聖女 31 教母マデリーン その2
31
まだ眼を赤くして、アンドレアが戻って来た。
「失礼をいたしました」
そして、教母と私を見比べる。
ヨミは黙って壁際に立ったまま。
「それで。マデリーン様。
この方は、聖女様なのですか?」
教母さまはこてん、と首を傾げた。
「膨大な魔力を持っていらっしゃるのはわかるわ。
でも、それ以上の事は私には知りようがないのよ」
それを知ろうとして子爵は私を連れてきたのか。
対価だった姉のギフトを私が継いだか知るために。
私はちょっとふてくされて聞いた。
「聖女って、いったい何なんですか?」
魔獣を生み出す瘴気を払う、神聖魔法の持ち主。
しかし何で、他の世界から召喚されなきゃいけないの?
「民の嘆きが、天に届いて遣わされた聖人。国民はそう信じていますよ。ドア・ナンドールは、その聖なる召喚の儀式が出来る、祝福された聖なる国だと」
「でも、百人の対価が必要だ、などと、一般市民は知らないんですね」
「私も、姉に打ち明けられるまで知りませんでした」
「知っているのは王族と、一部の貴族と教会関係者だけだと思いますよ」
教母様は再び首を傾げる。
「でも、聖女様は自らの意志で、この世界を救ってくださるのではなくて?
八十年前に召喚された聖女様は、この国の王子と恋に落ち、愛する者の国を救うため、聖騎士団を率いて、ルウム大陸全土をめぐる、浄化の旅に出たと伝えられていますのよ」
その、恋に落ちたってとこが、怪しい。
私に『魅了』や『幻惑』を仕掛けてきたし。
『魅了』されて、王家の良いように使われたと言う事じゃないの?
えい、もう!
「だいたい、神聖魔法も何も、私魔法を使ったことなんかないんですよ!
私の住んでた世界には、魔法なんて存在しないの!」
ぶっちゃけてやった。
二人はえ?という顔で、固まった。




