聖女 48 旅立ち
48
王都ナンドール郊外。
日本の松並木みたいに両側に木を植えた、大きな隊商でもすれ違えるほどの広い道が、のどかな田園風景の中をどこまでも続く。
人の足で一日の距離ごとに旅籠、馬車で一日の距離ごとに、隊商宿。
王都といくつかの都市を結ぶ公道がよく整備された、ナンドールは豊かな国だった。
『長年戦もなく、魔獣の被害も少ない国じゃ。
聖女を輩出する唯一の国を、攻めようとする者はおらん』
それでも農村地帯を離れれば、荒野と未開の森になり。
目指すアトス・クアトロス神殿は、国の半分を横切った北の山の中。
『まずはどこかの隊商と一緒に、村や町を辿りながら、公道を北へ向かうのが良かろうのう』
そうして荒野を横切ると、山岳地帯の入り口に、パンタールという町がある。
道はそこで二つに分かれ、一方は峠を抜けて隣国ゴラン、その先のカラハンへと伸びていく。
もう一方は、山岳地帯に分け入って、アトス・クアトロス寺院に向かう巡礼道。
しかしヨミは首を振った。
「国の最重要人物が消えたのだ。
王都の外へ探索の手が伸びれば、隊商は真っ先に目を付けられる」
ヨミは静かに続ける。
「聖女召喚の儀が行われたのは、公になった話だ。
その聖女が、王宮のど真ん中で攫われる。
王宮魔導師や、神聖騎士団長の眼の前で」
そりゃ、あいつらが私を誘惑しようと、めっちゃ油断してたからで・・・。
なんて、言い訳は出来ないよね・・・。
アンドレア以外、ヨミが使い魔じゃない事は誰も知らないんだ。
「どこかの国のスパイが、聖女を手に入れようと暗躍していたと思われる?」
映画の中の、誰かみたいに。
そういえば、あの映画の第二作、予告で楽しみにしてたのに見られなくなっちゃったなぁ。
「そう思うのが自然だろう。
今後国がやることは、聖女が消えたことを隠し通すか、どこかの国のせいにして大々的に騒ぎ立てるか。
そして、その間にも、必死で捜索を続ける」
うわ・・・私たち、あの門の所のカラハン国の熊さんに、とんだ貧乏くじ引かせちゃったかしら・・・。
『だが、探す相手を、どう形容して指示を出すかのう。
白い虎を連れた魔女か。神聖魔法を使う聖女か』
帽子がくっくっと意地の悪い笑いをもらす。
そして絶対に傷つけてはならないとあっては。
捜索をまかされた側は、頭をかかえてしまうだろう。
『公道を使うのは見つかる危険が高い、となると・・・』
「荒野を横切って、パンタールを目指そう。
猟師や冒険者のように」
ボウケンシャ・・・冒険者?
うわー、私が?『冒険者』ーっ?




