聖女 39 たくらみ その2
39
『ギフトはついとるんじゃ。しかし発動しておらんものがいくつもある。なぜじゃ。あの神女めが手を抜きおったのか?』
【・・・・・・・・・】
『わしがレベル1の魔法を撃ったところでどうなるんじゃ!
この国の最高位の手練れどもじゃぞ!
動けぬ主にくっついたまま、どう逃げろと言うんじゃ』
【・・・・・・・・・】
『そもそも主が無防備無責任すぎるわ!
美形相手に気を抜きおって!この、年・・・』
おい。
聞こえてるぞ。帽子。
『主!気が付いたか』
さっきから聞こえているんだけど。
だけども身体の自由がきかない。
ゆったりとしたソファに沈み込むように座ったまま。
手足の力がぬけてふにゃふにゃ。
そうだ、ヨミは?
『あいつ、逃げおったわ』
逃げた?
『主が倒れた途端、姿を消しおった。
召喚を解かれた使い魔が戻っていったと皆思っとるが、ありゃわしがさっき使った『鏡反射』の強化版か何かじゃ。それきり姿を見せん』
そうかー。逃げたのか。
安心と、心配と、落胆の混ざったへんな感じだ。
彼なら一人でだって生きていけると思うけど、獣人を嫌うこの国で、記憶のないままじゃ、連れてきた責任を感じてしまう。
ところで、私、何をされたの?
『あの金髪王子めが、手に何か仕込んどったようじゃの。
使われたのは「ダルガの根」を主成分とする弛緩性の薬物じゃ』
呼吸は普通に出来るし、頭もはっきりしてるけど、動かせるのは目玉くらい。
やだ。怖い。悔しい・・・。
鼻がつんとして涙か出てきたけど、拭くことも出来ない。
目をぱちぱちさせて必死でこらえてると、向かいのドアが開いた。
目玉を向けると、入って来たのは金髪王子と銀縁眼鏡。
「お目覚めかな、聖女アルカ様」
もう!聖女じゃないってば!まだ!




