21.救うものの検証
『検証したいのは各種レベル上昇速度の上昇だな。とりわけ、ジョブレベルとスキルレベルだ。ひとまずスゲー空間に行くぞ!』
ステータスを開いてメニューからスマホゲーを選ぼうとする。が、スマホゲーの文字が灰色になっていた。ゲームでよくある仕様だな。戦闘中はスゲー空間には行けないってことか。できればいいとは思ったが諦めるしかないか。
『マスター。どうやら私単独であれば戦闘中でもスゲー空間に入ることが可能なようです。』
メティスの言葉に一瞬だけ思考が止まる。
『ど、どういうことだ?』
『言葉通りの意味です。恐らくガチャや実績の確認、課金、ジョブの変更も出来るかと。』
まじでか。それはめちゃくちゃ助かるな。
『よし、じゃそれも実験だ。残り700pts程度残っていたはずだから、一回ガチャを引いてきてくれ。ジョブガチャでいい。後は精霊ガチャのときに確認していなかった実績の確認と、ジョブは商人に変更してきてくれ』
『了解しました。』
『戻りました。マスター』
早いな・・・って時間がとまるならこんな感じか。
『結果は?』
『全て滞りなく完了しました。実績に新しいものはなく、ガチャからは残念ながらポーションが出ました。』
『そうか。メティス・・・アレはやったんだな』
『ノーコメントです。』
『アレはやったんだな?』
『記録が消去されました。アレを実施したか否か判断できません。』
『メティス』
『・・・』
『メティス』
『・・・マスター。しつこい男性はどうかと。』
ぐっ。こいつ意地でも喋らないつもりだな。まぁいい。いつか実験と称して目の前でやらせてやる。絶対に。絶対にだ!!
『よし。メティス。ジョブを剣士に戻してきてくれ。救うものの検証を始める!』
『了解しました。』
まずは、戦闘じゃなくても各種レベル上昇速度が上がってるかだな。
『今の剣士のジョブレベルと剣術の発展スキルのレベルを教えてくれ。上級剣術だったか。』
『いずれもレベルは1となります。』
『あとはステータスでジョブレベルとスキルレベルがあとどのくらいでレベルアップするか確認出来るか?』
『問題ありません。数値で確認できますが、上がった、あとどのくらいでレベルアップしそう。などとお教えした方が良いでしょうか。』
『そうだな。それで頼む。助かるよ。』
メティスが俺の好みをわかってくれている。助かるな。早速始めるか。ムートとスライムの位置が近づき過ぎないように気をつけないとな。
まずは、剣士と剣術と言えば素振りか?剣道の型をイメージして、木の剣を振ってみる。なかなかな音を立ててそれなりな動きが出来る。剣術スキルMasterのおかげだろう。自分の身体の動きに慣れるために続けて剣を振る。しばらくすると頭に声が響いた。
〈ジョブ:剣士がMasterになりました。〉
『メティーーーーーース!』
『ま、マスター、数値に何の反応もない状態からいきなりMasterになりました。』
『数値が何も?』
『はい。これが救うものの効果であればとんでも無い効果です。』
『上級剣術はどうだった?』
『ちょうど剣士がMasterになったと同時に数値に反応がありました。100倍すればレベル2に上がりそうですね。』
『そうか。ずいぶんと差がある結果だな。』
『恐らく、ナイトがMasterになっていることが何かの原因になっている可能性があります。マスターはこの世界で初めて剣士より先にナイトをMasterいたしました。流石に私の知識にもわからないこととなります。ただ、生き物の能力という点から見てもナイトの下位にあたる剣士のジョブをMasterしていないというのもおかしな話です。帳尻あわせのようなものかもしれません。』
『・・・例えば、プロ野球のホームランバッターがプロ野球選手では無いということはありえない。プロ野球選手が野球選手では無いことはありえない。ということか。』
『おっしゃる通りです。推測の域は出ませんので、継続して検証が必要ですが。』
『そうだな。まぁこの件についてはMasterになっているジョブもないし、次の検証だな。メティス。この場で獲得できる可能性のある戦闘系のジョブとその獲得条件を教えてくれ。』
『武闘家が最適かと思います。獲得条件は一定以上の鍛錬を実施するか、一定以上の生物、無機物を素手ももしくは足で破壊することとなります。現状からすると、素手で木や石を破壊するのがよいかと思いますが、通常であれば資質によりますが50から100の対象を破壊しなければなりません。』
ちょうどいい条件かもしれないな。
『それを狙ってみようか。痛覚を切ってくれ』
木の剣をストレージに収納する。石と木でいえば木だろうな。真下に力をぶつけるよりは横に力をぶつけるほうが力の流れをイメージしやすい。試しに右手の甲を引っ張ってねじってみる。ねじってもねじっても痛くなかった。やり過ぎてしまいそうで怖いな。
『ついでに再生のテストもする。恐らく俺の脳が身体を傷つけないようリミッターをかけてると思うんだが、それもブロックもしくは解除できるか?』
『マスター。構いませんが、あまり無茶はしないでいただきたいのですが。』
『まぁ問題ないだろう。やってくれ!』
メティスがリミッターを解除したと告げてくる。身体の状態に変化は無い。やってみるか。
右手以外を気闘法で強化する。体内を気が巡っているのを感じる。運動して身体が温まった状態と似ている。身体が湯船につかったみたいな状況だ。
「おおおおおおおらぁーーーーー」
近くにあった太めの木に向かって右手を振りかぶる。地面を左脚で踏みつけ、右脚で前に進む力を、腰が周り、脚から伝わった力がさらに増幅される。左手は前方から脇に巻き込み腰の回転をサポートする。
振りかぶった右手が再始動する瞬間、頭の中であっ。という言葉が聞こえた気がした。
バンッ
赤い。何で?
