冒険者 12 魔獣
12
「みんな、頑張ってっ」
王都を脱出する時に使えたこれだけは、無意識に出るらしい。
声に出して応援すると、ヨミの剣がうっすらと光を帯びてきた。
宙を飛んで飛びかかった最初の一頭を盾で弾き返し、続く一頭を切り下ろす。
三頭目が、帽子の風の魔法で顔を切り裂かれ、転げまわる。
弾かれた地面を蹴ってもう一度飛びかかって来た初めの闇狼が、顎の下から頭まで貫かれる。
一瞬で、三頭。
茂みが揺れて、もう二頭飛び出してきたけど、風の一陣に怯んだ所に突き出されるヨミの剣に、次々と倒れていく。
あと一頭は慎重になったのか、遠巻きにして、ぐるぐる歩いている。
あと一匹だけ・・・。
ちょっと気が緩んだ私は、倒れた狼に目をやって・・・。
驚いて、固まってしまった。
死体から、血が出ていない。
かわりに溢れ出したのは、ぶつぶつと、泡立っているように見える、黒い液体。
皮膚病にかかっているように所々禿げた毛皮が、ぐずぐずと崩れていく。
今まで意志を持ち、動き回っていた犬型の獣が、ひどい匂いを放つ腐肉の塊に変わって骨から剥がれ落ち、その骨もガラガラと崩れて泡立つ液体に飲み込まれていく。
これが・・・魔物・・・?
「うぐ・・・ぐぇ・・・」
顔をそらした私の眼の端に映る、こちらに向かって飛びかかる、巨大な闇狼。
「わ・・・!」
悲鳴をあげる暇もなく、ヨミの剣がその頭蓋を真っ向から切り裂いた。
『主は下がっておれ!あぶないじゃないか!』
最後の魔獣は、私の足元で、ざらざらと砂のように崩れていった。
砂は液状になり大地に広がる。
ひどい匂いがぶわっと私の方に吹き付けて来た。
いえ、臭いじゃなく、これ・・・。
なんと形容したらいいのか。
邪気、毒気、悪意、呪い、憎悪・・・。
真っ黒い、息が詰まる、ごちゃごちゃの・・・。
「これが、『瘴気』だ」
ヨミが言った。
『それの薄まった、ほんのかけらじゃな』
帽子が続ける。




