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幸福と絶望と異世界生活と  作者: ゴルハアミーゴ
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18.魔法の適正

『魔法屋は右手の奥にあります。』


 見慣れない街並みだ。メティスが物資の調達で街のおくまったところまで来ていたみたいだ。奥まったところといってもまだ正午を過ぎた程度の時間だ。暗がりがあるとかそういう雰囲気でも、時間帯でもない。メティスの誘導に沿って歩いていると一軒の民家に行き着いた。看板すらない。外見はこ綺麗だ。魔法屋という言葉からイメージする外見とは大きく異なっている。店の雰囲気すらしない。


『本当にここで合っているか?』


『はい。間違いありません。他の店のようにノックなどは無しで入って問題ありません。』


 取手に手をかけ、少し気合をいれて扉をあける。目に飛び込んできたのは、ファンタジーだった。魔法の様に飛び交う光の粒、いや、普通に魔法だろう。勝手に動き回る箒、棚の上におかれた本はガタガタとひとりでに揺れている。天井は暗く見えないほどに高く、棚は同じく天井の闇に消えるほど高かった。


『おおおおーーーーファンタジー!夢の国だ!これこそほんまもんの夢の国!テンションが上がる!異世界半端ないな!』


『いかがでしょうか。マスターの好みを考え、より喜んで頂けるお店を選んだのですが。』


『ふふふふふ。やりおる。やりおるなメティスくん。ここまで俺の好みを把握してくるとは、素晴らしいぞ!もうお前無しでは生きていけないかもしれん。』


『喜んでいただいた様で何よりですマスター。魔法の適正は奥のカウンターで申し込めるはずです。』


 言葉と同時に嬉しがってる雰囲気が伝わってくる。メティスめ。可愛いやつだ。

 店内は縦には広いが横にはそこまで広くは無い。それでもゆっくりと色々なものに目移りしながらカウンターに向かった。カウンターには老人がいる。こういう店は魔女っぽい婆さんがでてきそうな感じがするが、残念ながら爺さんだ。


「いらっしゃい。今日はどんな様かのう。」


「ああ。魔法の適正を見てもらいたいんだが、できるか?」


「問題ない。30000Wになるぞ。』


「そうか。ではよろしくたのむ。」


 銀貨3枚を渡すと、爺さんはカウンター裏に引っ込んだ。魔法の適正が3千円で見てもらえるとか。ものすごい贅沢をしている気がしてきた。異世界だと普通なんだろうが、俺としてはやはり貴重な経験だ。しばらくすると人の頭以上の大きさの丸いガラス玉のようなものを手にカウンターに戻ってきた。ガラス玉はよく見ると中央にもう一つ丸いガラス玉の様なものが浮かんで見える。


「さて、ではさっそくじゃが、この玉を左右から両手で掴んでじっとしておれ。そのうち自分の魔力が玉の中に入っていくでのう。」


 爺さんにいわれるがまま、カウンターの上に置かれた玉の左右を両手で掴む。1分ほどそうしていただろうか。自分の手が触れている場所から血液の様な赤いモヤが玉のなかに漂い出しているのが分かった。


「そのままじゃ。そのモヤが真ん中の核に触れたら反応が始まるからのう。」


 まぁ痛くもかゆくもないが、じっとゆらゆらをみているのも暇なものだ。というか血液にしか見えないな。これが本当に魔力なのか?


 しばらく待つとモヤが真ん中の核に触れそうな位置まで進んできた。あと少し。あと少し。触れたと思った瞬間、玉の中からは一切のモヤが消え、元の状態に戻ってしまった。


「うん?故障か?」


 パッと爺さんを見ると目が点となった状態でフリーズしていた。なんだなんだ。やっぱり故障なのか?

