ま、まぁまぁ。俺は悪名だろうと何だろう有名になるのは大歓迎だ。やっかみやらなんやらが増えるとしてもな!逆にハウルに感謝したいくらいだ」


 ハヅキを見つけるためにな。悪名すぎるのは勘弁だが、ここまでの話の流れで悪名ということはないだろう。


「まぁ結果論だ。リョーガがいいと言ってるならいいだろう。」


「もう!そうやって・・・リョーガさん、本当に気をつけて下さいね。3日もすればこの街の冒険者はみんなリョーガさんのことを覚えちゃうんですからね。なんてったって、『魔弾』の後継者ですからね。」


「『魔弾』?ってなんだ?」


 リヴは唖然として、口を開けたまま固まっていた。あまりのことに目を開いたまま次の言葉が出てこないようだ。


「あぁ。リヴ。リョーガは育ちが特殊なようでな。そこら辺の常識みたいなもんは知らんみたいだ。」


 酒の場でハウルには俺の事情について少しだけ伝えていた。辺境から来た。気づいたら森にいた。それ以前の記憶はないが、思い人であったハヅキを探している。冒険者はその目的のため。とだけだが。あとはハウルが勝手に想像を膨らませてくれている。


「そ、そうですか。ハウルさんは今はこんなんですが、昔はそれはもう有名な・・・」


「おいおい。散々だな。だがまぁそんなとこだ。俺は今まで試験官を務めてもFランクとしか判定したことがない。そんなとこからいきなりお前だ。自分で言うのもなんだが、周りが色めき立つのもわからないでも無い。」


「そこまでは別にいいんです。なんでそれを領主様に言っちゃうんですかーーー!?」


 リヴの話では朝から領主の使いが訪れて俺の素性の確認と面談の要請があったらしい。基本的には冒険者個人の判断に任せられるらしく、本人の意思を確認してからという話らしいが基本的に断れる話ではないらしい。朝からそんな出来事が起きたため、魔弾が評価する男、ランク判定試験を受けて早々に領主から声がかかった男。など、完全に話題の人となってしまったようだ。


「まぁなんとなく事情はわかった。なんだか気を遣わせてしまって悪かったな。ハウル。」


「いや、気にするな。俺は飲み友達に近況を話したに過ぎない。」


 ハウルがリョーガの事情を鑑みて動いてくれた結果だろう。俺としては万々歳だ。


「領主様にはお伺いする旨を伝えてくれないか。日時は向こうで指定してくるんだよな。俺はいつでもいいと伝えてほしい。」


 もう、なんでそんな平然としてるんですか?本当に状況が分かってるんですか?と怒り続けるリヴをなだめて、今日ギルドに来た本来の目的を終わらせることにした。


「で、結局俺は何ランクなんだ?」


「おっ!それでは早速発表しちゃいますね!ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル・・・・ドンッ!なんと!Bランクです!おめでとうございますー!わーーー!」


 リヴがテンションを上げて拍手する中、冷ややかな目で見るハウルと真顔の俺によってシンっとした空気になった。


「もう!もうちょっとリアクションして下さいよう!やったー!とかうぉぉーとかなんか色々ありますよね!?」


「・・・わー。やったー。うれしー。」


「もういいです!!とにかくBランクです!ハウルさんが試験中に色々言ってましたけど、ランク判定試験では最高でもBランクにしかなれませんから。ハウルさんが最高の評価をしてくれたということです。」


 Bランクか。上に上がるスピードは早いほうがいい。自分の実力が伴わないこともあるだろうが、そうは言っても上に上がれるなら上がれるときに上がったほうが良いに決まっている。


「まぁBはお前には早すぎると思うがな。将来性を考えたら早いとこBランクを経験した方がいいと考えた。とはいえまずはパーティ探しだな!お前がソロでBランクのクエストを受けられるなんて思うなよ?必ずBランク以上のパーティに入るんだ。パーティの斡旋ならギルドに頼めばいい。」


「なんだ?お前が俺とパーティを組んでくれるんじゃないのか?ハウル。」


 またも唖然とするリヴ。だが今度の回復は早かった。


「それです!それ!いいですね!そうしましょうハウルさん!」


 握り拳を振りながら何故か大興奮のリヴがハウルを急かす。だがハウルは苦い顔だ。


「面倒を見てやりたいのは山々だが・・・第一線を退いた俺にもそれなりにやる事があるんだがな。」


「そんなのやめてしまえばいいんです!ハウルさん!リョーガさんと一緒に、もう一度第一線で活躍するんですよ!」


「だから第一線なんて無理だと何回も言ってるだろう。お前も知らないわけじゃないだろうに。」


 どんな事情を抱えてるか知らないがハウルの意思は変わらなそうだ。



「ハウル!仕事だ!」



 受付から男性職員が紙をヒラヒラさせながらこちらに声をかける。指定のクエストか。もしくは緊急性の高い仕事だな。


「リョーガ。話の途中だが急用だ。また話そう。いいか?パーティの斡旋依頼を出しておくんだぞ?」


 そう言うと、テーブルを離れるいい口実が出来たとばかりにハウルは颯爽と受付に向かっていた。


「もう!ハウルさん・・・」


 ハウルは受付で二言三言話すと、ギルドから出て行った。残された俺はリヴからランクBのギルドカードを受け取り、Bランククエストの簡単な説明、注意などを受けた。一通りの話を終えると、唐突にリヴが黙り込んでしまった。


「どうかしたか?リヴ」


「勝手なお願いで申し訳ないんですけど、パーティの斡旋は待ってもらえませんか?リョーガさん」


「・・・あぁ。待つ分にはかまわないが。ハウルはパーティを組む気は無さそうだったぞ?」


「はい。お察しの通りです。リョーガさん、今日の夜はお暇ですか?一緒にご飯でもどうです?」


「あぁ。特に予定はないが・・・」


「じゃ、決まりです。9の刻には宿に伺いますから、待ってて下さいね!では、以上でランクBの説明を終わります。ありがとうございました。」


 笑顔でそういうと、リヴは急いで受付に戻って行った。



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