プロローグ 万聖節前夜
気軽に楽しんでいただければ、うれしいです。
プロローグ
「はるか姉。かっこいー」
「魔女だぁ。いいなー」
「とりっかとりーとー」
今夜はハロウィン。
力作のつばの広い黒のとんがり帽子をかぶり、黒のカシミヤセーターに、長めの黒のスカート、濃いめのシャドーに黒っぽい口紅。黒いレースの手袋に、メーターん百円の黒のサテンをたっぷり使った、赤い裏地のマントをはおれば。
はい。魔女の登場ーっ。
姪っ子の千歳には、踏んづけないよう短めにしたマントにおそろいのとんがり帽子、こっちは主役だからど派手な深紅のリボン付きで作ってやって、とっても喜ばれた。
おっきな魔女とちっちゃな魔女のペアの完成。
某ねずみランドの策略か、異国の風習がすっかり定着しちまって、子供たちの仮装パーティーはどんどん派手になるばかり。
共働きで忙しい姉から、姪っ子のために手縫いの衣装とパーティーの付き添いを頼まれた私は、布地代が向こう持ちなのをいいことに、ぬめるような光沢をもった上等の黒いサテンを張り込んだ。
ちょっと高めになるけれど、既成のドレスなんか買ったら、眼が飛び出るような値段するんだから。
毎年夏と冬には、自分と友人たちのコスプレ衣装を作ってるから、帽子とマント制作なんて簡単よ。
しかし、付き添いまで仮装必着のパーティーやらかすなんて、金持ち連中はすごいわね。
お姉ちゃん、良い旦那を捕まえたわ。
小悪魔やら骸骨やらパンプキンやら、なぜかプリンセスと妖精までいる幼稚園児たちとわいわい過ごし、お菓子の山をかかえてあくび連発の姪っ子を姉のマンションに送り届けた私は、仮装のまま玄関を出て、一人住まいのアパートへ帰る道すがら、夜空を仰いだ。
「万聖節前夜。か」
元はキリスト教が普及する以前の、ヨーロッパの古いお祭りだったはず。
お盆みたいに、死者の魂が帰ってくるんだっけ。
こんな子供のお遊びに変わっちゃうなんて、日本って平和だねー。
あー。お菓子食べ過ぎで胸がやけるわ。
この格好でビール買いにコンビニに入るのもなぁ。
と、一歩踏み出し・・・。