 少しすると爺さんが動き出す。電池が切れた人形のような挙動だ。


「ああ。故障ということはあるかもしれん。少し時間をくれんか?」


 そう言って爺さんは自らの両手で玉を左右から掴んだ。しばらくすると、俺と同じように赤いモヤが玉の中に広がっていく。モヤが核と呼ばれた場所に触れるや否や、核の色が変わっていくのがわかった。カラフルなマーブル模様。たしか、木星だか土星だか天体を彷彿とさせるマーブルを彷彿とさせるが配色は全然違う。全体を占める割合は緑が最も多く、青、赤、黄、白、黒といった色がごちゃごちゃしている。


「故障というわけではないか。だとするとなぁ。まぁ無いわけじゃ無いがのう。。。ふうむ。」


 爺さんは目を閉じながら独り言を呟いている。なんだなんだ。よくわからないが、俺には魔法適正が無いということか?


「では次じゃ。こいつの取っ手を握ってくれるか。」


 差し出されたのは水差しのような形をした物体で片方には取っ手、真ん中にはフタ、もう片方は筒状になっていて先端に穴が空いている。言われたとおりに取っ手を握ると、急激に何かを吸われるような感覚を感じる。驚きながらも取っ手を握り続けていると先端に空いた穴から何か透明に蠢くものが結構な勢いで出ていることに気づいた。ガスバーナーの火に色がなかったらこんな感じだろう。


「やはりそうなるかのう。じゃ次はそこに立って。そこの前のこことここに手を置いてくれるか?」


 ふむ。目の前の中央には粘土のような色をした土が埋まった木の枠がある。それを挟むにように左右にそれぞれ正方形の枠がある、今、手を載せるように言われた場所だ。まるで手形を取るように指を広げてしばらく待つ。


「そろそろ良いかの。では頭の中で何でもいい。出来るだけ複雑なものを思い浮かべるんじゃ。」


 複雑なものか・・・急に言われてもな。複雑複雑。なんだ?迷路か?


 そんなことを考えていると目の前の粘土のような物体が砂のように動き迷路の形を成していく。かなり単純だ。複雑か?複雑じゃ無いよな。なんだろう?ほかに。スカイツリー?でも形はぼんやりとしか覚えてないしな。


 目の前でスカイツリーがぼこぼこと出来上がる。まぁ一応俺の記憶の通りではあるな。ただ、細部がうろ覚えだから凄まじい不安定感だ。


『マスターよろしければお手伝いいたしますがよろしいでしょうか。』


『おお。じゃ早速たのむ!スカイツリーだ!』


 そんなやりとりをすると瞬時に目の前でスカイツリーの形が造形される。うん!素晴らしい!こんな感じだったな!そして楽しい!次は・・・・複雑なものということはあれだろ!東京の街並み!そう思うと目の前からスカイツリーが消え、地面部分からニョキニョキとビルが伸びてくる。素晴らしい!心踊る!と、ふと夢中になっていることに気づいて爺さんの方に目を向ける。爺さんは停止していた。死んだか?そのうち口だけは動き始めた。独り言だ。


「宮廷魔法師様というわけではないんじゃろうな。なぜこれほどの人がワシのようなところに?あぁこの人は、いや、この方はこの世界の希望じゃ。そもそもが人なのか?人でないとしたら、エルフ。いや、エルダーエルフか?違う。エルフのように耳が長いわけではない。とすると。神様の御使なのか。いや、そうであれば光属性が突出しているはず。とはいってもそれもワシの思い込みかもしれん。進化した人類?エルダー人類?エルダーヒューマンとも言うべき存在なのか?だめじゃ何一つわからん。ワシにはわからん。」


 やばい。この爺さん自分の世界に入っちまっている・・・どうしよう。でも結果を聞かないとな。


「すまんが、これで検査は終わりか?終わりのようだったら結果を聞きたいんだが。」


「は、はいいい!」


 爺さんの曲がった腰がピンと伸びる。やめろ、無理するな。死ぬぞ。


「それでは結果をお伝えさせていただきます。まず、一つ目の検査ですが、こちらはどの属性の魔法に適正があるか確認する魔道具になります。中央の核が光った色に適正があります。人類は皆全ての属性に少なからず適応しておりますので、全ての色が現れる訳なのですが、その比率によって自分の適正がわかる形になります。赤は火、青は水、黄は土、緑は風、白は光、黒は闇、無属性は透明となります。」


