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幸福と絶望と異世界生活と  作者: ゴルハアミーゴ
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2.目が覚めると

 木。森だな。森の中の少しだけひらけた場所に今いるみたいだ。気づくと森の中に立っていた。周囲に6人の人間がいる。リョーガを入れると7人になる。パッと見ても分かる。葉月はこの中にはいない。


「うぉぉぉーこれぞまさに異世界転生じゃね!」

「やばくね?やばくね?どうなってんだこれ!?」


 異世界に転生したことに色めきだっている何名かと状況を確認している何名か。状況も確認出来ないような状態だったら静かに状況確認しろよと感じてしまう。どんな世界に飛ばされたかもわからないんだぞ?とまで考えてふと冷静になる。無理もないな。アマテラスの言う通りだとすると彼らは10代なのだから。


「異世界転生と言ったらこれじゃね?」

『ステータス』


「おおおー!さすが異世界!目の前にウインドウみたいなのが出てきたぞ!」


 何だそれは。ひとまず状況確認がてら、自分も試してみる。何の変化もない。


「あっ!私も出てきた!ショーくんもやってみて!」

「おっ!ユキ!俺も出てきたぞ!」


 おかしい。声の大きさかと考え再度試してみるが何の変化もない。アマテラスの顔がちらつく。俺は特別製ってことか?


「なぁみんな、自己紹介がてら状況を確認しないか?」


 こいつの名前はわかる。黒崎だ。またこいつと会うことになるとはな。


「俺の名前は黒崎拓真。青林大学1年情報学部に在籍している。」


 あれっお前もか。あっ、私も。と声が上がる。全員同じ学部らしいな。


「みんな同じ学部だったんだな。まぁ人数も多いし、顔を覚えてるのはわずかだよな。」


 そう言って黒崎は俺のほうに視線を送る。黒崎とは高校からの同級生だ。輪の中心が自分でないと気に食わないタチで、何かと人目をひく葉月とよく一緒にいる俺が気に食わないらしい。黒崎の視線に肩をすくめて答える。さも何でもないような顔をして黒崎は話を続ける。


「もしかしたらこの森には魔物がいるかもしれない。そうであったらいきなり戦闘だ。みんなのジョブも確認させてもらっていいか?俺はナイトとなっている。」


 すっかりリーダー気取りだが方向性は悪くない。しかし、ジョブか。RPGでよく出てくるあれなんだろうな。その人がもつ職業。クラス。役割。ステータスが見えない以上、確認が出来ないな。


「じゃ時計周りで俺かな!俺の名前は坂本宗介!ジョブは槍使いだな。よろしく。」

「次は俺な!森井海!海って書いてカイだよろしくな!ジョブは拳闘家だな。」

「僕は田丸大吾と言います。デカイ図体だけど争いごとは苦手です。ジョブは料理人になってるみたい。」


 ナイト、槍使い、拳闘家、料理人、あまり統一性がないな。次は俺の番か。ううむ。同じ世界から来たというだけで無条件にこいつらを信用するのはリスクが高い気がする。黒崎なんて論外だ。こいつと信用という言葉ほど親和性が無いものは思い当たらん。かといって変に勘ぐられてもな。。。一芝居うつ。か。こいつらも嘘をついてる可能性もあるしな。


「俺は佐々瀬凌牙。ジョブは商人だな。よろしくな。」


 商人とか無難だろ?違和感なんてないはずだ。俺の自己紹介には何も触れられず、最後にカップルの紹介になった。こいつら、大学2年になる前に妊娠が発覚して二人とも大学辞めたカップルじゃなかったか。。。何のために入学したのか理解できんと思った気がする。


