冒険者 30 エルフたち
30
「碧ちゃん、翠ちゃん」
馬車を覗き込むと、女性たちの取っ組み合いが怖かったのか、馬車の隅にうずくまっていた二人がぱっと顔を上げた。
まっくろけな魔女の格好の私を怖がりもせず、飛びついてマントの下に潜り込むように抱きついてくる。
うーん。可愛いぞっ。
「だいじょぶ、だいじょぶ。怖くないから。
それに、お迎えが来たみたいだよ」
マントの下にふたりをかかえこむように戻ると、まだにらみ合いの真っ最中。
二十人のエルフに対して、カラハンの騎士は捕虜の見張りをのぞくたったの四人。
でも、熊さん隊長は怯まない。
小山のようにどっしり立って、近づく私に声をかけた。
「その二人をしっかり見せてやって欲しい。魔女殿」
うー、魔女確定しちゃったよー。
二人をかかえるようにして熊さんと並ぶと、向こうから一人が進み出てきた。
フードを取ったロビン・フッドは長い金髪を編み、革のベルトと鮮やかな鳥の羽を飾った、怖いくらい澄んだ緑の眼の、年齢不詳な美形。戦化粧なのか、頬と目じりに色をさし、インディアン、じゃなかった、ネイティブアメリカンのような雰囲気だ。
人間とは微妙に異なる、繊細な顔立ち。服を着ているのでよくわからないけれど、細身で筋肉質な長身。
小鳥のさえずりのような声で、「碧ちゃん」と「翠ちゃん」に話しかける。
が、二人は私にしがみついたまま、おずおずと相手を眺めると、またマントに顔をうずめてしまう。
どうしたの?あなたのお仲間じゃないの?
押し出そうとすると、小鳥のような声を上げて、ますますしがみつくばかり。
私は困って熊さん団長を見上げた。
「仲間のエルフたちではないの?」
向こうも困惑気味に見返してきた。
「馬車に連れて行って待て」
私たちを下がらせると、またにらみ合い。
やれやれ。
馬車に戻ると、いい匂い。
鍋の番をしながら、お婆さんがちゃっかりパンとスープを食べていた。
「ほれ。腹が減っては戦は出来んぞ」
パンを添えたスープをもらい、二人に進めてみるけど、やっぱり首を振る。
うーん。
「あの若者に聞いてみよう」
耳元でヨミの声がした、と思ったら、もう姿が消えていた。
新年おめでとうございます
なんとか松の内に投稿することが出来ました
今年もよろしくお願い申し上げます




