聖女 32 教母マデリーン その3
32
「だったら、その姿は何なんです!」
アンドレアが悲鳴のように叫ぶ。
「それは伝統的な黒魔術師の衣装ですわ」
教母様が続ける。
えーと・・・。
ハロウィンの仮装パーティーでした、なんて、どう説明したらいいのよー。
ヨミがぴくりと身体を起こした。
部屋の戸をどんどんと叩く音。
「教母様!いらっしゃいますか?
娘のミルが熱湯を浴びてしまったんです!」
教母様はさっと立ち上がった。
「ごめんなさい、怪我人だわ。お話はあとで」
あわてて、外へ出ていく。
私とヨミはあとを追った。
アンドレアが付いてくる。
教会の隣の建物へ、教母様は駆け込んでいった。
白い平屋のそれが施療院らしい。
入り口には、心配してついてきたのか、子供が十人ほど。
「教母さまー」
「ミルちゃんがー」
口々に叫んでいるうちに私に気付いた。
「あ、魔女だー」
「魔女さまだー」
「まじょちゃまー」
あ、そっか、衣装をごまかすの忘れてた。
この服装って、そんなに定番なのか、ここでも。
子供たちはこの格好でも物おじしないなー。
「魔女様、教母様のお友達?」
「教母様のお客様だったの?」
幼稚園年少組の、姪っ子の千歳みたいだ。
・・・千歳・・・もう会えないのかなー。
私の作った魔女の衣装が形見になっちゃったかなー。
ちょっとしんみりした私が否定しないので、お友達認定した子供たちが寄って来た。
「魔女様、魔法見たいー」
「ばーか、魔女の魔法は凄いお金がかかるんだって、母ちゃんが言ってたぞ」
「まほー」
「魔女様、メイの魔法、見てー!」
前に出てきたのは、千歳くらいの女の子。
えっ?魔法?
片手を出して、なにやらごにょごにょ唱えて、「えいっ!」
ぽっちょん
手のひらに、スプーン一杯くらいの水。
『ほほう、『生活魔法』じゃな。かわゆいのう』
「うふふ、メイはおっきくなったらおせんたくやさんになるのー」
ご自慢の、魔法らしい。
そうか、生活魔法って竈に火を入れたり、飲み水を出したりする定番の、あれね。
地水火風の初期魔法。
たしか私も持ってたよね。『生活魔法』のギフト。
こんなちっちゃな子でも使えるんだ。『水』って。
どっぱーーーーん!