一瞬だけ意識が途切れて、気づくと身体がふらふらしていることに気づいた。大きな音が全身を隅々まで突き抜けて、しびれてしまってしまったような感じがする。次に気づいたのは視界が真っ赤に染まっていることだった。もちろん痛みは無い。何がどうなって・・・
気づいた。
それは体中から噴き出る俺の血が辺りを染めていたことによるものであり、右肘から先にあるはずのものが無いことに。
少しだけ回復した意識をあっさりと手放した。世界が暗転する。
気づくと、自分の身体が勝手に動いているのが見えた。メティスが視覚以外の感覚を遮断してるようだ。思考が鈍い。意識を失う前の出来事がとっさに思い出せず、少しだけぼーっとした時間をすごした。
俺の身体は歩き続けている。森のなかは日差しが明るい。歩く足は地面を踏みつけ、少しだけ沈み、止まり、また踏み出して、踏みつけ、沈み、止まる。呼吸や鼓動のように淡々と続く音に、動作に生きていることを感じる。そうだ。生きているな。
『お気づきになられましたか?マスター。』
メティスが声をかけてくる。意識だけでも気配みたいなものでも感じ取れるのか。いや、メティスは俺のスキルだ。本体がどういう状態かはわからないほうがおかしい。
『ああ。やりすぎてしまった。すまない。状況を教えてくれ。』
『はい。マスターは気闘法による全身の損傷と右腕の欠損による精神的ショックで意識を失っておられました。緊急時と判断し、私がマスターの身体を操作、傷の経過観察、検証を続行しておりました。』
『そうか。まさか気闘法による強化状態があそこまですごいものとはな。甘く見すぎていたみたいだ。』
『本当です。無茶をしないように言ったはずです!私がどれだけ心配したか。』
怒りのような、悲しみのような雰囲気が伝わってくる。前もあったが不思議な感覚だ。
『やはり経験は必要だな。加減というものがわからない。』
『はい。特に救うものが発動していない状態に慣れないと今のままでは気闘法を使った瞬間に戦闘不能になってしまいます。』
『そうだな。その前に右腕はどうなったんだ?』
『・・・驚くことに救うものの再生効果により、欠損でさえ元に戻りました。』
『欠損もか。危なかったが良かった。さすがに検証で腕を失いましたとか笑いようが無い。』
『くれぐれもお気をつけいただければと。』
腕が無くなったとか今後にどんな影響が出てたかわかったもんじゃ無い。・・・魔法に極端にシフトしてたかもな。俺に止まる理由はない。この世界には魔法がある。現代では部位欠損だと生活に支障が出るなんてもんじゃなかなったかもしれないが、魔法を極めれば現代よりは対応できる幅が広がる気がする。
・・・逆に部位欠損だからといって現代日本の如く無害な者と判断してはいけないということになるな。覚えておこう。・・・なんかジョから始まる漫画にそんな敵がいた気がする。
とにかく。よかった。結果だけみると部位欠損まで治るとわかったのは儲けものだ。
『よし。じゃ検証結果を教えてくれ。いや、その前にスライムはどうなったんだ?』
『ムートが目を覚ました段階で救うものの効果が消えてしまいました。これ以上の検証は不可と判断し、退治しました。検証として弱らせてからムートにトドメを刺させる形としています。』
ムートにレベルがあるのか気になるところだしな。
『さすがだメティス!じゃあ結果を教えてくれ。』
『了解しました。獲得したジョブやスキルもあります。ステータスの確認もまだでしたので、まずは現状のステータスからどうぞ』
レベル:16
HP:1030/1030
MP:151/151
KP:210/210
筋力:D1:360
持久:D3:460
器用:F1:43
魔力:F1:50
気功:C1:80
精神:E4:253
幸運:A1:600
変更可能ジョブ:
○下級
剣士lv Master、商人lv1、遊び人lv1、冒険者lv1、武闘家lv2、料理人lv1、魔法使いlv1
○中級
ナイトlv Master
技:
初級炎気法、初級水気法、初級風気法、初級土気法、初級光気法、初級闇気法、初級無気法
魔法:
初級炎魔法、初級水魔法、初級風魔法、初級土魔法、初級光魔法、初級闇魔法、初級無魔法
スキル:
上級剣術lv2、武闘術lv1、気功武闘術lv1、炎耐性lv1、毒耐性lv1、麻痺耐性、痛覚耐性lv1、採取lv1、料理lv1
スマホゲー、ステータス(UR)、インベントリ(UR)、気闘法、救うもの、雑食
ホーリースキル:
叡智
契約精霊:
ブタ?
称号:
異世界人、精霊と共に在るもの