 じいさんの口調が完璧に変わってる。結局俺を何だとおもってるんだ。


「となると、俺は無属性に適正があるということでいいのか?ん?俺は全部透明だったが、全色が出るんじゃないのか?」


「はい、単純にそうではございません。ご説明したとおり、全ての属性の色がこの玉に現れていないとおかしいのです。あまりない事例ですが2つの属性が高いレベルで適正がある場合、赤と黄で茶色、青と白で水色など色が完全に混ざった状態となることがあります。ただし、これよりも少ない確率で相反する属性、例えば、火と水属性に適正がある場合、その色は透明になります。」


 その理屈で言うと、透明が3色分と無属性の透明の計4色分の透明があるということでいいか?なんだ。全部透明だとわからないじゃないか。


 はい。あなた様のように全属性に高い適正を持った人類はそう簡単には表れないため、魔道具の限界というものかと思われます。


 ぜ、全属性に適正があるらしい。ありがたいことなんだが、なんだろう。アマテラスの仕業なんだろうか。それとも異世界人間仕様かもしれんな。わからん。


「そうか。次のは何だったんだ?」


「こちらもどの属性の魔法に適正があるか確認するための魔道具でした。先ほどの魔道具と違うのは一番適正がある一つの属性にしか反応しないという点です。全く同一という場合は赤、青、黄、緑、白、黒、透明という順で反応する仕組みになっています。」


「じゃ俺は透明だったから、全属性に適正があるけど、無属性への適正が一番高いということでいいか?」


 おっしゃる通りでございます。無属性は適正を持つ者も少なく、未知の属性と呼ばれておりまして、今後研究が望まれる分野となっております。


『マスター。正しくは未知の属性ではなく、この時代の人々が失ったロストマジックのような存在となります。』


『ロストマジックか。何で俺は人目についたらやばそうな能力ばかりなんだ。。。』


『ざっくり説明するとどういうことができる属性なんだ?』


『端的に言うと魔力の物質化になります。魔力を物質化させてぶつける、足場とする。結界としたり、枷として拘束したりです。生活魔法も無属性魔法となります。』


『生活魔法もか。まぁ詳しくはまた聞こう。」


「そうか。で、最後のは何だったんだ?」


「最後の魔道具はどの属性の魔法に適正があるか。ではなく。魔法使いとして適正があるか。が判定できる道具となります。魔法使いに最も必要なのは魔法を行使する際に事象を具現化するイメージ力となります。あなた様が具現化したものは私には何かわかりませんでしたが、その緻密さは人知を超えるものでした。」


 人知を超えるって・・・スカイツリーも東京の街並みも人が作ったものだからな。人知を超えるってほどのもんじゃないと思うが。まぁ一人の人間が。というと人知を超えるかもしれないな。メティスさん監修は人知をこえるからな。


「あなた様は魔法に愛された存在なのでしょう。あなた様に魔法の適正が無いとするならば世の魔法使いなど全ては塵芥と同然です。差し出がましいようではございますが、あなた様のお力を人類、いえ、生きとし生けるもの全てのためにお使いくださると、ここであなた様にお会いできたこの老体への慰みとなるでしょう。どうか。そのお力を間違ったことにお使いにならぬよう。」


 そういうと、爺さんは深々と頭を下げた。手はイムサーシャ神への拝礼と思われるあれだ。やっぱり神の御使あたりだと思ってるんだろう。俺としてはアマテラスの力?とメティスの力だからなんとも微妙な気分だ。まぁひっくるめて俺の力で良いんだろうけど。


「主人よ。この力は俺の力だ。俺は俺の生きたいように生きる。口出しは無用だ。だが、目の前で助けを求める者がいるというなら助けよう。非道を働く者がいるなら消し炭にしよう。その程度なら望みを叶えてやる。」


「ありがとうございます。それで十分にございます。天界で待つ妻に良い土産話ができました。本当にありがとうございます。」


 爺さんの勘違いだ。まぁいいだろう。勘違いするほうが悪いのだ。人を助けるのも非道を働く者を排除するのも時と場合によるが嘘では無い。

 これ以上長居しては話がややこしくなると感じ、話はそこそこにして店を出た。爺さんは店を出る間際まで少年の様なキラキラした眼差しを向けてきたが、もう何も言うまい。



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