「俺は浦田翔。よろしくたのむよジョブは。。。ちょっと恥ずかしいから教えないでもいいか?こいつは篠原雪。こいつのジョブもちょっとな。」

「うん。私もちょっと言いづらいな。みなさんよろしくお願いします。」


 ジョブを隠したいとかまぁあっても何か事情はあるとは思うんだけど、まぁ黒崎は気に食わないだろうな。


「いや、異世界転移ものって何事も始めが危険だからさ、個々人の特性ぐらい理解しておかないと下手すりゃ死ぬと思うんだよ。本当にどうしようもないならしょうがないけど、恥ずかしい程度だったら共有してくれないか?」


 お前、異世界転移もの詳しいのか。俺はそこまで詳しくないけどな。案の定だ。こいつからしたら自分が情報提供しているというリスクを冒している以上、相手が同レベルのリスクを冒すまでよしとしないだろう。まぁ俺としても情報は多いほうがいい。止めはしない。


「そ、そうか。どうしようかな。ゆ、ユキ!ユキは話しても大丈夫か?」

「う、うん。命がかかってるんだもんね。しょうがないよね。」

「そうだな。うん。よし。俺が追っかけ。ユキがアイドルだ。」


 オッカケ?言われた言葉がピンとこない。何だ?追っかけて後で伝えると言うことか?しかもアイドルて?浦田の言葉を聞いた俺たちは頭に疑問符を浮かべて怪訝な顔をする。沈黙に焦り、浦田が続けて説明する。


「スマンスマン!追っかけ!追っかけな!アイドルの追っかけとかの追っかけ。現代でも追っかけやってたからこんなジョブなんだと思う。ユキの方はただのアイドル好きだったんだが何故かアイドルだな。」


 。。。お、俺の商人とか、違和感のカケラもねぇ。こいつら、違和感しかねぇじゃねぇか。ラッキーだ。


 空気にいたたまれなくなったのか、黒崎が会話を変える。


「な、なんかすまん。じゃと、とにかく。これからの方針を決めよう!闇雲に歩くって言うのもどうかと思うけど、ここにいても何も始まらないし、地理も何もわからない。街道や水が確保できる場所を探して移動するのはどうだろう。ひとまずは山の中だし、下り坂を下っていく形かな。」


 性根はクズだが、まともな事を言うな。黒崎。最後に会ってから十数年は経っているが、嫌悪感は消えない。どこまで行っても救えないクズはいる。行動を一緒にするだけでも身の毛もよだつが、背に腹は変えられない。


 今の状況は死のリスクを伴っているからな。


 他の面々からも賛同の声が上がった。早速森へと足を踏み入れる。現状の危険がどのくらいのリスクを伴っているのか判断する材料は少なく、安易に思えるが、ひとまず進むしかない。しばらく進むと、前方の木陰から半透明の物体が現れる。


「ス、スライムじゃね?」

「や、やべぇスライムだ!テンション上がるーー!」


 スライムだ。ファンタジーといえばスライム、スライムといえばファンタジーだ。唐突に現れたファンタジー要素に意気揚々とする男連中。薄い水色の半透明の物体。残念ながら目と口はついていない。それでもテンションがあがる。


「じゃ俺に戦わせてくれないか?」


 黒崎が勇んで足を一歩踏み出す。手にはいつのまにか剣が握られていた。田丸や坂本が顔見合わせ頷きあっている。俺も頷き返しておいた。せっかく自分からリスクを冒してくれるんだからそこは甘えよう。ただいきなり剣が現れたのはどういう理屈だ?他の奴らも特に疑問に思ってないみたいだ。また俺だけ分からないようだな。


 黒崎が剣を構える。距離は10メートル程度。初めての実践だから相手の動きを伺っているのだろう。俺でもそうする。ふとすると、黒崎の姿が消える。気づくとスライムの前で剣を振り下ろし終わっていた。


