聖女 33 教母マデリーン その4
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いつの間にかヨミが後ろにいてくれたんで、ずぶ濡れになった私はヨミの腕にはまり込んだ形で、腰をぬかしていた。
教会前の涸れ池には、とっぷん、というくらい、大量の水。ざあざあと流れ出して通りを濡らしていく。
子供たちはおおーっと叫んで大騒ぎ。
「すっごーい!あたしおせんたくやさんやめてまじょさんになりたいー!」
メイちゃんがきらきらの眼で見上げて言ってくれた。
「詠唱もなしに水系の大魔法を・・・やはり、あなたは魔女・・・」
いやいや、アンドレア、これって生活魔法でしょ。
おせんたくやさんとか、ご飯をつくるたぐいの・・・。
ほら、この濡れた服を乾かすのだって・・・『ひ・・・。
「やめておけ」
『やるんじゃないっ!』
ヨミと帽子に二重奏されてしまった。
そうかー、私でも魔法がつかえるんだー。うんうん。うふふふふふふふふ。
だって、魔法だよ。魔法だよ。うふふふふー。
不気味な笑いを漏らしながら、何とか立ち上がると、帽子が『火』と『風』を使った温風を出してくれて。
あ、そう、これよ。これがやりたかったの。
しかし。『微妙な調整が必要じゃから、絶対にやるんじゃないぞ』とわざわざ釘を刺されてしまった。
そうこうしているうちに、施療院から教母様が出てきた。
小さな女の子を連れたお母さんらしい人と一緒。
「ミルちゃんー」
「よかったー」
他の子と同じくらいの年なのに、お手伝いをしてて鍋をひっくり返したらしく、両手の包帯が痛々しい。
涙目だけど、心配してくれた友達に笑いかける。
火傷って、いつまでもひりひり痛いんだよねー。
私はいつも千歳にしていたみたいに、ぽん、と頭を叩いて言った。
「頑張って偉かったね。いたいのいたいのとんでけー」
きらきらっと眼の前が輝いて。
ぱーっと淡い光が広がった。
「あらあらっ!」
教母さまが、びっくりした声を上げた。




