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聖女 3  聖女?召喚



「きゃーーあーあーあーーーうーーーぐぇーーー」


 登っていくとも落ちていくともつかない奇妙な感じに吐き気をおこし、私は眼を閉じ、ただ一つの命綱のように、組んだ相手の腕につかまってぎゅうと力を込めた。


 やがてぽすん、と、暖かいものに乗った感じ。

 上昇感と落下感がなくなって、ほっとする。


 周りは・・・すごい喧噪だ。



「ま、魔女だ!」

「聖女ではない!何と言う事だ!」

「召喚に失敗したのか!」

「魔女と使い魔だ!恐ろしい!」


 日本語じゃない。

 でも、意味は分かる。


 人を呼びつけといて、何かーってなこと言ってるのさ。


 しかし、眼を開けたら、白い毛皮が飛び込んできて、私は仰天した。

 あんなにぎゅっとつかんでいたはずなのに。

 私が腕を組んでいた相手は、裸の男ではなく、巨大な白い虎だった。

 寝そべったその大きな体に、寄っかかるようにして、片方の前足をしっかり抱いてたんだ、私は。


 驚いて固まった私のそばで、虎はめまいがするように頭を振って、その眼を開く。

 見覚えがある、澄み切った、サファイアブルーの眼。

 さっき見ていた、この素晴らしく青い眼・・・。

 なんとなく納得して、私はささやいた。

「・・・あんた・・・あの、ヨミ?・・・」

 虎はうなずきもしないが、動きもしない。

 



 周りの喧騒の中から、なぜか一つ一つの声が、はっきりと聴き分けられる。



「魔女だ・・・なんてことだ・・・」

「聖女じゃないのか・・・うら若い乙女じゃないのか・・・」

「・・・可憐な処女のはずが・・・処女が・・・ぐすっ・・・」

「あれの相手を・・・せねばならんのか・・・」


 お゛い゛、こ゛ら゛あ゛。

 聞こえてるぞ、おまえらぁ。

 アラサーの処女に向かって、なんてった、おまえらぁ・・・。


 もう、ものすごく傷ついた。


 人をいきなり呼びつけといて、好き勝手言いやがって・・・。



 

『百人の対価』・・・思い出して、背中が、ぞくりとする。


 人の命を、なんとも思っていない国・・・。

 こんな世界に、私はたった一人で放り出されたのか。

 だけど。

 むっちゃくちゃ、むかつく。

 誰がこんな奴らの聖女になんか、なってやるもんか。


 ふるえる両手を握りしめる。

 黒いレースのフィンガーレス。

 丹精込めた、サテンのマント。

 とんがり帽子も、そのままに。


 

 よし。


 舐められたら、負け。


 よく見ろ。おまえら。


 私は、魔女だ。

 

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