聖女 51 冒険者 その3
51
知識はあっても、記憶のないヨミ。
でも、ナンドールで対価として殺されたヨミは、この国では知られている顔かも。
銀のメッシュの入った黒い髪は、とても特徴的だ。
「心配はいらない。遥。
俺が『暗殺者』だったのなら、世間に顔が割れるような行動はしていないはずだ。
そして、知り人にとっては、俺はもう、この世にいない者だ」
「何があっても、他人の空似で、押し通す。
今の俺は、『りせっと』された、きみの仲間ヨミ。
過去に引きずられることはない」
サファイアブルーの眼が、焚き火に煌めく。
自分が『暗殺者』だったと知った時の暗さのない、晴れ晴れとした声だった。
帽子が見張ってくれるというので、マントに大きくなってもらって包まり、焚き火の横に転がって眠った。帽子もマントも、眠りは必要ないらしい。
夜中に冷えてきたな、と思ったら、大きな白い毛皮が横に来て、ぴったり並んでくれた。
私はモフモフを堪能しながら、温かく眠りについたのだった。
マントについたギフトの『異次元収納』は、時間経過を止めるも速めるも自在だというので、昨日入れておいた熱々の串焼きと市場で買った林檎もどきで朝食にする。
時間指定が自在だというので、ヨミはとても驚いた。
『収納』持ちはまれにいるし、マジックバッグも存在するが、時間は多かれ少なかれ経過してしまうのだそうだ。
「ダンジョン探索には重宝される仲間だ」
おお、この世界には、ダンジョンもあるのか!
『じゃが、大収納が出来るものは、強制的に軍に徴用されてしまうからの、剣呑、剣呑』
・・・このマントの『収納』って、無限じゃなかったっけ・・・。
【肯定です】
・・・知らないことにしよう・・・。