 言葉も出ずに戸惑っていると周囲から声が上がる。


「2回も斬りつけるとか、ビビりすぎだろ。」

「そうそう。つまづいてたし。」

「ぼ、僕も2回目はいらなかったような。しかもへっぴり腰。」

「スライム、若干避けようとしてたよね。」

「まぁ生き物ってことだし。避けもするわな。」


 俺以外の面々が口々に感想を話す。今のが見えていたっていうのか。人間の限界を超えている。戦闘職でも無い田丸や篠原、浦田も見えてるってことは戦闘職による補正じゃ無いってことか。これも俺だけか。アマテラス様。。。俺の能力の発動はいつなんでしょうか。。。


「あ、なんかレベル上がったみたいだ!レベル2だってよ。」


 黒崎が誇らしそうに剣を担いで戻ってくる。レベルか。レベルの概念があるのか。レベルを上げれば俺も能力が獲得出来るようになるのか?試してみる価値はあるな。


 その後も森の中に足を進める。途中で同じようにスライムが出てきたが、それぞれ、坂本、森井が倒していった。2人とも目にも止まらぬスピードだった。倒し終えるとそれぞれがレベルが上がったと申告する。ただ、少し怪訝な様子だ。どうかしたんだろうか。


 4匹目のスライムが出てきたところで声をかける。


「次は俺にやらせてくれないか?ただ、俺は非戦闘職なせいか武器は持ってない。出来れば槍を貸して欲しい。」

「そうか。なら使えよ!」


 坂本が自分の槍を取り出して渡してくる。


「悪いな。」


 槍を手に取ると同時に田丸が横から声をかける。


「あ、じゃ僕も非戦闘職みたいだから2人でやってみない?ちょっと怖いんだ。僕は料理人だから包丁があるし、武器は大丈夫だよ。」


 田丸。こいつナイスだな。こいつと上手くタイミングを合わせれば能力の無さが隠せるかもしれない。


「ああ。俺からもよろしく頼むよ。じゃ、やってみるか。」


 二人で前に進む。田丸の動きは異世界補正?で俺より早いだろう。だか向こうは包丁で俺は槍だ。リーチは俺の方が圧倒的に上、出遅れても多少なら追いつける。何匹かのスライムの動きを見るに、流動的な動きと裏腹に移動は直線的だ。つまり、進行方向がこいつの正面である可能性が高い。田丸がスライムに向けてゆっくりと歩き出すと同時に俺は円を描くように動き、スライムの正面と思われる方向から外れるように近づく。


 田丸が意を決したように走り出す。早い!田丸の見た目の印象からは考えられないようなスピードで動き始める。それでも戦闘職である黒崎達よりは劣るのか、十分に目で追うことができる。だめだ。それでも早すぎる。タイミングはギリギリ間に合わない。仕方ないか、当たるなよ!


 田丸が振りかぶり、スライムに包丁が当たる瞬間。斜め後方からリョーガの手を離れた槍がスライムに突き刺さった。タイミングとしてはほぼ同時だ。スライムの動きが止まり、身体が溶けていく。


「あ、あ、あ、危ないな!!!」


 田丸が顔を青くしてまくし立ててきた。俺心底申し訳ないと感じているような表情を作り、声をかけた。だてに40年近く生きているわけではない。長いサラリーマン生活で鍛えた申し訳なさそうな顔に騙されるがいい!


「す、すまん。焦って手からすっぽ抜けちまってな。」


 スライムの身体を通り抜け、地面に刺さった槍を引き抜こうとすると、隣から声が上がる。立ち直りが早いな田丸。


「あ、レベル上がったみたい!レベル2だってー」


 さて、俺はどうなる。。。しばらく待ったがレベルが上がる様子はない。また俺だけか。。。どうしたもんかな。考えていると隣から田丸の声がする。


「あれ?佐々瀬くんは?」


 バッドだ田丸!聞いてくるんじゃない。今考えているんだ。


「あぁ。俺もレベ。。。」


 レベルが上がったと伝えようとしたところで頭に声が響く。


<レベルが1になりました。この世界への適用化を始めます。>


 世界が暗転する。数瞬後に身体が地面を打つ音がした。俺、まだレベル1ですらなかったらしい。



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