聖女 52 冒険者 その4
52
そうして今日も、街道からあまり離れないようにして北へ向かう。
あたりは明るい森。
枝打ちがしてあったり、下草が刈られていたりするのは、農村の人たちが薪や干し草を作るのに利用するからだそうだ。そのため樹々は適当に間引かれて陽射しが入り、踏み分け道もついていて歩きやすい。
そして餌が豊富なのか、生き物も、多い。
石につまずきそうになってヨミに支えられたら、石じゃなくて大きな蛙だったり、邪魔な木の枝を払おうとしたら、さっとヨミの手が伸びて、蛇の頭をつかんでくれたり。
人手が入っている森だけど、うん、やはり街道と違って、危険は多いね。
『主、やはり街道を行かんかい、危なっかしくて見ていられん』
帽子がうなった。
むう・・・。
『『探索』のギフトも、主につけるべきだったなあ・・・。
これでは最低Fランクの冒険者資格も取れんぞ』
観察力不足と注意力散漫を、指摘されてしまった。
ハイキングというものをしたのは、小学校の遠足の時。
都会っ子なんて、こんなものでしょう。
公園の散歩さえほとんどしてない私ですもの。無理ないわ。
しかし、『探索』かー。『観察』かー。うーん。
何かがちらっと眼をかすめたような。
私は視界の端に入った、てっぺんの枯れた高い木を見直す。
「ねえ、帽子。
あの木の上の方の、銀色の物」
帽子はふらふらと上へ上がっていって、三階建てくらい高い処の、細い枝にたどり着く。
『ほう、でかいキノコじゃ』
ウィンドカッターでさくっと切り取って、拡げたマントにすとんと落としてくれた。
日本のサルノコシカケに似た形の、一キロくらいもある、固い銀色のキノコ。
『鑑定』っ!
【銀仙壽茸】 薬用になる希少なキノコ。高所や崖の中腹などに生えるため、採取は困難を極める。
普通拳大の大きさ。性的不能の特効薬として、大変大変高値で取引される。
〇イアグラじゃんっ!それも特大っ!
わあわあ、お宝げっとーっ!
「高価なものなのか?」
あまり喜んだので、ヨミが笑いながら聞いてくる。
「うん!」
あー、えーと、でも、説明はなしねー。
これ一つで装備が買えちゃうかもー、とわいわい騒いでいると、ふっとヨミの顔が緊張した。
【未確認人物、複数接近中】




