聖女 54 冒険者 その6
54
『常識外れにもほどがあるっ!
森の中で炎系の魔法をぶっ放つ馬鹿がどこにおるっ!』
・・・ここにいまーす・・・。
『生活魔法』のはずの『火』を放った私を、『水』系の魔法で相殺した帽子は、呆然としている五人をヨミがあっという間に当て落とし、武装解除して縛り上げても、まだかんかんに怒っていた。
森の中では、小さなたき火を起こすのも慎重にして、後の火の始末をしっかりしないと、森林火災を引き起こして大惨事になってしまうって。
ごめんなさい、わたしまだ、ゲーム感覚が抜けてないわ。
ここは現実。ここは現実。
その日の夕方。
街道沿いにある小さな町のギルドの出張所は、髪の毛が焼け焦げてびしょぬれになった五人の男を強盗の現行犯だと突き出した一般市民の二人連れに、仰天したのだった。
髪も眉毛も無精ひげも焼け落ちた、のっぺらぼうみたいな男たちを人相書きと照合するのは一苦労だったが、五人ともギルドカード持ちの冒険者崩れだったので、身元が確認出来、護衛していた商人を殺して荷を奪った犯罪者とわかり、ささやかな賞金が出た。
そして。
「冒険者ギルドに登録だね。
こちらの用紙に名前と出身地を書いて。
ギルドカード製作には、真偽判定の水晶を使うから、嘘を記入したらすぐにばれるよ」
小さな町なので、冒険者ギルドは酒場も兼ね、受付のギルド嬢は酒場の女将さんの副業だった。
「えーと、呼び名でいいよね、私、遠方の出だから、故郷の字はとても難しいの」
「へえ、どう書くの?」
「メモ用紙に漢字で『藤堂寺遥 東京』と書いて見せると、あまりの字画の多さに、女将さんは眼を白黒。
うん、小学校で書くのに苦労したのよ、本人も。
「ほーっ。初めて見るよ、こんな字。出身地はどこだって?」
「東京。難しければ、トキオでもいいわ。海に囲まれた小さな島国だけど、豊かな首都の生まれよ」
と、空飛ぶスーパーシティ風に訛って言って、誇らしげに胸を張る。
「へえ、沿岸諸国人は初めて見るよ。ずいぶん遠くから来たんだね。
沈黙は、肯定ではない。私は後の問いだけに答える。
「故郷はここから凄く遠いわ」
一旦死んで、すべてリセットされたヨミは、ナンドール出身のヨミで通った。
しばらく待って、私たちは小さな鑑定水晶に手を置いて、「トキオのハル」と「ナンドールのヨミ」という、ドッグタグのようなFランクのギルドカードに登録を済ませたのだった。
鑑定で引っかかったら、全力で逃げ出さなきゃ、と覚悟してたから、ほっと一安心。




