冒険者 3 冒険者(なりたて)
3
国の半分を横切って、北の山にあるアトス・クアトロス神殿に行くには。
山岳地帯の入り口にあるパンタールの街まで、公道を乗り合い馬車で旅して一か月。
馬を飛ばせばもっと早いが、私、遥は日本人。
乗馬なんてしたことがない。
子供のころ、イベントで引き馬されたポニーの上に座ったことがあるだけだ。
そして黒ずくめの魔女の格好をした聖女は、きっと国中に指名手配中。
だから私たちは冒険者となって、徒歩で道なき荒野を一直線に北を目指す。
・・・はずだったが。
野宿した次の朝。
洗顔とシャンプー代わりに生活魔法の『洗浄』をかけたはずなのに、町でそろえた中古の装備、革のブーツやカバンまでぴかぴかになってしまって、目立ちすぎると帽子に怒られたし。
森の中で発火の魔法は使うなと、渡された火打石はぜんぜん火がつかないし。
ヨミが使ったら一発でパッと火花が散って、火口から煙が上がった。くやしい。
値段は張るけど、魔石を使ったライターみたいな道具があるというので、そっちを買えばよかった。
そして、歩いて、歩いて、歩き続けるハードなウォーキングは・・・。
私には、無理だ。
ごついブーツで一時間歩いて、音を上げた。
し、『身体強化』ってかけられない?
『まだ魔物にも出会っておらん。奥の森にも入っておらんぞ。こんなことでどうするんじゃ』
他人事だと思って。
自分の足で歩いてもいないで、眼の前でふわふわ浮かんで文句言ってる奴め。
「遥、一気にやるのは無茶だ」
ぜーぜーあえいで落ち込んてしまった私に、ヨミが言う。
「体力がないのはよくわかった。
本当に『冒険者』になりたいなら、Fランクの初心者として基礎を学ばなければ、怪我をする。
それには旅の方法を変えなければ。
街道沿いに『採取』の練習をしながらゆっくり進み、夜は宿を取ってしっかり休もう」
時間はかかるが、確実に行こう、と。
うん。
ゲーム感覚でいちゃだめだね。
ここは、現実。ここは現実。
帰れる望みが薄いんだから、こっちの世界で生きて行けるように、一から物を覚えていかないと。
私、ちゃんと『冒険者』で生きて行けるようになりたい。
もらったギフトは使えないものばっかり多いし。
『薬師』と『調合』がついてるから、ワクワクして、昨日の街で中古の調合セットを買って、収納に入れておいたの。
乳鉢と乳棒。アルコールじゃなく魔石ランプとビーカー、漉し器と数本のガラス瓶のセット。
「百科事典、初級ポーションの作り方を」
『『薬師』レベル1で精製可能な回復薬。薬草をすりつぶして水を加え、加熱して漉したもの』
そして、作ってみたのが・・・。
『鑑定』
【ドクミダ草をすりつぶして水を加え、加熱して漉したもの】
・・・なぜに?
「百科事典、詳細って、出る?」
『すりつぶす時点から微量な魔力を徐々に加えていく。加熱時の温度と抽出時間、魔力の注入量で効力に大きな差が出る。漉した後、『薬効保存』をかけ、変質を防ぐ』
・・・魔力の微調整が出来ないと、作れない・・・。
・・・魔力が感知出来ず、コントロールが出来ない私じゃ作れない?。
あたりにはドクミダ草のきつい匂いが立ち込める。
うん、この匂いじゃ人気は出ないわ。
『主、神殿に着くまで、魔法の事は忘れろ。
暴発したら、何が起こるかわからん爆弾じゃ』
魔法を使わず私に出来る事って・・・。
スキルで取った『鑑定』と。
あと、『裁縫』と『料理』・・・・・・。
・・・だけ?
わたしはがっくり膝をつく。
せっかく『冒険者』になったのに・・・。
・・・落ち込んだ穴から這い上がれそうにないわ・・・。




