冒険者 28 馬車の旅 その4
28
「カラハンの奴らが出てこなければ問題はなかったんじゃ。
パンタールではつてがある。
あの二匹を連れて行けば大金を払うぞ」
こいつらぁー・・・。
『パンタールの官憲とつるんでおるなぁ』
袖の下を使ってエルフたちを密輸入するつもりだったのか。とんでもない奴らだ。
腹を立てて離れようすると、若い方が言った。
「あの子たちをお願いします、とても幼いから、変なものを食べたらすぐ弱ってしまう。
とても繊細な子たちなんです」
だから・・・。
そばに寄ろうとする私を、後ろからヨミが止めた。
「遥」
緊張した声で言う。
「馬車の方へ戻れ。ゆっくりと」
え?
どうしたの?
「いやな感じがする」
ええ?
「マント、何かおかしい?」
【確認中・・・確認中・・・確認・・・】
「遥、急いで」
ヨミに促され、馬車に近づくと、何か騒がしい。
ヨハン君が私を見て、あわてて駆けよって来た。
「良かった、早く来て、あれを止めてください!」
焚き火に近づくと、うわあ。
女性ふたりが壮絶な取っ組み合いの真っ最中。
美人二人組の片割れは応援中、お婆さんは横で大笑い。
って、見物中の騎士たち、誰か止めなさいよっ!
「止めなさいよ!あんたたちっ!」
近づいて引き分けようとした私は、お姫様からどつかれて尻餅をついてしまった。
「邪魔しないでよっ!この雌ブタにおもいしらせてやるっ!」
「なんだとこのあまっ子がっ!」
「きいーっ!」
もおーっ!
飛び起きた私は、焚き火のそばの水桶をつかんだ。
「喧嘩なんかしようって奴は、これでも・・・くらえっ!」
桶の中の水を二人の上にぶちまけ・・・ようと・・・。
『主っ!』
どっぱあーーーん!
水桶から。
とんでもない奔流が溢れ出した。
流れだした水は二人を押し流し、竜巻のように渦を巻いて空中に駆け上がり、大きく広がって、少し離れた林の樹々に、どばしゃーっと滝のように降りそそぐ。
すると、水に叩かれた樹々の枝から、ばらばらと人が降って来た。
水と一緒に地面に叩きつけられる者、弓矢を放り出して受け身を取る者、あわてて枝にしがみつく者。
あっけに取られて見ていると、熊さん団長がまず立ち直った。
空に広がった水の残りが雨のように降り注ぐ中、駆けつけて、剣を抜き、叫ぶ。
「敵襲ーっ!」




